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ショートショート

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[ショートショート] ヘドロの夢 - 働いて得られる対価としての緑藻さま [シロクマ文芸部]

[ショートショート] ヘドロの夢 - 働いて得られる対価としての緑藻さま [シロクマ文芸部]

 働いて得られる対価として、その昔は「お金」という鉄クズや紙切れが配られていたらしい。

 人類とは時々とんでもないことを思いつくもんだ。こんな事、そこら辺の路地裏でたむろするジャンキーどもにもそうそう思いつかないだろう。

 その鉄クズや紙切れがないと生活すら出来なかったと言うのだから、とんでもない。資本主義とは現代の俺たちからすれば、とてもマトモとは思えない奇想天外な思想である。

 今の時代

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[ショートショート] 感情の色、世界の色 [色見本帖]

[ショートショート] 感情の色、世界の色 [色見本帖]

 幼い頃から私には感情が色として見えていた。人を見ると同時に色が見えた。

 母子家庭で働き詰めの母はいつも疲れた顔をしていた。

 母は水色だった。どんな時も。

 母には感情がない。私を愛していない。
 私はそう思っていた。

 そんな母は、私が中学を卒業する年に大病をして他界した。

 私はひとりになった。

 母が私に残したものはたった一冊のノートだった。
 私はそれを開くことができなかっ

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[ショートショート] 沈む寺 - 宇宙の構造について

[ショートショート] 沈む寺 - 宇宙の構造について

 宇宙の底が発見されてから宇宙物理学界隈は大騒ぎであった。

 これまで宇宙の形状は球体だとかドーナツ型だとかいろいろ言われてきたが、じょうご型であることがわかり、膨張しているように見えて実は下に向かってすぼまっていることが観測されたのだ。

 その先っぽ…つまり宇宙の底には何があるのか。

 知りたがりの人類は、黙々と宇宙の底を観測し続けた。

 宇宙の底の底、果てしなく深いその場所をどこまでま

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[ショートショート] まるでシャボン玉のように地球がぐんにゃり曲っている

[ショートショート] まるでシャボン玉のように地球がぐんにゃり曲っている

 地球がぐんにゃり曲がっている。

 まるでシャボン玉の表面で模様が動いて見えるように、ぐんにゃり曲がって見えるのだった。

 私は宇宙空間に一人で浮かんでいる。事故だった。

 後ろを向けば真っ黒な何もない空間。そちらを向くのは怖かった。ひと時も地球から目を離したくない。

 私はここで死ぬのだろう。

 朦朧とする意識の中で私はうっとりと地球ながめた。

 地球がぐんにゃり曲がっている。

 

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パラサイト・アブストラクション [逆噴射小説大賞2024]

パラサイト・アブストラクション [逆噴射小説大賞2024]

「それならばFに行ってみたら?」

 妻が言った。いや、かつて妻だったもの、と言った方が正確だろう。何しろそれはもう原型を留めていないのだから。

 それは赤いドロッとした塊だった。まるで溶けたチョコレート。

「Fか…」

 それ以上妻からは何の言葉も得られなかったので俺は家を後にした。

 F地区は歩いて二時間ほどの場所にある。

 得意なのだ。歩くのは。

 家の外は瓦礫の山だ。あれからもう

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[ショートショート] ミュゲのきもち [うたすと2]

[ショートショート] ミュゲのきもち [うたすと2]

 ゼンマイを巻く音がする。それは私の眼ざめの合図だ。

 私は自動慰撫人形ミュゲ。

 ミュゲという名はご主人様がつけてくれた。“ミュゲ” は昔の言葉でスズランを意味する。まるでスズランのように可憐で美しいからですって。

 ゼンマイの合図で起動した私はご主人様の表情を読み解く。甘えたような寂しそうな表情。
 この様子ではまた振られたのね。

「ミュゲ~。僕を慰めてよ~」

 私が目覚めると同時に

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[ショートショート] 転生林檎 - 幼馴染は輝いていて別世界の人だった

[ショートショート] 転生林檎 - 幼馴染は輝いていて別世界の人だった

 トモくんは足が速くて明るい子だった。

 ミキちゃんはお姫様みたいに可愛い子だった。

 シュウくんは何でも知ってる物知り博士だった。

 私はお絵描きが好きだった。

 幼馴染の私たちは仲良し四人組だった。

 小学校に入ると天才シュウくんは私立の学校に行き会えなくなった。
 ミキちゃんはテレビのお仕事をするようになってあまり学校に来なくなった。
 トモくんはスポーツ万能で人気者になった。

