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美術展の感想

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訪問した美術展の感想などを
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記事一覧

デイヴィッド・ホックニー展(感想)_自然の風景を時代ごとに様々な手法で

東京都現代美術館にて2023年7月15日から開催されていた『デイヴィッド・ホックニー展』へ行ってきたので、いくつか印象に残った作品についての感想などを。 描かれているのは人物または森などの自然の風景なのだが、ポップな色合いやメリハリのある輪郭はポジティブな印象で元気を貰えるというか親しみやすさがある。 (額に入った)花を見る壁の手前部分、つまり床の上に存在する花瓶や椅子さらには座っているデイヴィッド・ホックニー本人は緻密で写実的なのに、壁に飾られた20点の花は絵画と分かる質

甲斐荘楠音の全貌展(感想)_着飾った女の美しさと得体のしれない恐怖

東京ステーションギャラリーにて2023年7月1日から開催されていた『甲斐荘楠音(かいのしょうただおと)の全貌』展へ行ってきたので、いくつか心に残った作品についての感想などを。 横櫛(1916年頃)愛する男のために強請りや殺しに手を染める「切られお富」がモデルになり、物語の結末はその愛する男の与三郎というのが小さい頃に生き別れた兄弟だったと知って自害するという悲劇で、業の深さが半端ない。 顔の輪郭が丸っこいせいか少し童顔の印象。しかし女性の背景を知った上で見直すと笑い方が不

ヴァロットン―黒と白展(感想)_バランスの良い画面に込められた物語

三菱一号館美術館にて2022年10月29日から開催されていた『ヴァロットン―黒と白展』へ行ってきたので、いくつか心に残った作品についての感想などを。 ヴァロットンは19世紀後半にパリで活躍した画家で、本展では版画作品がメインに展示されており最後の方では同時代に活躍したロートレック作品も展示されていた。 作品自体は幅30cmにも満たないほど小さいものが多いのだが、白と黒のみで構成された画面には普遍的な物語性があって興味深い。 嘘 アンティミテI 男女の親密な関係をテーマにし

ゲルハルト・リヒター展(感想)_理解が困難な抽象絵画

東京国立近代美術館にて2022年6月7日から開催されていた『ゲルハルト・リヒター展』へ行ってきたので、いくつか心に残った作品についての感想などを。 リヒターの作品を美術館で鑑賞するのは、3度目だけれども私が過去に観てきた展示作品と比較して暗いトーンの作品が多い印象だった。 入口を入ってすぐに展示されていた作品。左右へ走るように塗られた藍色と黄色の上へ、ところどころ塗り込められた赤が印象的な抽象画。 藍と黄は調和しているのだが、濃い色の赤が緊張感を感じさせる。上下左右に動き

没後50年 鏑木清方展(感想)_細部まで緻密に描かれた上品な絵画

東京国立近代美術館にて2022年3月18日から開催されていた『没後50年 鏑木清方展』へ行ってきたので、いくつか心に残った作品についての感想などを。 展示内容は、鏑木清方にとって自己評価の高かった作品も多数展示されているとのことで、東京会場では「生活をえがく」「物語をえがく」「小さくえがく」の三章に分かれているとのこと。 そのため、美人画だけではなく「鰯」「墨田河舟遊」のように、当時の人々の生活の様子を切り取った作品もあるのだが、それらの作品はだいたい小さくて、それなりに混

ミロ展(感想)_頭の中を覗き込むような奇妙な絵画

Bunkamura Museumにて2022年2月11日から開催されていた『ミロ展―日本を夢みて』へ、行ってきたのでいくつか気になった作品についての感想などを。 ジョアン・ミロは1893年にバルセロナで生まれ、パリ、サン=ポール=ド=ヴァンス、マジョルカ島など、スペイン内戦やドイツ侵攻の影響によって場所を変えて活動。1983年に90歳で亡くなっている。 絵柄が楽しげでも、色は暗めだったり 「日本を夢見て」というタイトルのとおり、ミロが日本の浮世絵や墨、民芸品などから創作の影

松江泰治 マキエタCC(感想)_膨大な情報量を含む都市の写真

東京上空から撮影された写真のビジュアルがずっと気になっていた、東京都写真美術館にて2021年11月9日から開催されていた『松江泰治 マキエタCC』へ、遅ればせながらやっと行けたのでその感想などを。 実物と模型の境界が曖昧に 写真展では<CC>と<マキエタ>、2シリーズの作品が並列に展示されていた。CCとは「シティー・コード(City Code)」の略で、各作品には撮影地の都市コードだけが付けられており、詳細な場所までは説明されない。 画面に地平線や空を含めず、被写体に影が生

