見出し画像

人が鬱になるのは当たり前!?〜アンデシュ・ハンセンに学ぶ心と脳〜



1.不安と鬱

スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンは言う。

私たち人間は、自然に「幸せな気分」になるようには設計されていない生き物だ、と。

長い歴史を通じて人間を形成してきた世界は、決して楽観的に歩き回るのに適した環境ではなかった。

感染症、飢餓、事故、殺人、そして猛獣――人類の祖先たちは、あらゆる方向に潜む危険に直面し、それらを乗り越えるために、常に警戒心を研ぎ澄ます必要があった。

これが、私たちの「不安」という感情の根本である。

「人生は最高だ」とお気楽に考えながら過ごす祖先がいたとしても、そのような楽観主義者が長く生き延びることは難しかっただろう。

そんな調子でお気楽に歩き回っていては、ヘビやライオンを見逃し、自分を殺そうとしている隣人に気づけない可能性が高いことは言うまでもない。

むしろ、常に最悪の事態を想定し、危険を察知し、逃れるための行動を取れる人々が生存に成功したのだ。

この心理的特性が、何世代にもわたる「選択圧」によって強化され、私たちに受け継がれてきた。

生物進化において「選択圧」と呼ばれる作用は、特定の環境において生存率を高める特性を生み出す力だ。

たとえば、雪に覆われた北極圏でシロクマが白い毛を持つようになったのも、急斜面を駆け上がるアルプスの山羊が鋭い蹄を進化させたのも、この選択圧の結果である。

同様に、人間の「不安」という特性もまた、過酷な環境下での生存に寄与する選択圧によって形作られた。

しかし、現代の私たちはこうした環境からある程度解放された。

猛獣に襲われることも、隣人に殺意を抱かれることも、歴史的に見れば大幅に減少している。

それにもかかわらず、私たちの心理構造は祖先の時代から大きく変わっていない。

火災報知器のように、わずかな危険でも大きな警報を鳴らす仕組みは、未だに私たちの中に残っている。これが、現代社会における「不安」として現れる。

職場や人間関係、将来の不確実性に対して、私たちは過剰とも思えるほど心配を抱く。

しかし、それは決して異常ではなく、むしろ進化の産物なのだ。

祖先が猛獣や自然災害から身を守るために警戒していたのと同様に、現代の私たちは別の形の「脅威」に対して警報を鳴らしているのだ。


2.メンタル脳の処方箋

とはいえ、不安やうつによってもたらされる苦しみを無視するわけにもいかない。

視力の悪い人に向かって「人間はずっと目が悪かったんだよ。だから仕方ない」とは言わないし、眼鏡かコンタクトを勧めるだろう。

だから、「人間はいつの時代も不安やうつと共にあったんだよ。だからしょうがない」などと、ハンセンは言わない。

以下は、ハンセンの処方箋である。

1 私たちは生きのびた人たちの子孫である。脳は生きのびること、そして遺伝子が受け継がれることを目的にしていて、それ以外のことは二の次。

2 感情は私たちを行動させるためにある。その役割を果たすためには、感情は消えなくてはいけない。感情は脳が周囲と身体の中で起きていることをまとめた上でつくる。身体の中からの情報も感情の材料になることは忘れがちだが、身体もまた知覚と同じように脳にシグナルを送っている。

3 不安やうつはたいていの場合、防御メカニズムである。人間の自然な機能であり、その人が病気だとか壊れているとかいうわけではない。もちろん性格のせいでは絶対にない。

4. 脳が私たちに見せる外界のイメージは事実とは限らない。脳はその人に1番役に立つと思うイメージを見せるだけ。それに記憶は変化する。トラウマになった出来事を安心出来る状況で話すと記憶が変化し、少しずつ恐ろしさが減る。

5 脳は今よりも恐ろしくて危険だらけだった世界で進化したため、実際は危険ではないことにも警告を発する。

6 私たちは身体を動かすようにつくられている。身体を動かすと良いシグナルが身体から脳に送られ、脳がその人に味わわせる感情の重要な材料になる。 運動がうつや不安から守ってくれる。

7 グループに属すことは、どんな時代にも人間にとって身を守る最高の方法だった。だから私たちは常に他人と自分を比べ、ヒエラルキーの中で位置が下 がらないように気をつけている。1番恐ろしいのはグループから追い出されることで、脳はそれを避けるためならどんなことでもする。

