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まほろば流麗譚

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#物語

白蛇妖艶未望節 3

白蛇妖艶未望節 3

「良源、どうだった。」

診療場から出て来た皆川良源に柳生宗矩が問うた。

「仰る通りってやつですね。目立った傷が無い。これじゃあ溺れたとも言えますし、それ以外なら何で死んだって話でしょうよ。」

服部半蔵が運んだ遺体を良源は調べていた。

「あ、ただ小さな傷なら二つ程有りましたね。小さな虫に刺された様な穴が並びで。」

「気になるか。」

「そいつが一番新しい傷に見えます。ここに運ばれた遺体には

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白蛇妖艶未望節 2

白蛇妖艶未望節 2

勇也たちとは別に離れて、中山鉄斎と皆川良源が呑んでいる。それを見付けた勇也が目で挨拶をする。

「勇さんが来たかい。こいつは久しぶりに、ここの屋台の面子が揃いましたねえ。」

鉄斎が良源の茶碗に酒を注ぐ。

「ん?ああ、まぁ、そうだな。」

「何です?らしくありゃせんね。お紫乃さんの事ですかい?」

紫乃は妖珠に魅入られ、雪女を生んだ。それを鉄斎と良源が仕留めていた。皆川良源は金で人の恨みを晴らす

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白蛇妖艶未望節 1

白蛇妖艶未望節 1

ボロ小屋の中には若い男が横たわっていた。

「ひとりにしてしまって、、、寂しかったかい、草太。」

そこに白い着物に紺の帯をピシリと締めた美琴が入ってくる。

「爺さん婆さんが側に居てくれたら良かったものを。歳はとっても忍びの血は抗えない。困ったものよ。そうそう喜んでちょうだい。六つ目の珠が見つかったわ。」

好きに話す美琴は、周りに誰も居なくなってからは饒舌になっていた。甲賀妖術忍頭領である秋月

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三忍道中膝転げ 13(完)

三忍道中膝転げ 13(完)

「もし、翁様。戻らずとも良いですよ。」

三人が出て来た穴に戻ろうかとした時、女の声がそれを止めた。見れば白い着物を身に付けた少女が立っている。

「はあぁあ!おらぁ、もう嫌じゃの。」

「この城は尋常ではない者しか居らぬのか。また気付かんかったわい。」

「この世では無いのかもしれんな、この城は。」

白い着物の少女が微笑む。まだ幼さを残す顔立ちだが、淀とは違う妖しさにも見える唇の華は、人の心に

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三忍道中膝転げ 12

三忍道中膝転げ 12

「さて、どうするかだわい。」

「おらぁたちは忍びじゃあ。忍んで降りるしかなかろうよ、の?」

「羽は燃やされてしまった。それしか無いだろうな。」

三人は闇に紛れがら話している。忍びの声は他の者には聞き取れなくも出来る。人混みではこうやって意思の疎通を図るのだが、今回はいささか勝手が違う。

「ここから降りれんもんかのぅ。」

五助が廻縁(ベランダの様な部分)の高欄(手摺り)からひょいと顔を出す

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三忍道中膝転げ 11

三忍道中膝転げ 11

「火薬の匂い、、」

天守閣にて、隠し部屋へと繋がる梯子を見付けた服部半蔵は、中から香る僅かな匂いに気が付いていた。

「行くしかあるまい。あの茂平という男、何やら天下の大事に関わっていると見た。淀や秀頼よりも、更に深い闇に。」

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「分からんわい、、何処も何の変わり映えもせん。」

「んー、んー、、なあ、ねずみが鳴いとるの。」

「俺には聞こえん

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三忍道中膝転げ 10

三忍道中膝転げ 10

服部半蔵の目は天守閣の上で青く燃える火を見た。
あの青い火は燐だ。燐を使う者には心当たりがある。
甲賀忍び・猿飛佐助に違いない。佐助とは幾度もやり合ってきた。あの関ヶ原の影にも暗闘は有るのだ。

