2021年の9冊目
は、コチラ↓↓のロード・ノベル!!
『旅する練習』(乗代雄介 著)
第34回三島由紀夫賞を受賞した作品です。
第164回芥川賞の候補にもなった本作は、小説家の主人公が風景描写の練習をしながら、サッカーが大好きな小学6年生の姪とともに、我孫子から鹿島アントラーズの本拠地を目指して利根川沿いを歩き始める……といったストーリー。
個人的には、、、読むタイミングが悪かったと言わざると得ない作品です。
というのも、実は本作、このコロナ禍を描いた作品なのですが、時期としては、1度目の緊急事態宣言が発出される1ヶ月ほど前、2020年3月上旬から緊急事態宣言が解除された2020年6月頃を舞台としたお話です。
初出は文芸誌「群像」の2020年12月号(2020年11月07日発売)で、三島由紀夫賞が決定されたのが2021年5月14日なのですが、、、何と言いますか、、、今の私にはこの作品を好意的には受け入れられませんでした。
少しネタバレになってしまうのですが、本作は主人公が「悲劇的な過去に区切りをつけて、心の整理をしながら前に進もう」と一歩を踏み出す、つまり「旅する練習」を始める、どちらかと言うと前向きなメッセージを感じるお話です。
けれど、悲劇的な過去に区切りをつけることができるのは、それを過去として区切れるだけの「余裕のある状況」になってからだと思うのです。
この小説が書かれ、評価された時期というのは、今よりも「余裕のある状況」だった時期で、全国の新型コロナウイルスの新規感染者数が2万人を超える程に状況が悪化している現在を生きる私個人としては、コロナ禍を過去として区切るような余裕はありません。
本作はきっと素晴らしい作品だと思うのですが、私自身としては、コロナ禍の出来事を振り返る余裕が生まれるのも、コロナ禍の出来事を評価できる状況になるのも、きっとまだ先だと思うのです。