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ショートショート

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記事一覧

[ショートショート] かもしれない弁天 - 狭間の物語

[ショートショート] かもしれない弁天 - 狭間の物語

 私は電車に乗っていた。幼いころ住んでいた町に向かっている。

 夢に「弁天」の文字が出てきた。

 これはお告げだと私は悟った。

 そして向かっているのだ、浦安市弁天へ。

 弁天三丁目。住宅地の中に小さな店があった。看板にはかすれた文字で「かもしれない弁天」と書かれていた。

 店の中に入ると、そこは海だった。

 どこまでも続く砂浜に足を踏み出す。

 しばらく行くと、少年がひとり波打ち際

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[ショートショート] 甘いもの - 悪魔の生態 [シロクマ文芸部]

[ショートショート] 甘いもの - 悪魔の生態 [シロクマ文芸部]

「甘いもの?」

「違う」

 目の前の男はイラついた表情で否定した。

「甘いもんだ」

 やはり、甘いもの、と言っているじゃないか。

 リリは困惑していた。路上で行き倒れていた男性に声をかけたら、さっきからずっとこの調子。「甘いもの」といか言わない。

 酔っ払っているのだろうか。しかし酒を飲んだら普通はしょっぱいものが欲しくなるのでは…。

 それにとても具合が悪そうだ。彼のまわりには吐い

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[ショートショート] 庭師のハンスと接吻代行

[ショートショート] 庭師のハンスと接吻代行

 私には秘密があった。

 午後のお茶を抜け出してこっそり庭園に出ること。

 噴水の側のベンチに座っていると、庭師のハンスが時間通りにやってくる。

 ハンスは私の姿を見ると、にっこり微笑んで会釈する。
 会話することはほとんどない。時々私が植物について質問するくらいだ。

 私とハンスではあまりに身分が違いすぎて、気軽に話などできる間柄ではないのだ。

 それでも私はハンスの顔が見たくてここに

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[ショートショート] 星が降る、世界が動く時 - シロクマ文芸部

[ショートショート] 星が降る、世界が動く時 - シロクマ文芸部

 星が降るようになってから三年。僕らはすっかりこの夜空に慣れてしまった。

 あれは三年前。突然、星々が夜空を流れ出した。
 それはまるでカメラの露出を長時間に設定して撮影した写真のように、星々が細い幾つもの光の筋になってしまったのだ。

 しかし、星の軌道は円を描くのではなく、一定の角度で直線に流れているのだった。

 人々は空から星が降ってきたのではと恐怖した。そんなことはありえないと頭ではわ

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[ショートショート] スペースボーラー 幸子 #無茶ブリお題道場

[ショートショート] スペースボーラー 幸子 #無茶ブリお題道場

シンスケさんの『無茶ブリお題道場』に参加します。

あらすじの続きを書く企画です。

スペースボーラー 幸子「あら、幸子さんじゃない」

 送迎ロケットの座席に着くと二つ隣の人に声をかけられた。

 見るとそれは麗子だった。

 彼女は間に座っていた人に一声かけて席を変わってもらうと、何食わぬ顔で幸子の隣に座って話を続けた。

「あなたがこれに乗っているってことは、やっぱり黒なのね」

「何の話?

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[ショートショート] 殲滅:雪が降る あなたは来ない - シロクマ文芸部

[ショートショート] 殲滅:雪が降る あなたは来ない - シロクマ文芸部

 雪が降る あなたは来ない。

 そんな歌もあったわね。

 ・・・。

 ってゆうか、何で来ないのかしら。あのボケナスが。

 木曽路め。この商談落としたらうちの会社終わるぞ。

 私は大変にイライラしながら後輩の木曽路くんを待っていた。

 …だから現地集合は嫌なのよ。雪も本降りになってきちゃったし。遅延でも発生しているのかしら?

