ミロ展(感想)_頭の中を覗き込むような奇妙な絵画
Bunkamura Museumにて2022年2月11日から開催されていた『ミロ展―日本を夢みて』へ、行ってきたのでいくつか気になった作品についての感想などを。
ジョアン・ミロは1893年にバルセロナで生まれ、パリ、サン=ポール=ド=ヴァンス、マジョルカ島など、スペイン内戦やドイツ侵攻の影響によって場所を変えて活動。1983年に90歳で亡くなっている。
絵柄が楽しげでも、色は暗めだったり
「日本を夢見て」というタイトルのとおり、ミロが日本の浮世絵や墨、民芸品などから創作の影響を受けていたり、存命中の日本での紹介のされ方などにスポットライトの当たる展示になっていたが、私の興味深いと感じた作品はシュールレアリスムに括られるような絵画作品に多かった。
描かれた場所や上下のあいまいな空間に、ユルキャラを思わせるキテレツな生き物たちの漂っている様子は、幻覚でも視て描いたのではと思われるほど奇妙な印象。
柔らかい曲線でゆるやかに描かれたユーモラスな生き物たちには、乳首や性器などが「えっ、そこに!?」と思うような場所についていたりと自由。
人類が原始的な絵を描いたとしたならばこのような絵になったのではないかと思わせるような自由さと素朴な印象もあるのだが、メリハリのある色の組み合わせがバランスよくて独特。
『ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子』は高さが2m近くもある大きな作品で、広めの空間の目立つ場所に展示されていた。
1940年5月のドイツ軍による北部フランス侵攻から逃れるため、ミロはマジョルカ島のパルマへ向かったが、隠遁生活を慰めたのは近所の大聖堂で空想に耽る時だったとのこと。
「ひとり大聖堂でオルガンの音を聴いているうちに心が落ち着いてきた」と後に振り返っており、中心に太い黒の線で描かれたのはオルガンらしいが、私には2つの尖った山が猫の耳に見えてしまう。
画面内には4体の生き物が確認できて、少し幼い印象。誰かがオルガン奏者で、他の生き物は踊っているようにも見える。画面背景は無彩色で薄暗いのだけども生き物たちはなんだか楽しげだし、なんとも賑やかな雰囲気も伝わってくる。目の部分の色の組み合わせが青、緑、赤、黄、黒と様々で背景とのコントラストが鮮やかで目立つ。
グレーの背景の範囲内だけであれば空間の上下左右を把握できそうなのだが、画面上部にいるひときわ大きい人物が画面の右を地面にして立っているため空間の把握が曖昧になる。
オルガンの音色に色がついたと想像すると、全体の印象からはフワフワした楽しげな音楽を想像するのだが、ミロはどんな音楽を聞いていたのか。
『絵画(カタツムリ・女・花・星)』には、絵の中にそれぞれの単語も描かれている。描かれた4つはどれもぐにゃぐにゃした軟体動物のようで、左から順にカタツムリ、女、花が描かれているように思うのだけど、右側にいる生き物は星というより男性のように見えて、どれが星なのか。
生き物のフォルムや色の組み合わせの描かれ方が大人っぽくて洗練された印象でこの絵も好き。いかにもスペインとも感じるのは、きっと色が国旗の色に印象が似ているから。
『焼けた森のなかの人物たちによる構成』は、物騒なイメージを与えるタイトルで、真ん中にいる悪そうな顔がとても印象的。これは右を向いて歩く人の心の内面だろうか。画面下にいる蜘蛛のような丸も不吉な印象。色の組み合わせもなんだか寂しい感じがして、ずっと眺めていると不安な気持ちになってくる絵。
入り口すぐに展示されていた、親友を描いた『アンリク・クリストフル・リカルの肖像』では背景に浮世絵がコラージュされていてポップアートのよう。
背景の浮世絵は作者不詳の粗製な浮世絵と解説にあったが、かなり派手な絵柄。しかしその派手な浮世絵に負けないほど手間の人物のインパクトが強烈。
七三分けされた髪や顔も濃いのだが太いストライプのシャツの柄が強く、色も濃い黄色を基調にしながら、様々な色が混ざり合っているせいで絵に光沢があるのかのような印象を受ける。
『スペインを助けよ』は、フランコ政権に対抗する共和国陣営を支援するために、1フラン切手のデザイン用に制作されたものだが、最終的にステンシル版画として使用された。
「視覚的なインパクトを与えたかった」と制作されただけあって色使いが明快で人物のフォルムも力強い。
他の展示作品がミロの内面を映し出すようなものが多いなかで、明確な目的を持って制作されているのが異色。
絵画がプロパガンダのツールとして影響があったからつくられたから依頼があったのだと思われるが、切手にしようとした発想が現代の感覚からするとユニーク。
『夜の人物と鳥』これは生き物たちがゆらゆらと踊っているような印象。そのため色使いは全体的に彩度が抑えめで不穏な空気なのだが、やっぱりなんだか楽しげ。右上の生き物のフォルムは女性にみえ、左下のには性器がついているように見えるので、右下の三角形のからだをしたやつが鳥だろうか。
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今回の展示内容は、ミロの生涯における創作の全体像を俯瞰できるような展示ではなく、日本の芸術や文化から影響を受けていたことを裏付けるような展示内容にテーマが絞られており、私のようにミロの作品をまとめて鑑賞するのがはじめてのような初心者なら、もっと時代背景や作風の変化などの知識があった方が楽しめたかもしれない。
興味の無い人にしたら落書きと思うような絵画がこんなに評価されているというのも愉快。