『短歌研究』2019年11月号

老いてゆく日々の尊厳保つため金を貯めゐし母かもしれず 栗木京子 母の死を詠んだ一連。老いるために必要なのは金…。母の貯金を整理しながら、その心情に思いを馳せる作者。寒々とした現実を鋭い角度で切り取るのが栗木調。そこに一抹の寂しさがある。

今日父は屋上で空を眺めおり死ぬまで生きるのみの生にて 谷岡亜紀 アジアの熱い闇を駆け抜けてきた谷岡が介護の歌を書いている…。父は二十歳の頃の母の肖像画を描いた。母は哈爾濱生まれで大連育ち。母が死に、父が自分が画家であったことを忘れても肖像画は残る。

③松村由利子「ジャーナリスト与謝野晶子3」〈晶子が憤っていたのは、政府による表現の自由への弾圧であった〉晶子の近代化への理想と〈銭の無き〉明治政府との齟齬。松村は晶子短歌の初出にあたり、当時の新聞から世相を測る。この評論を書くための膨大な資料を思う。圧倒の論。

④加藤英彦「短歌時評」〈それでも、どの死も少しでも苦しみの小さい岸へと力を尽くしたのではないか。〉川野里子『歓待』から生と死の問題を考えた時評。川野の母の死から終末医療について、また医療とは無縁の多くの死について。加藤の文には時評を超えた完結性と美しさがある。

2019.11.6.~8.Twitterより編集再掲