 都会の電車はすこぶる雪に弱い。降るかわからない雪に対して運

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[ショートショート] 夢を見る岩石 - シロクマ文芸部

[ショートショート] 夢を見る岩石 - シロクマ文芸部

 夢を見る岩石が発見された。

 それは地中深く五億年前の地層から出て来た。

・・・

 苦しい狭い暗い重たい。

 これが幼い頃から見続けている夢だった。

 物心ついてからずっと、こんな夢しか見ていない。だから夢とはこういうものだと思っていた。

 小学生くらいのころに、みんなが昨日見た夢の話をしているのを聞いて、他のみんなは自分と違っていることに気がついた。

 さまざまなことで話が噛み合

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空洞 - 書き初め20字小説

空洞 - 書き初め20字小説

親戚が帰った後の伽藍とした居間。残る気配

小牧幸助さんの『書き初め20字小説』に参加します。

[ショートショート] 討魔特戦機体(冬の夜)- シロクマ文芸部

[ショートショート] 討魔特戦機体(冬の夜)- シロクマ文芸部

 冬の夜。ベランダに出て君の家の方へと息を吹きかける。

 ふぅーっと白い息が伸びていく。

 とうま。今ごろ何してる? 何を見てる? 誰のことを思ってる。

 二学期ももうすぐ終わり。思い切ってクリスマスに誘ってみようと思ったけれど勇気が持てず。断られたらどうしようとモタモタしていたら、クラスでクリスマス会をやる話がもちあがって、結局みんなで過ごすことが決定してしまった。

 彼も参加するって言

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[ショートショート] 忘年怪異 - 意識的忘却

[ショートショート] 忘年怪異 - 意識的忘却

どうもおかしい。

僕は壁に体を押し付けられて恐怖を感じていた。

忘年会の帰り道、沢野さんと一緒になって浮かれていたとこまでは覚えている。

どうして真っ暗なトンネルにいるんだ?

奥の方から何かがズルズル音を立てて近づいて来た。

僕が口を開こうとすると、沢野さんが「しっ」と言って人差し指を僕の唇に押し当てて来た。

同時に彼女の体も押し付けられて恐怖心と柔らかさに僕の脳は混乱した。

ズルズ

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[ショートショート] どうする?睦月行っちゃう? - 釜揚げ師走

[ショートショート] どうする?睦月行っちゃう? - 釜揚げ師走

「師走がいない」

 霜月が慌てた様子で入って来た。

「トイレじゃないの?」

 葉月が言った。

「いや、どこにもいないんだ」

 やれやれと、みんなはゾロゾロ連れ立って師走の部屋へ向かった。

 霜月が言う通り師走はどこにもいないようだった。

「どうする?睦月行っちゃう?」

「いやまずいっしょ」

 みんなが集まってくると、急に師走の部屋のテレビがついて不鮮明な映像が流れ始めた。

 徐

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[ショートショート] 龍神と少年(北風と)シロクマ文芸部

[ショートショート] 龍神と少年(北風と)シロクマ文芸部

 北風といえど今回ばかりはさすがに参っていた。

 八郎潟の水面に体を横たえ北風は疲弊していた。

 北風はエンリルに参っていた。

 エンリルは傍若無人で破天荒、無慈悲で強欲、泣く子も黙る最高神である。

 そんな奴がなぜ?

 あれはまだ生ぬるい南風が列島に横たわっていた頃だ。

 いつものように一仕事終えて拠り所の八郎潟へと帰ると、僕の彼女がエンリルと一緒にいた。

 エンリルにはこの時初め

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『雪』 - みんはいアドベントカレンダー

『雪』 - みんはいアドベントカレンダー

深々と無言の重さ降り積もる

雪「もう終わりにしよう」

 あなたは静かにそう言った。

 喫茶店の奥の席。身を隠すように向かい合って座り、わたしは何も言い返せなかった。

 いつかこの日が来ることは分かっていた。

 わたしの想いはかりそめの恋。浮ついた幻想だったのだ。

 沈黙に耐えられなくなったのか、あなたは二人分の珈琲代をテーブルに置くと、そっと立ち上がり出て行った。

 ひとり残されたわ

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[ショートショート] ぼんぞー is ..? [イメージ:二次創作]

[ショートショート] ぼんぞー is ..? [イメージ:二次創作]

くえすさん企画、動画作成プロジェクト「イメージ」の世界観をお借りして二次作書きました。

大学でさあや(ボーカル)がメンバーを集めて結成したバンドのお話。

キーボードのぼんぞーが変わり者ぽい謎のメンバーとなっていたので、その正体を妄想してみました。

ぼんぞー is ..? 渋谷で買い物をしていたら遅くなってしまった。

 沙綾は夜の渋谷が苦手だった。ちょっと怖いような。とても場違いなような気持

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