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[ショートショート] スペースボーラー 幸子 #無茶ブリお題道場

シンスケさんの『無茶ブリお題道場』に参加します。

あらすじの続きを書く企画です。


スペースボーラー 幸子

あらすじ
時は西暦210X年、荒廃したサイバーパンクな世の中。時の権力者達はこぞってボーリングにて覇権争いを行っていた。そんな事など知る由も無い主婦である幸子は、煮物をタッパーへ詰めるとマイボールを片手に今日もラウンドワンの送迎ロケットへと乗り込むのであった・・・

「あら、幸子さんじゃない」

 送迎ロケットの座席に着くと二つ隣の人に声をかけられた。

 見るとそれは麗子だった。

 彼女は間に座っていた人に一声かけて席を変わってもらうと、何食わぬ顔で幸子の隣に座って話を続けた。

「あなたがこれに乗っているってことは、やっぱり黒なのね」

「何の話? 麗子さん、私はもう引退してただの主婦よ。ボウリングの大会があるから挑戦しに行くだけ」

「ふーん…」

 麗子が全く信じてない表情でこちらをうかがい見るものだから、幸子は柄にも無く慌ててしまった。昔から苦手なのだ麗子のような女は。

「いや、だからほら、国営放送でやってたでしょう? 優勝賞品は土星旅行って…」

「あんたマジで言ってんの?」

 麗子は体を幸子の方へと傾けて周りに聞こえないようコソコソと話を続けた。

「そのボウリング大会だけどね、“般若” が絡んでるって噂よ」

「えっ! ウソでしょ!?」

 幸子は心底驚いて麗子を見返した。

「その様子じゃホントに知らないのね? もしも裏に“般若”がいるとしたら、そのボウリング大会はスカウト目的のオーディションってとこね」

 麗子の話にぞっとして幸子は身を震わせた。

 “般若” それはかつての幸子の宿敵。バディだった西岡を失ったのも奴らのせいだった。ほぼ相打ち状態で根絶やしにしたつもりだったのに。残党がいたか…。

「あなた、引退したって言ったわね。いま一般人なの? どうするの? このまま突っ込む? それとも帰る?」

「そんなの決まってるじゃない。麗子、武器の余分はあるの?」

「あるわよ。レイザーかソードか…」

「ソード、借りてもいい?」

「もちろんよ。あなたが加勢してくれると心強いわ。ところであなた主婦なの? 旦那さんは同業者?」

「いいえ、彼はただの営業マン」

「じゃあ、無傷で終わらせないとね」

「そのとおり。たまたま煮物を持って来てるわ。食べる?」

「ボウリング大会に煮物?」

「絶対土星旅行に行きたくてね、チート戦略よ。ま、もう土星旅行はナシ決定だけど」

「ボウリング大会に煮物ぶっこむ主婦なんている? もちろんいただくわ」

 こうして私たちがコソコソ話している間にロケットはラウンドワンに到着した。

 幸子はタッパーを開けると麗子と一緒に煮物を口に入れた。

 数秒後、バフがかかった二人の淑女が容赦なくボウリング場を破壊して回る姿が目撃された。

 そうして日陰でカサカサと生き延びていた裏組織 “般若” は本当の意味でこの世から姿を消した。

 しかし、権力者の甘い汁を吸って至福を肥やそうという輩は後をたたないもので、この社会構造を変えない限り混沌は続く。

 何もかも、根本からひっくり返さないとダメだわね…。
 ただの主婦である幸子は、なんちゃって…と舌を出しながらそう思うのであった。

(おしまい)


シンスケさんおもしろい企画をありがとうございます。

みすてぃさんも、私の「殲滅:雪が降る」と「夢を見る岩石」を織り交ぜて「スペースボーラー幸子」を書いてくださってます。
こちらもぜひ~


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