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どこまでも透明な「銀河鉄道の夜」

何度も読み返したい本というのがある。そして小説の場合は短編であることが多い。なぜ長編を何遍も読み返さないのかといえば、小説を読む行為というのは大きなエネルギーが必要だからだろう。
 
ぼくにとって読み返したくなる本に宮沢賢治の著作がある。
あの、独特の空気感に触れたいときというのがたまにやってくるのだ。
宮沢賢治の作品は数は少ないながらもどれも名作である。なかでも銀河鉄道の夜が最高傑作と認めるのはぼくだけではないだろう。そんな名作でありながら実は読んだことがないというひとも案外多いのではないか。題名だけ知っていて読んだ気になっているとしたら実にもったいない。
 
銀河のお祭りの夜、ジョバンニは母の牛乳を取りに街を駈けていく。
街はお祭りでひとが出ているのに実感がない。まるで影絵のようだ。
 
ジョバンニだけが血が流れ、息をして、脈を打っている。
ジョバンニが走れば光が流れ、冷たい空気が指の間をくぐりぬけていく。
その空気の感じがそのまま読んでいるぼくを包みこむ。
高原の冷たくて透き通った空気を深呼吸しているような気持ちになる不思議な文章感覚が、ある。
 
カンパネルラの死も父の帰りも透き通った空気の中に溶けてしまう。
そしてみんな色をなくして溶けてしまう。
牛乳を抱えて走るジョバンニもだんだん透明になっていき、
ジョバンニの弾む息だけが聞こえている。
 
どこまでも透明な「銀河鉄道の夜」。
 
ぼくはこの作品を人生の中で何度も読み返すことになるだろう。

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