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「全領域異常解決室」の神様たち(ネタバレあり)

フジテレビの「全領域異常解決室」が2024年の冬クールで放映されています。

このドラマは事件解決ものなのですが、それらの事件にはオカルトや怪奇現象、迷信などが関わっています。

そして、徐々に明らかになるのが、その背後には「日本の神様」の存在があるということです。

現段階で7話までが公開されています。以下、ここまでで明らかになっている登場人物や設定をもとに、登場した神様についてご紹介したいと思います。(※ 日本の神様は「一柱、二柱…」と数えますが、本文では「一人、二人…」としています)

6話までまだご覧になっていない方は、まずはそちらをご覧になることをおすすめします。


5話までの相関図はこちら

6話以降の相関図はこちら


レギュラーメンバー

宇喜之民生(うきのたみお):小日向文世

局長の宇喜之はウカノミタマノカミ(宇迦之御魂神)です。この神様は『古事記』ではスサノヲ(素戔嗚)の子で、お稲荷様と同一とされます。食物を司るとされ、伊勢神宮の外宮とも縁があるとされます。伊勢神宮の外宮ではトヨウケオオミカミ(豊受大御神)が祀られており、食べ物を司ります。このトヨウケオオミカミとウカノミタマノカミは同一とされることもあるのです。お稲荷様といえば、一般にもよく知られている神様ですから、登場人物として用いられたのでしょう。食べ物に縁のある神様ということで、作中でも料理を得意とする描写がなされます。

雨野小夢(あめのこゆめ):広瀬アリス

「全決」に移動してきた雨野は、実は記憶を失った室長でした。神としての名はアメノウズメノミコト(天宇受賣命)です。アマテラス(天照)がスサノヲとの誓約(うけひ)の後に、天岩戸にお隠れになってしまいます。そこからアマテラスを連れ出すために舞を踊ったのがアメノウズメノミコトでした。雨野が幼い頃からダンスを得意としたという設定も、そこから生まれたものでしょう。後に天孫降臨の際に、サルタビコノカミ(猿田毘古神)とともに天孫に同行したと言われます。その際に「猿」の字を与えられ、その子孫の猿女君(サルメノキミ)につながるとされます。そのため、ドラマではサルタビコノカミの妻として描かれています。日本神話の神々の中でもよく知られる神の一人ですから、主人公に抜擢されたのでしょう。「鈴を鳴らして神々を呼ぶ」という設定は独自のものだと思います。(関係する神話:天岩戸神話、天孫降臨)

興玉雅(おきたまみやび):藤原竜也

事件解決の中心となる興玉は「興玉神(オキタマノカミ)」です。この神様はサルタビコノカミと同一とされ、伊勢神宮内宮に祀られています。古事記などの神話において名が知られているわけでもなく、私も初めて知った神でした。それだけに、なぜこの重要な役どころに用いられているのか不思議ですが、もしかしたらこのドラマが神様と関連のある話だと推測させないためかもしれませんね。それとも、今後重要な真実が明らかになるのかもしれません。

直毘吉道(なおびよしみち):柿澤勇人

神ではない存在とされますが、人物関係図にもありますので一応触れておきます。『古事記』ではイザナギが黄泉の国(よみのくに、死者の国)から帰ってきた際に、川で穢れを清めました。そのときに生まれた神の一つが、ヤソマガツヒノカミ(八十禍津日神)、オオマガツヒノカミ(大禍津日神)です。「マガツヒ」は邪悪な神とされることがあります。一方、その後に生まれたのがカミナホビノカミ(神直毘神)、オホナホビノカミ(大直毘神)です。「ナホビ」は邪悪なものを清める存在とされることがあります。また、本居宣長は古事記伝の中で『直毘霊(なほびのみたま)』という文章を残しており、研究者にもよく親しまれている作品です。わざわざ「直毘」という名前をつけており、人物関係図にもあることから、もしかしたら何か重要な秘密があるのかもしれません。(関係する神話:黄泉の国往還)

芹田正彦(せりたまさひこ):追田孝也

芹田はサルタビコノカミ(猿田毘古神)です。サルタビコノカミは天孫降臨の際に天孫に付き従った神の一人で、葦原中つ国(あしはらのなかつくに)に案内したとされます。そのことから、道案内の神とされることもあります。これが、芹田の特殊能力につながるのでしょう。その際に一緒に下ったアメノウズメノミコトはサルタビコノカミに仕えることになります。このことから、二人は夫婦であるという設定を用いたのだと思います。手塚治虫の『火の鳥』では猿田彦という人物が登場しますが、そのモデルといってもいいでしょう。(関係する神話:天孫降臨)

豊玉妃花(とよたまひめか):福木莉子

名が明かされると同時に素性も明らかになりますので、そのままの名前になっています。豊玉はトヨタマビメノミコト(豊玉毘売命)です。海の神ワタツミノカミ(綿津見神)の娘で、海にやってきたホオリノミコトと結婚し、助けることになります。その子どもの子が神武天皇になります。つまり、今の天皇の祖先の一人なのですね。この話の筋には浦島太郎の話と重なる部分も多く、トヨタマビメノミコトは乙姫様を連想させます。このようなことから、豊玉は水を自在に操る力を持っているという設定なのでしょう。(関係する神話:海幸彦と山幸彦)


連続殺人の被害者

大守浩志

大守はオオモノヌシノカミ(大物主神)です。「三輪の大物主」として知られ、今でも信仰の厚い神様の一人です。『古事記』には度々登場します。このように何度も出てくるキャラクターは限られますので、とても興味深い存在です。神と人との婚姻譚で知られます。(関係する神話:大国主の国造り、三輪山伝説)