あやしい絵展(感想)_美醜をあわせもった絵画を覗き見する

あやしいをテーマにまとめられた近代絵画 2021年3月23日から、東京国立近代美術館で開催されていた『あやしい絵展』に行ってきたのでその感想を。 幕末~昭和初期にかけて退廃的、妖艶、奇怪、神秘的、不可思議 といった要素をもつ、あやしい絵画が年代ごとに展示されていた。 展示タイトルに、平仮名の『あやしい』が使われているのは、怪しい、妖しい、奇しい の複数の意味を含ませてのことだと思われる。  主に美しい女性をモチーフにして、愛、絶望、嫉妬、死、諦め といった感情を想起させる絵

小村雪岱スタイル(感想)_優れたデザインセンスによる装幀や木版画

2021年2月6日から三井記念美術館で開催している『小村雪岱スタイル-江戸の粋から東京モダンへ』へ行ってきたのでその感想などを。 小村雪岱(1887-1940)は、大正~昭和初期に装幀や挿絵の意匠、舞台美術などで活躍した。関東大震災が起きるまで資生堂の意匠部にいたこともあって芸術家というよりも商業デザインを手掛けていた人という印象だ。 本の装幀という仕事は、まず文字原稿がありきで、本屋で手にとってもらうために目を引いたり、原稿のイメージを損なわない(または増幅させる)とい

20世紀のポスター[図像と文字の風景](感想)_幾何学デザインによる機能的なポスターの美しさ

2021年1月30日から、東京都庭園美術館で開催している20世紀のポスター[図像と文字の風景]展へ行ってきたので、その感想などを。 本展に展示されるポスターは、1920年代以降ヨーロッパの幾何学的なデザインを扱った「第1章:図像と文字の幾何学」、それら構成的デザインをルーツにもつ「第2章:歴史的ダイナミズム」。 それらに逆行するような1970年代以降のポスターを展示する「第3章:コミュニケーションのありか」の3章に分けて展示されている。 要約すると、旧朝香宮邸には幾何学的な

安野光雅 風景と絵本の世界展(感想)_美しい配色で描かれたユーモラスな絵画

群馬県立館林美術館で開催中の安野光雅の展覧会へ。つい半年ほど前の2019年11月~12月にかけて、館林から距離のそんなに離れていない足利市立美術館開催の『絵本とデザインの仕事』展にも行っているので、およそ半年ぶりの安野光雅の展覧会。近場で同じ人の展覧会が開催できるということは、美術館としての安野光雅展はよっぽど集客が見込めるのか。 安野光雅は島根県津和野出身、1926年生まれの94歳。50年以上も制作を続けており絵本など300冊以上生み出しているという。この写真は家にあった

開校100年 きたれ、バウハウス_均整のとれた機能的なデザイン

東京ステーションギャラリーで開催中の『開校100年 きたれ、バウハウス』へ行って来たのでその感想などを。 まず、いわゆる絵画や写真を感覚的に楽しむような展示を想像していると期待はずれかもしれない。バウハウスの設立された1919当時の急速に発展した工業化社会への知識または建築や工業デザインへの理解が無いと、『バウハウス以後』の影響力に共感すら出来ないと思われる。また、授業課程で利用された習作なども展示されているため、会場内の紹介文や図録を読んで理解しないと展示意図も理解しづらい

夢遊病状態かと思う美しい絵画、『ピーター・ドイグ展』感想

東京国立近代美術館で開催していた『ピーター・ドイグ展』へ。 チラシやポスターへ使用されていた『ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ』のシチュエーションが幻想的で、色使いがとても綺麗で気になっていた。 対対称的な色の服装の二人が並んでこちらを見ているのは、鑑賞者を迎えてくれているようだ。細い道なりの壁はカラフルで目をひくし、夜なのに薄いモヤのような明かりが全体を覆っていて、空にはオーロラのようなものまで見える。どこか遠いところへ来てしまったような、そんな感覚になる絵画だ。

暗い室内の絵画で、心を落ち着けられる「ハマスホイとデンマーク絵画」展

2008年に国立西洋美術館で開催されていたハマスホイ展(当時はハンマースホイと表記されていた)が12年ぶりに東京都美術館で開催されということで観に行く。 タイトルが「ハマスホイとデンマーク絵画」というだけあって、ハマスホイ以外のデンマーク黄金期(1800年~)の絵画が半分以上を占めていた。これらの作品は画家にとって身近な人物の肖像画や自然溢れる風景画となっている。また、デンマークでバルト海と北海の間にある最北端の漁師町スケーインの絵画(スケーイン派と呼ぶらしい)も多数あり、