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[ショートショート] インフルチェンジ - ウチの彼ピはインプレゾンビ [うたすと2]

[ショートショート] インフルチェンジ - ウチの彼ピはインプレゾンビ [うたすと2]

 私は路地で暮らしている。

 薄汚いドブネズミみたいな私のお仕事は “インフルエンサー” だ。

 なぜ私のようなゴミ人間がインフルエンサーになれたのか、きっと信じてはもらえないのだろうけど、彼との出会いがきっかけだった。

 彼はある日突然現れた。

 この世にインフルエンサーを育むためにやって来たのだと彼は説明した。

 そして、私にひとつのスマホを手渡すと、まずは万バズを目指すのだと言った

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[ショートショート] 二人はいつも - Smply [うたすと2]

[ショートショート] 二人はいつも - Smply [うたすと2]

 ツイとレイはひとつの魂源を共有するふたつの思考だった。

 二人は長い時間をかけて、この四進法からなる奇怪なプログラムを解析してきた。

 それがついに今日、全ての解析が完了したのだ。

「これを見ろ。4はアンバランスだ。0と1のふたつで表した方が美しくないだろうか」

 ツイが言った。

「我々がこの言語に触れてからまだ数百年だ。長い目で見るとこちらの方がよいのだろう」

 レイが答えた。

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紙 - そして彼は選択した [秋ピリカグランプリ2024]

紙 - そして彼は選択した [秋ピリカグランプリ2024]

 両極は紙一重とよく言うけれど、神山辰人ほどそれを体現していた者はいないだろう。

 何しろ彼の場合は本当に紙一枚を隔てて静と動二つの人格が同居していたのだから。

 彼の脳には紙が挟まっていて、それを引き抜くと人格が変貌した。

 普段は物静かな彼だけど、紙を抜いた途端に情緒不安定となり破天荒キャラが突出する。

 僕はこっそりワル辰と名付けて区別していた。

 大人しい時の辰人は無害だけど退屈

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[ショートショート] タントラとはつまり機織りなのよ:インドを編む山荘

[ショートショート] タントラとはつまり機織りなのよ:インドを編む山荘

 山姥が出るとの噂の山荘に興味本位で来てしまった。

 山姥はいなかった。かわりにイカれた女がひとり。

 さっきからずっとインドの話しをしているが、放漫な胸元に目が行ってしまい全く話が頭に入って来ない。

「タントラはサンスクリット語で縦糸を表します。つまり、縦の糸がわたし、横の糸があなたなのです」

 なんかどっかで聞いたようなフレーズだが、つまりこの女は悟りの話をしているようだった。

 真

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[ショートショート] シェーン、カムバック:バンドを組む残像&インドを編む山荘

[ショートショート] シェーン、カムバック:バンドを組む残像&インドを編む山荘

 破壊された街を歩く。思い出の街だ。
 襲撃を受けてから68時間。まだ生存者はいるはずだ。

 それからアレの生き残りも。

 街の中心部に差し掛かると崩壊を免れた壁に巨大な絵が描かれていた。
 ギターを持ち歌っている男の肖像が。

“シェーンは俺たちの中で生きてる”

 そう言葉が添えられていた。

 シェーン…。俺が最も愛した男。“THE LODGE EDITS INDIA” のボーカルだ。

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[ショートショート] 懺悔と変化:ある植物のこと

[ショートショート] 懺悔と変化:ある植物のこと

 花屋の店先に、小さな植物がひとつ売れ残っていた。
 私はそれにサンと名をつけ家に連れて帰った。

 サンは肉食だった。小さな虫を好んで食べた。

 サンはどんどん大きくなった。

 大きくなると、バッタなど大きな昆虫を食べた。
 それでも足りなくなると、サンは魚や鶏肉を食べた。

 私はサンが欲しがるものを何でも買ってきて与えた。

 サンはみるみる大きくなった。

 サンは犬や猫を欲しがった。

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[ショートショート] モンブラン失言:根性がないんですよ根性が

[ショートショート] モンブラン失言:根性がないんですよ根性が

 はいどうもモンブランです。

 最近の若者はね、根性がないんですよ根性が。何かといえばすぐ暑いだの水分補給だのって。
 昔はクーラーなんかなかったんですよ。人間はどんどんひ弱になってきていますね。

 ひ弱と言えばすぐ仕事を辞める人も増えていますね。すぐ諦めちゃうんですよね。
 根性がないんですよ根性が。昔は就職したら定年まで会社一筋で働くのが当たり前だったんですからね。
 男は一家を支えていか

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