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読了本感想⑥『オルフェオ』/リチャード・パワーズ

 初めて読んだ彼の作品、『舞踏会へ向かう三人の農夫』が、非常に面白かったので、リチャード・パワーズの作品を順番に読んでみているところです。
 ですが、二番目に読んだ『惑う星』が、うーん、まあまあ? という感じでしたので、もしかしたら『三人の農夫』だけが突出して面白かっただけなのでは? 高くてかさばる単行本をわざわざ買うほどではないのでは? (パワーズはまだ『三人の農夫』以外は文庫化されていませんので) と思っていたところ、本作もまた超が付くほど面白く、やっぱり単行本で全部買わなきゃ駄目かもな、と思い直しているところです。

 彼の作品を読む時に毎回思うのが、この人には一体どれほどの知識量があるのだろう? ということです。もともと物理学をやっていた人なのだそうですが、彼にはそれに留まらず、あらゆるジャンルに関しての広範で深い知識があるのです。

 文学には、ただ面白い物語を読んで楽しむ、ということ以外に、知らないことを知るためのツール、という側面もあると思います。
 その点パワーズは圧倒的です。本作は「現代音楽」をテーマの一つにしているのですが、本作を読むだけでその歴史や有名作曲家などについて概括することが可能です。
 個人的にレディオヘッドが好きこともあり、
彼らが影響を受けたという現代音楽について詳しく知りたいと以前から思っていましたので、その点でも本作はもってこいでした。

 それにしても、現代の小説家には一体どれほどの知識が必要なのでしょうか? 本作のような読み応えのある小説を書くためには、作家はどのくらい勉強しなくてはいけないのでしょうか?
 その点、昔の小説家は楽だったはずです。外国の知識を持って帰ってきてそれを紹介するだけで、ものすごく有り難がられたはずだからです。
 ですが、現代ではそうはいきません。ネットで何でも分かるからです。ただ知識を得たいだけならば、ネットを見れば済むからです。現代の小説家は手に入れた知識を上手に使いこなすことで、面白く、読み応えのある物語を作るところまで工夫を凝らさなくてはいけないのです。
 そのためには、一夜漬けのものではなく、しっかりと消化された知識が必要です。脳の中に一定期間溜め込んで、揉んだりこねたりしたような、しっかりと咀嚼された知識が必要です。

 それはおそらく、ものすごく大変なことだとは思うのですが、文学上のあらゆる実験がやり尽くされた現代においては、そして、情報過多の現代においては、小説家には絶対にそれが必要なのだと思うのです。過去作はもちろん、人文科学、歴史など、あらゆるジャンルの勉強を続け、身につけたそれらの知識を上手に組み合わせることで、作品を作っていかなくてはいけないのだと思うのです。おそらくそうする以外には、お手軽に知識を得られるネットメディアに抗することも、過去の文豪たちに抗することも、出来ないのだと思うのです。それこそ、本作に登場する現代音楽家の人たちが、そうすることでバッハやモーツァルトなどの過去の大作曲家たちに何とかかんとか抗しようとしたように。

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