石狩愛実

石狩はイシコリドメノミコト(伊斯許理度売命)です。アマテラスが天岩戸に入った際に八咫鏡を作りました。八咫鏡は天皇家の三種の神器の一つですね。また、天孫降臨の際にともに降っています。(関係する神話:天岩戸神話、天孫降臨)

健実和生

健実はタケミカヅチ(建御雷)です。タケミカヅチは、アマテラスが大国主に国を譲るように交渉に行かせたうちの一人で、彼の働きで国譲りが達成されました。剣の上に座り相手を圧倒したことから、剣の神としても知られます。(関係する神話:大国主の国譲り)

大月比呂佳

大月はオオゲツヒメノカミ(大気都比売神)です。高天の原を追放されたスサノヲに食事を提供した後に殺された神です。その後、スサノヲのヤマタノオロチのお話につながっていきます。五穀を生み出した神として日本で最も大事にされている神の一人です。食べ物に関わる神として、トヨウケオオミカミやウカノミタマノカミとも通じます。ドラマの中でもおいしいおにぎりを作る場面が印象的です。ちなみに、『青の祓魔師』で神木出雲が扱う「ウケ」はウケモチノカミ(保食神)やこれらの神々と関係したネーミングでしょう。(関係する神話:五穀の始まり)

刀田楓真

刀田はフトダマノミコト(太玉命)です。天岩戸神話ではどのように対処すればよいかを占い、天孫降臨の際には天孫に付き従った神の一人です。忌部氏の祖ともいわれています。アメノウズメノミコトはフトダマノミコトの子ともされています。ドラマの中でも、他のキャラクターに比べると関わる場面が描かれていますね。(関係する神話:天岩戸神話、天孫降臨)


その他の神々

大隈邦男

大隈はオオクニヌシノカミ(大国主神)です。『古事記』の中の主役の一人であり、出雲神話の主人公です。因幡の白兎のエピソードから病気の神としての性格も持ち、時に大黒様とも同一視されます。7話までで出ているキャラクターの中で唯一の主役級であり、それを大御所の吉田鋼太郎が演じているのも納得です。(関係する神話:因幡の白兎、根の堅洲国、大国主の国造り、大国主の国譲り)

村主虎飛矢

村主はスクナビコナノカミ(少名毘古那神)です。大国主とともに国造りを行った重要なパートナーで、小人のような容姿と解釈されます。コロポックルの祖先とも言われます(佐藤さとる『だれも知らない小さな国』)。スサノヲ系の最も重要な神であるカムムスヒノカミ(神産巣日神)の子であり、非常に尊い存在です。ドラマ中では今のところ薬の神としての性格を持ち、薬品で主人公たちを助けます。ドラマの中では大隈との関わりは特に描写されていませんね。(関係する神話:大国主の国造り)

佃未世

佃はツクヨミノカミ(月読神)です。イザナギが黄泉の国から帰ってきたときに、身を清めました。そのときに生まれた神々の一人です。アマテラス、スサノヲと同時に生まれました。イザナギはアマテラスは高天の原、ツクヨミは夜の国、スサノヲは海を治めるように言いました。それ以降、アマテラスの系譜とスサノヲの系譜が絡み合いながら描かれていくのが、『古事記』の上巻になります。一方のツクヨミはそれ以降『古事記』には登場しません。アマテラスとスサノヲが重要な位置を占めるのに対して、なぜか同時に生まれたツクヨミだけが描かれない。それがどこか謎めいた印象を与え、研究者の関心をひいています。ユング心理学者の河合隼雄の「中空構造論」の要ともいえる存在です。ドラマの中では、月の力を使って時間を操ることができるとされています。(関係する神話:黄泉の国往還)

生嶋未琴

生嶋はイチキシマヒメノミコト(市寸島比売命)です。アマテラスとスサノヲの誓約(うけひ)によって生まれた神の一人です。千里眼の設定とは、特に関係がないと思われます。(関係する神話:誓約)

ヒルコ

ヒルコ(水蛭子)は、イザナギとイザナミの子です。天の御柱(あめのみはしら)で最初に交わった際に生まれた子どもです。手足が不自由で、そのまま葦の船で流されてしまいます。お話としてはそれまでですが、その後ヒルコがどうなったのか、さまざまなことが言われています。ヒルコを日本で最も古い障害者の例として捉えたり、ヒルコとアマテラス(ヒルメ)を対応させたり、ヒルコ=スクナビコナと捉えたりと、おもしろいテーマがたくさんあります。(関係する神話:天の御柱)


神話のおもしろさとミステリー

ドラマはドラマとして楽しみながら、もし興味を持った神話があれば、ぜひ読んでみてください。今回ご紹介したのは基本的に『古事記』を中心としていますが、同じ場面でも『日本書紀』や『風土記』では異なります。

また、「なんでアメノウズメノミコトは舞ったのだろう?」「ツクヨミはどうして一度しか出てこないの?」「ヒルコとアマテラスの関係って?」といったミステリー要素が多いのも神話のおもしろさです。答えの出ない問いに対して、多くの研究者が取り組んできました。

もし興味のある方は、ぜひ一緒に勉強しましょう!いつでもお待ちしております。


執筆者:古原大樹/1984年山形県生まれ。山形大学教育学部、東京福祉大学心理学部を卒業。高校で国語教師を13年間務めた後、不登校専門塾や通信制高校、日本語学校、少年院などで働く。2024年に株式会社智秀館を設立。智秀館塾塾長。吉村ジョナサンの名前で作家・マルチアーティストとして文筆や表現活動を行う。古典を学ぶPodcast「吉村ジョナサンの高校古典講義」を公開中。学習書に『50分で読める高校古典文法』『10分で読める高校古典文法』『指導者のための小論文の教え方』がある。

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