8 遺伝子も影響するが、環境の方が重要なことが多い。遺伝子が自分の運命だと思わないこと。どのように暮らすかで脳の働き方も変わる。

9 幸せは無視する。「いつも幸せでいられるはず」と期待するのは非現実的だ。 良い人生を送るためには意味を(自分だけでなく、他の人に対しても)感じ られることに力を注ごう。

メンタル脳
アンデシュ・ハンセン/著 、マッツ・ヴェンブラード/著 、久山葉子/訳


3.スマホ脳の処方箋

カロリーを得ることが私たちの健康のメリットにもデメリットにもなるように、デジタル化も私たちの脳に諸刃の剣となり得る。ボタンひとつで世界中の情報を手に入れられるのは、私たちの先祖には想像もつかないような贅沢だ。デジタル化のおかげで知能 を効率的に使えるようになり、想像を絶するような創造性も与えられたかもしれない。 しかし毎日何千回もスマホをスワイプして脳を攻撃していたら、影響が出てしまう。注意をそがれるのが慢性化すると、その刺激に欲求を感じるようになる。刺激自体が存在しないときにまで。小さな情報のかけら―――チャットやツイート、フェイスブックの 「いいね」――を取り込むことに慣れれば慣れるほど、大きな情報の塊をうまく取り込めなくなる。それこそが、複雑化する社会でいちばん必要なことのはずなのに。 私たちはデジタルな道具を賢く使わなければならないし、それにはデメリットがある ことも理解しておかなくてはいけない。でなければ、お菓子の棚に並ぶ栄養のないカロリーに手を伸ばすのと同じくらい、無意味なデジタルのカロリーに対処できなくなってしまう。スマホというテクノロジーが、人間を2.0バージョンにするよりも、むしろ0.5バージョンにしてしまうのだ。

スマホ脳
アンデシュ・ハンセン/著 、久山葉子/訳


「スマホというテクノロジーが人間をむしろ退化させる」という指摘は恐ろしい。

ここで私が薦めたいのが、ChatGPTを使うことと図書館に通うことである。

ChatGPTはその膨大なデータセットを基盤として、既存の知識や概念を再編成する能力に優れている。

一読して分からなかった文章も、ChatGPTを通して再編成(パラフレーズ)することで理解が進むことがある。

これにより、私たちが抱える問いに対して「説明仮説」を補強するだけでなく、新しい視点から自然言語生成による仮説の構築をも可能にする。

さらに、最も重要な機能として、AIが提示するアイデアや文脈から、私たち自身が未だ気づいていなかった問いや驚きを発見するきっかけを与えてくれる点が挙げられる。

この「驚き」こそが創造の原点であり、私たちの思考を新たな方向へと導く契機となる(これは図書館で未知の本に出会うことでも得られる)。

さらに、それらを自分の言葉に置き換え、表現することで、思考が一層洗練されていく感覚を得ることができるだろう。

言うまでもなく、ここまでの文章は図書館で出会った本たちをChatGPTを通してパラフレーズしたものであり、それを筆者が編集、再構築した。

現代において、情報と技術の進化は目覚ましく、それに取り残された人々は、小さな情報のかけら―――チャットやツイート、フェイスブックの 「いいね」などを取り込みつつ、「0.5バージョン」として生きるしかないのかも知れない。

しかし、生成AIのようなツールを活用し、そこで得られたアイデアやインスピレーションを自らの言葉で再構築することで、そうした束縛を超えられる可能性が広がるのである。

使えるものは何でも使って「あなたの感想」を豊かにし、自らの言葉で世界を再発見すること。

それによって、「小さな情報のかけら」によってもたらされる「ドーパミン中毒」という悪循環から抜け出すこと。

それはきっと、私たちのメンタルヘルスの改善に役立ち、より意義深いことへの橋渡しとなるだろう。


おまけ

「人間は幸せになるように出来てない」というのは、悲しくもありますが、同時に肩の荷が下りるような気もします。
運動や人間関係、環境などなど、できることから取り組むことが肝要です。
ChatGPTを使った創作も思っているよりは簡単なのでオススメです。
いきなり創作しよう!と意気込むのではなく(上手くいかないと落ち込みやすくなるので)、初めのうちはカジュアルに関心のあることについてGPTで深掘りするのが良いかも…
皆さんの「不安とともにある健康な人生」を心より応援しています。

いいなと思ったら応援しよう!