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[ショートショート] 沈む寺 - 宇宙の構造について
宇宙の底が発見されてから宇宙物理学界隈は大騒ぎであった。
これまで宇宙の形状は球体だとかドーナツ型だとかいろいろ言われてきたが、じょうご型であることがわかり、膨張しているように見えて実は下に向かってすぼまっていることが観測されたのだ。
その先っぽ…つまり宇宙の底には何があるのか。
知りたがりの人類は、黙々と宇宙の底を観測し続けた。
宇宙の底の底、果てしなく深いその場所をどこまでま
[ショートショート] まるでシャボン玉のように地球がぐんにゃり曲っている
地球がぐんにゃり曲がっている。
まるでシャボン玉の表面で模様が動いて見えるように、ぐんにゃり曲がって見えるのだった。
私は宇宙空間に一人で浮かんでいる。事故だった。
後ろを向けば真っ黒な何もない空間。そちらを向くのは怖かった。ひと時も地球から目を離したくない。
私はここで死ぬのだろう。
朦朧とする意識の中で私はうっとりと地球ながめた。
地球がぐんにゃり曲がっている。
パラサイト・アブストラクション [逆噴射小説大賞2024]
「それならばFに行ってみたら?」
妻が言った。いや、かつて妻だったもの、と言った方が正確だろう。何しろそれはもう原型を留めていないのだから。
それは赤いドロッとした塊だった。まるで溶けたチョコレート。
「Fか…」
それ以上妻からは何の言葉も得られなかったので俺は家を後にした。
F地区は歩いて二時間ほどの場所にある。
得意なのだ。歩くのは。
家の外は瓦礫の山だ。あれからもう
[ショートショート] インフルチェンジ - ウチの彼ピはインプレゾンビ [うたすと2]
私は路地で暮らしている。
薄汚いドブネズミみたいな私のお仕事は “インフルエンサー” だ。
なぜ私のようなゴミ人間がインフルエンサーになれたのか、きっと信じてはもらえないのだろうけど、彼との出会いがきっかけだった。
彼はある日突然現れた。
この世にインフルエンサーを育むためにやって来たのだと彼は説明した。
そして、私にひとつのスマホを手渡すと、まずは万バズを目指すのだと言った
[ショートショート] タントラとはつまり機織りなのよ:インドを編む山荘
山姥が出るとの噂の山荘に興味本位で来てしまった。
山姥はいなかった。かわりにイカれた女がひとり。
さっきからずっとインドの話しをしているが、放漫な胸元に目が行ってしまい全く話が頭に入って来ない。
「タントラはサンスクリット語で縦糸を表します。つまり、縦の糸がわたし、横の糸があなたなのです」
なんかどっかで聞いたようなフレーズだが、つまりこの女は悟りの話をしているようだった。
真
[ショートショート] シェーン、カムバック:バンドを組む残像&インドを編む山荘
破壊された街を歩く。思い出の街だ。
襲撃を受けてから68時間。まだ生存者はいるはずだ。
それからアレの生き残りも。
街の中心部に差し掛かると崩壊を免れた壁に巨大な絵が描かれていた。
ギターを持ち歌っている男の肖像が。
“シェーンは俺たちの中で生きてる”
そう言葉が添えられていた。
シェーン…。俺が最も愛した男。“THE LODGE EDITS INDIA” のボーカルだ。
[ショートショート] 懺悔と変化:ある植物のこと
花屋の店先に、小さな植物がひとつ売れ残っていた。
私はそれにサンと名をつけ家に連れて帰った。
サンは肉食だった。小さな虫を好んで食べた。
サンはどんどん大きくなった。
大きくなると、バッタなど大きな昆虫を食べた。
それでも足りなくなると、サンは魚や鶏肉を食べた。
私はサンが欲しがるものを何でも買ってきて与えた。
サンはみるみる大きくなった。
サンは犬や猫を欲しがった。
[ショートショート] モンブラン失言:根性がないんですよ根性が
はいどうもモンブランです。
最近の若者はね、根性がないんですよ根性が。何かといえばすぐ暑いだの水分補給だのって。
昔はクーラーなんかなかったんですよ。人間はどんどんひ弱になってきていますね。
ひ弱と言えばすぐ仕事を辞める人も増えていますね。すぐ諦めちゃうんですよね。
根性がないんですよ根性が。昔は就職したら定年まで会社一筋で働くのが当たり前だったんですからね。
男は一家を支えていか