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白蛇妖艶未望節 2

勇也たちとは別に離れて、中山鉄斎と皆川良源が呑んでいる。それを見付けた勇也が目で挨拶をする。

「勇さんが来たかい。こいつは久しぶりに、ここの屋台の面子が揃いましたねえ。」

鉄斎が良源の茶碗に酒を注ぐ。

「ん?ああ、まぁ、そうだな。」

「何です?らしくありゃせんね。お紫乃さんの事ですかい?」

紫乃は妖珠に魅入られ、雪女を生んだ。それを鉄斎と良源が仕留めていた。皆川良源は金で人の恨みを晴らす玉千鳥という稼業の手練れだった。今は鉄斎と共に柳生宗矩配下の隠れ人のひとりとなっている。

「らしくねぇか、、確かになあ。」

そういう稼業の者が、仕留めた相手にいちいち思いを残す事は無い。

「いやなあ、あの女はよ。屋台が憎かったんだなあと、思うとよぉ。あん時、自分は武家の女だ!捨ててはいない!って言っててなあ。」

「おいらも聞きやしたよ。」

「信幸さんが侍を捨てた事、本心では許せなかった。それでいて、ここではそんな気持ちは噯にも出さなぇでよお。つくづく女ってぇのは、怖くて強えと思ったぜ。」

鉄斎も頷いていた。

「だからぁ、あんな強い物の怪が出来たんでしょうや。」

「それでいて、勇也と美代には立ちすくんでたろ?やるせねえ話だが、ここで屋台をやってなけりゃあ、あの二人みてぇになりたかったんだろうな。」

「そう言われれちゃあ、確かに怖くなりますねえ。本心の願いと今生きている姿。使い分けるってぇのは、大分辛いでしょうよ。」

良源が酒をぐいと呑む。

「抑え込んでた分、強く弾けたって事よ。まあ本当に怖いのは、例えそんな風にしてたとしても、何も苦にしねぇ女なんだろうがなあ。」

二人が真顔で話していると、勇也の声が届いた。

「おーい!鉄っあん、良源先生も一緒に呑まねぇかい?
二人して通夜みてぇじゃねぇかよ。」

「ありゃあ、相変わらず勇さんは空気を見抜きまさぁねえ。」

鉄斎の言葉に良源が声を立てて笑う。

「違いねぇや!ほんじゃあ、町医者•皆川良源の顔に戻るとするかい。」

「ああ、先生も怖いお人でしたね。」

鉄斎も笑いながら、二人で勇也たちの元へ向かった。

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その頃、柳生宗矩は不可思議な噂を聞いていた。それは服部半蔵率いる伊賀忍軍からの報告だった。

「女が。」

「はっ。人の集まる夜に白い着物の女が現れるそうで。
どうもその女に誘われて付いて行った連中が、川に上がっている様子。」

宗矩の眉間に皺が寄る。

「物の怪か、、」

「聞く限りはその女、天狗の時に儂が会った秋月の者ではないかと思われまする。」

「秋月家頭領の姉。」

「儂の刀を横笛で止めた女。」

半蔵の声にも苦味が入る。

「ついに秋月本丸が動き出したという事だな。まさか、最後の珠を見付けたか。」

宗矩がぐっと拳を握る。

「茂平が江戸に来ての留守中、兵衛門から届いた報告には有りませなんだが、、」

「何か気になるか。」

「茂平がかつて大阪で会ったのも白い着物の女。そして不可思議な技を使ったと聞き及びます。さもあらば、その女が珠を持っていたのではないかと。」

宗矩の目が見開かれる。

「では、秋月が江戸に持ち込んだのは初めから六つだったと。」

「女はまだ若く幼かった、ならば今の姿に辻褄は合う。ただ物の怪は姿は見せなかったとの事。確かには言い切れませぬ。」

「此度は厄介だな。」

「我らは白い着物の女を追いまする。秀頼は大阪を離れはしませぬ、ならば護る佐助も動かぬ筈。その女が珠を持っているのならば、これにてひとまず決着とはなりましょう。」

「最後の物の怪という事だな。あくまでとりあえずではあるが。」

「はっ。その様になるかと。」

宗矩と半蔵としては、一息つけるという事にはなる。いつ何処で何をしてくるのか分からない、しかもそれが人ではない物の怪であるというのは、並々ならぬ気を張り続けねばならなかった。

勇也の言う通り本来考えねばならぬのは、もう江戸に物の怪が出ぬ様にする事なのだ。だがそう考えるには余裕が無さ過ぎる日々でもあったのだ。


つづく




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