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ちょび
2019年1月16日 19:59
「うーさむいー」「暖房つけるから、効くまで布団にでも潜ってな」 帰るなり文句を言う未来に、僕が言う。 コートを二人分。かける場所がないから、カーテンレールにハンガーをかける。 ストーブをつけると、ブブッと音がして中で小さな火がついた。 上着がないことでの身体の軽さ、ゆっくりと部屋が暖まっていく時間、外の喧噪が遠のく空間。テレビをつけると、聞くでもなく音が心地よく静寂を埋めた。「布
2018年9月15日 17:57
外に出ると雨はもう止んでいた。九月に入って夜はよく冷え込むようになった。カーディガンを羽織ってローソンに向かうと、肌寒い風が身体をさあとすり抜けていった。 歩く道すがら、スマホを取り出して加奈子にメッセージを送る。「風が涼しい。散歩が気持ちいいよ」 加奈子と付き合ってから三ヶ月が経つ。散歩が好きな加奈子はよく、今時期ぐらいが好きだと話す。しばらく散歩を続けようとローソンを素通りし
2018年7月8日 23:46
梅雨が明けたとニュースが言った。雲の流れが速くなり、空の顔色はすこぶる良さそうで、反比例するように紫陽花はその鮮やかさを失いつつある。「もう、一年の半分終わっちゃうよ」 絵の具で塗りたくったような青空を見上げながら、瑠衣が言った。「寂しいな」 言葉とは裏腹に、少しだけ高揚したような声音で瑠衣は続ける。 僕はあえて少しだけ呆れた顔を作って、ため息混じりに応える。「寂しいかねえ
2018年6月12日 01:14
「見て、もう黒くなってきた」 七分袖をまくりながら君が言うから、僕は笑った。「まだ六月なのに、日焼けするの早いね」 太陽が手加減を忘れる夏には少し早い、六月の晴れた日。もう数年前のことなのに、俺は鮮明にあの日を思い出す。今年もその日が来た。「先輩って、彼女つくらないんですかー?」 後輩が叫ぶように尋ねてきた。社用車はエアコンの調子が悪く、窓を全開にして走らせている。「つくれ
2018年5月1日 09:09
◆ 降り注ぐのは太陽の光で、真夏日のような暑さの中を僕と高部は歩いていた。「どのバスだっけ」 僕が問うと、高部は無言で自分のスマートフォンを差し出した。「じゃあ、あっちの乗り場だね」 僕が右手を指さす。示した方向に、高部が歩く。二十二歳。同い年の女友達と比べて、高部はやたらと無口だった。それでも、僕と高部が付き合うことになったのは、なんというか気まぐれだったのだろう。高部の。
2017年12月20日 14:52
「今年もお世話になりました、コーちゃん」 だらりと頭を下げて葵が言う。「こちらこそお世話になりました、葵」 僕もそれに倣う。ふわふわしたものが増えた部屋で、二人して立って頭を下げあう光景というものは、端から見たら滑稽な気がしてすぐに頭を上げた。 葵は鼻声だ。僕の健康管理にうるさいわりに年に五回は風邪を引く葵は、今年も例に漏れず鼻をすすりながらの年末を迎えている。「来年はどんな年に
2017年9月25日 22:25
「日曜日か……」 カレンダーの赤字を見てぼやいた。九月の第四週。あと数日でこのページもお役ごめんだ。 あくび混じりにだらだらと着替える。そろそろ冬服を出さないと寒いかもしれない。薄手の上着に袖を通しながら、クローゼットに目をやる。「めんどくさいな」 今度はため息まで混じった。 けだるい身体を引きずって、一人暮らしの家を出る。「いってきます」を言う相手もいない生活は、普段から静かな僕
2017年8月28日 18:31
ベランダの窓を開けると、ムワッと重たい空気と一緒にくぐもった音が入ってきた。 「そういえば花火大会だね、今日」 振り返って、ベッドで本を読む彼に言う。 「そうなんだ」 ぺらっとページをめくる音。 「うん、なんか音、聞こえる」 「ほんとだ」 会話の度に視線はこちらに向いて、そして数瞬の後で本に戻る。 私はフローリングに座り込む。ヒンヤリしていて気持
2017年7月12日 18:47
夏の海といっても、七月の入りではまだ冷たい。晴天の昼間だというのに砂浜にいるのは僕と彼女の二人しかいなかった。 僕は後ろから彼女の背中を見ていた。彼女は裸足で濡れた砂の上に立って、時折さらいにくる波の冷たさにきゃっとかひゃっとか声をあげていた。「気持ちいいかい」 声をかけると彼女は首だけで振り返って、にひひと笑った。「冷たくて笑っちゃう」 どういう感情なのかと、僕が考える間に彼女はパシ