デジャブなタオル 〜コバルトグリーン/寝すぎた休日の色 ひと色展〜
「あ?わ!ヤバッ仕事‼︎ ……今日は…休みだぁぁ。」
もう一度、かぶる布団の温かさは、朝一番の幸せだと思う。
休みのたびに繰り返すのは、もう一つ。
「ふぁ、あーーもう10時だぁ。半日無駄にしたなぁ。」
起き抜けのあくび混じりで、カーテンを開ける。
「なんか、雨降りそう。洗濯はいいか。」
急いで家事をしなくていいなら、半日無駄にした罪悪感は、口だけだ。
休みなんだ、休み。
緩めにかけたパーマが膨らんでいるのが、天気が悪くなるサイン。
手櫛でザックリおさえて、キッチンへ向かう。
イベリコ豚の薄切りと、ハーブ入りチーズ、玉子にレタスも挟んで、豪華カラフルホットサンド。
両面ゆっくり焦げ目をつける。
この前の、おうち飲み女子会の残りだけど、上等だ。
たっぷりの甘めのカフェ・オ・レと共に、窓際の小机に落ち着く。
ちょっと透明感を隠したコバルトシルバーな空に、ベランダ菜園を気取ったイタリアンパセリやローズマリーも、くすんだグリーンを揺らしている。
静かな休日。
それなのに、スマホのチェックが癖になっているのに、ハッとする。
彼とは、別れて一週間。
小さな喧嘩がこの結果なら、しばらく恋愛はいいやと決めた。
ダラけた休みも新鮮で、さて何しようとウキウキする。
寂しくなんて、ない。
ポツポツと降り出したみたい。
緑の葉をポタンと濡らす音が、聞こえる。
窓を閉めようとしたら、ベランダの端にいた灰色トラの猫と、目が合った。
トラ君と勝手に呼んでいる地域猫。
一階のうちのベランダが気に入っているみたいで、時々日向ぼっこしている。
でも、雨に濡れたらかわいそう。
う〜んと考えて、彼が忘れていったコバルト色の傘を引っ張り出した。
プランター棚の隙間を広げて、開いた傘で覆った。
「雨宿りしていいよ。」
声だけかけて、離れる。怖がらないでね。
しばらくして、そっとのぞいたら、トラ君が傘の下に座っていた。
グレーな雨空をさえぎるコバルトシルバーの傘に、灰色トラ。
保護色。隣の雨粒滴るグリーンと違和感なし。
「あ、タオルひいておくね。」
少しでも休んでね、こんな日は。
ピンポン
チャイムが鳴った。
ドアを開けると、ちょっとバツの悪そうな顔をした彼が立っていた。
「あ、タオル、いるね。」
内心驚くほど自然に、二枚目のタオルを取りに行った。
+
こちらのショートショートは、イシノアサミさんの単色イラスト「ひと色展」のために書きました。
コバルトグリーン、寝すぎた休日の色がテーマです。
金属のコバルトを基にした、不透明な色感が出ていたらいいなと思います。
ありがとうございました。
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