大戦さは一日で片が付いた。が、そこまでには忍びの働きがある。あの御披露目の様な戦さなぞ、比にもならぬ程の。力尽きた者は、侍より忍びの方が多いのではないか。

そう思えばこそ、半蔵の身体には力が漲った。

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三忍道中膝転げ 9

三忍道中膝転げ 9

「そこの忍び、其方がこの子を孫と呼ぶならば、この朱き珠に願いを込めてみよ。さすれば、この子は其方の元へ帰るやもしれぬぞ。」

淀殿という豊臣の実質的な権力を持つ女子は、あまりに妖しく蕩ける様な笑みを咲かせながら、茂平にそう告げた。その手にはあの朱い妖珠が置かれている。

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大阪城天守閣に突如現れた浪人風の男は、茂平たちが乗ってきた羽を青い火で燃やし

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三忍道中膝転げ 8

三忍道中膝転げ 8

「成程な。束ねて技と成すか。それが出来るからこそ、上忍たる器よ。伊賀忍として名を響かせるは、家名より力か。」

現れた忍び装束の男が、ポツリと呟いた。

「そうじゃあー!三人揃っておるから、出来る事も有るのだわい!」

「確かに。その羽で大阪城の天守閣に行くなど、ひとりでは出来ぬ事か。」

三人は心底驚いていた。何故それを知っているのだ?

「まさか、ずっと、、」

茂平でさえ動揺しているのが分か

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三忍道中膝転げ 7

三忍道中膝転げ 7

「デカい、、の。」

「三人乗りだからだわい。」

「乗るトコはぁ、、狭いの。」

「羽がデカくないと飛ばんからだわい。」

「あー狭苦しいの。」

「やかましいわい!お主は身体を括り付けとくだけじゃろう!乗り心地うんぬんは俺たちの話だわい。」

「あーそうじゃの。」

呑気な兵衛門と五助である。茶臼山に来てから、かっちり二日目の夜、山の崖っぷちに大きな羽が出来上がっていた。羽の中央には手摺りが吊

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三忍道中膝転げ 6

三忍道中膝転げ 6

「へえ、流園さんは竹細工が出来るのかい?」

「あっしは旅一座でしたから、籠なんざは作ってやして。まあ、不恰好なもんで御座んすが。」

「凄いよ、流園さん。あたしも教えてもらおかな。」

「おお、やれ、やれえぃ。」

「何よ、勇也。簡単に言ってさ。」

「まあまあ。あっしで良けりゃあ、いつでもお待ちしておりやすから。」

雪女騒動から少し経ち、季節はゆるやかに涼しさを覚えてきている。佐納流園が言う

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三忍道中膝転げ 5

三忍道中膝転げ 5

「何を言ってるのか分かってるのかい、あんた?」 

しばし目を見開いた後、信繁は絞り出した。

「会いたい、はいそうですか、と簡単に会える方じゃないんだぜ。豊臣の頭だ。亡き者にと企む連中も山程居る。一介の忍者がどうして会えると思うんだ。」

茂平も言ってしまっては後には引けない。

「それでも、儂が死ぬまでに顔を見たい。」

「何だってんだ。顔を見て何になるって。」

「顔を見て、、出来るなら一言

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三忍道中膝転げ 4

三忍道中膝転げ 4

久土山という場所は高野山へと登る盆地である。高い山の峰に囲まれたこの土地には静かな時が流れ、人の心もまた落ち着いた豊かさを持っていた。

真田信繁(幸村)はこの高野山に、関ヶ原にて敵陣に付いた咎として蟄居を命じられていた。

とはいえ信繁という男には憎めない愛嬌があった。
高野山蓮華定院にて周りから見張られる身ではあったが、純粋な人々の心にスッと入り込み、瞬く間に溶け込んでみせた。

秋も深まって

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三忍道中膝転げ 3

三忍道中膝転げ 3

「それで、お前たちは大阪城に行ったのだな。」

「はい。そして秀頼と呼ばれる子に会うたのです。」

「その頃、拙者は先代の服部半蔵が討ち取らればかり。跡目を継いで訳も分からぬまま、先代の遺言に従ってみれば、、まさか、あの様な化け物に出会う事となるとは。」

柳生宗矩の前に服部半蔵と茂平がいる。西への旅から戻った半蔵が、宗矩に引き合わせる為に連れて来た。
茂平の知っていた事が、江戸に現れる物の怪共へ

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