心理カウンセラーという人々
秋たけなわの気持ちのいい日曜の朝。星野珈琲店でゆっくり読書してきた。
モーニングセットのハムチーズトーストと星野ブレンドをおいしくいただいて、「カウンセラーはこんなセルフケアをやってきた」(伊藤絵美著、晶文社)を読了。
心理学に詳しくない私は存じ上げていなかったが、著者の伊藤絵美氏は認知行動療法、スキーマ療法という心理学的技法研究の第一人者だという。
さまざまな問題に苦しんでいるクライアントに向き合うという、心身共に消耗する仕事に携わる専門家が、日々自分のために行っているセルフケアを紹介し、これまでの人生において抱えてきた苦悩や困りごとについても詳細に綴った1冊。
カウンセラーがここまで自己開示した著作というのはなかなか珍しいのでは。
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特に印象に残ったのは、著者が自身の依存的傾向を告白している記述である。
新米カウンセラーだった20代の頃には仕事のストレスとプレッシャーで、タバコ、アルコール、ゲームセンター、競馬、カジノ(合法的なコインカジノ)にはまって散財し、幼少期には厳しい母におやつもお小遣いも制限されていたため、お菓子の万引きを繰り返していたという。
あら、そんな話しちゃって大丈夫?と思いつつ、私がこれまでカウンセラーという職業に対して抱いていた真面目でクリーンなイメージを覆してくれて、新鮮だった。
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また、両親、特に母親との複雑な関係を語った「両親に巻き込まれ続けてきた話」という章に引き込まれた。
幼い頃から両親の仲が悪く、3人姉妹の長女として、父を嫌う母の愚痴をよく聴き、母をサポートする夫役、恋人役でい続けなければならなかったという著者。
大人になってからも、父の借金→両親の別居→離婚という問題の手続きをすべて著者が担い、2021年に母を看取り、翌年1周忌の法要を済ませた後、2022年3月にうつを発症したという。
「荷下ろし的なうつ」か。
私とは全く違う発症の形だけれど、うつで苦しむ人にはそういうケースも少なくないのだろう。
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本書を読みながら、私がうつになってからお世話になった2人のカウンセラーの顔が浮かんだ。
1人は大学院を卒業して資格をとって1、2年目ぐらいかというような、20代とおぼしき男性。現在も通院中の心療内科で、たしか2回目の受診の際に1時間ほどヒアリングのような形で彼の面談を受けた。
ミッドライフクライシスの荒波にのまれて溺れそうだった私は、内心、彼にいらだち、部屋の外に向かってこう叫びたくなった。
こんな若い子が私の話なんて受け止められるわけないでしょう!
もっと年のいった人に代わってください!
できれば私と同世代か、それより上の女性に!!!
相手を若造とみなし、自分は人生の艱難辛苦を知っている大人の女ヅラをしていた。(精神年齢低いくせに・笑)
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もう1人は、その後まもなく通い始めた別のカウンセリングセンターの、私より少し若そうな女性。
年齢的にも、雰囲気的にも、この人だったら合いそうだなと初回からピンとくるものがあった。計3年半ほど通い、もう大丈夫と思えた2022年末に終了した。
印象に残っているのは、その女性のバックグラウンドを知りたいと思いながらも結局は何も知らずに終わったということである。
先生、おいくつですか?
ご結婚されていますか?
お子さんは?
彼女と私はあくまでもカウンセラーとクライアント。プライベートなことをずけずけ聞くのは気がひけた。
それに、当時の私は他人と自分の比較地獄に陥っていた。そういうことを知ってしまったら、落ち着いてフラットに話ができなくなってしまいそうだったので、何も知らないままで良かったと今でも思っている。
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長年にわたり、カウンセラーは話を聞いてくれて、寄り添ってくれて、サポートしてくれる人という一方通行のイメージしかもっていなかった。
当時は特に考えたことはなかったが、2人ともそれぞれにどんな個人的事情を抱え、どんなセルフケアをして自分を整えて、日々、カウンセリングという場に臨んでいるのだろう。
本書を読み終わって、カウンセラーという職業に就いている人たちも山あり谷ありの人生を送っているのだなと親近感を覚えると同時に、誰しも弱い部分を持っているのだと、なんとなく勇気づけられる気持ちになった。