記事一覧
[ショートショート] かもしれない弁天 - 狭間の物語
私は電車に乗っていた。幼いころ住んでいた町に向かっている。
夢に「弁天」の文字が出てきた。
これはお告げだと私は悟った。
そして向かっているのだ、浦安市弁天へ。
弁天三丁目。住宅地の中に小さな店があった。看板にはかすれた文字で「かもしれない弁天」と書かれていた。
店の中に入ると、そこは海だった。
どこまでも続く砂浜に足を踏み出す。
しばらく行くと、少年がひとり波打ち際
[ショートショート] 庭師のハンスと接吻代行
私には秘密があった。
午後のお茶を抜け出してこっそり庭園に出ること。
噴水の側のベンチに座っていると、庭師のハンスが時間通りにやってくる。
ハンスは私の姿を見ると、にっこり微笑んで会釈する。
会話することはほとんどない。時々私が植物について質問するくらいだ。
私とハンスではあまりに身分が違いすぎて、気軽に話などできる間柄ではないのだ。
それでも私はハンスの顔が見たくてここに
[ショートショート] 討魔特戦機体(冬の夜)- シロクマ文芸部
冬の夜。ベランダに出て君の家の方へと息を吹きかける。
ふぅーっと白い息が伸びていく。
とうま。今ごろ何してる? 何を見てる? 誰のことを思ってる。
二学期ももうすぐ終わり。思い切ってクリスマスに誘ってみようと思ったけれど勇気が持てず。断られたらどうしようとモタモタしていたら、クラスでクリスマス会をやる話がもちあがって、結局みんなで過ごすことが決定してしまった。
彼も参加するって言
[ショートショート] 忘年怪異 - 意識的忘却
どうもおかしい。
僕は壁に体を押し付けられて恐怖を感じていた。
忘年会の帰り道、沢野さんと一緒になって浮かれていたとこまでは覚えている。
どうして真っ暗なトンネルにいるんだ?
奥の方から何かがズルズル音を立てて近づいて来た。
僕が口を開こうとすると、沢野さんが「しっ」と言って人差し指を僕の唇に押し当てて来た。
同時に彼女の体も押し付けられて恐怖心と柔らかさに僕の脳は混乱した。
ズルズ
[ショートショート] どうする?睦月行っちゃう? - 釜揚げ師走
「師走がいない」
霜月が慌てた様子で入って来た。
「トイレじゃないの?」
葉月が言った。
「いや、どこにもいないんだ」
やれやれと、みんなはゾロゾロ連れ立って師走の部屋へ向かった。
霜月が言う通り師走はどこにもいないようだった。
「どうする?睦月行っちゃう?」
「いやまずいっしょ」
みんなが集まってくると、急に師走の部屋のテレビがついて不鮮明な映像が流れ始めた。
徐
『雪』 - みんはいアドベントカレンダー
深々と無言の重さ降り積もる
雪「もう終わりにしよう」
あなたは静かにそう言った。
喫茶店の奥の席。身を隠すように向かい合って座り、わたしは何も言い返せなかった。
いつかこの日が来ることは分かっていた。
わたしの想いはかりそめの恋。浮ついた幻想だったのだ。
沈黙に耐えられなくなったのか、あなたは二人分の珈琲代をテーブルに置くと、そっと立ち上がり出て行った。
ひとり残されたわ
[ショートショート] ぼんぞー is ..? [イメージ:二次創作]
くえすさん企画、動画作成プロジェクト「イメージ」の世界観をお借りして二次作書きました。
大学でさあや(ボーカル)がメンバーを集めて結成したバンドのお話。
キーボードのぼんぞーが変わり者ぽい謎のメンバーとなっていたので、その正体を妄想してみました。
ぼんぞー is ..? 渋谷で買い物をしていたら遅くなってしまった。
沙綾は夜の渋谷が苦手だった。ちょっと怖いような。とても場違いなような気持