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短歌の感想・批評

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#現代短歌

短歌研究2024年「300歌人特集」を読む(記録)

 2024年7月7日、日本時間21:50〜24:00、上篠翔と千種創一で「短歌研究」2024年5月・6月合併号…

千種創一
7か月前
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睡蓮試論(川野里子歌集『ウォーターリリー』)

 短歌が主に「私」の声を運ぶ一人称の文学とされる中、川野里子歌集『ウォーターリリー』は、…

千種創一
10か月前
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2023年活動まとめ

 2023年は、本当に色々なものを失った。なのに今、生きる気持ちにあふれているのは、失っ…

千種創一
1年前
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物語の余白にこそ(中井スピカ『ネクタリン』評)

中井スピカ歌集『ネクタリン』は、女性視点からの孤独、痴呆症の進む親との関係、海外への旅な…

千種創一
1年前
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定型の辺境を(野村日魚子歌集『百年後 嵐のように恋がしたいとあなたは言い 実際嵐…

 野村日魚子歌集『百年後 嵐のように恋がしたいとあなたは言い 実際嵐になった すべてがこ…

千種創一
2年前
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靄晴らし(岡井隆歌集『阿婆世(あばな)』)

 岡井隆の死後に出された最終歌集『阿婆世(あばな)』(2022年、砂子屋書房)は、人が死に対…

千種創一
2年前
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20年代を歩くために(松村正直『踊り場からの眺め 短歌時評集2011-2021』)

松村正直が様々な場に発表してきた時評を集めた『踊り場からの眺め 短歌時評集2011-2021』(2021年、六花書林)は、2010年代を振り返る評論集として重要である。 同評論集は、震災詠、評価軸の多様化、口語短歌、作中主体、論客としての永井祐や斉藤斎藤の発言といった10年代の多くの論点について触れている。松村の中立的・相対主義的な書きぶりが特長である。 特集「定型と╱の自由」を組んだ「現代詩手帖」2021年10月号の座談会において、山田航も10年代をまとめている。また、

美術の歌(その1)

李禹煥(リー・ウーファン)は、「もの派」を牽引したアーティスト。もの派とは「石や木、紙、綿…

千種創一
2年前
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成長する水晶(西巻真歌集『ダスビダーニャ』)

西巻真歌集『ダスビダーニャ』(2021年、明眸社)は、生活の苦さの中に水晶のような美しい歌の…

千種創一
2年前
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時差歌会・公開版 (記録)

 2022年5月4日21:00〜22:30、Twitterスペースにて、魚村晋太郎、上篠翔、安田茜、千種創一(…

千種創一
2年前
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開かれた記録性(松本実穂歌集『黒い光 二〇一五年パリ同時多発テロ事件・その後』)

松本実穂歌集『黒い光 二〇一五年パリ同時多発テロ事件・その後』(2021年、角川書店)は、社…

千種創一
3年前
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同人誌「砦」一首評 3

うつらないテレビにわたしの胸板のうすきがうつり暫しを見いる  「境」橋本牧人 この歌が含…

千種創一
3年前
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同人誌「砦」一首評 2

折り鶴は肉を持たない鶴だから風にしゃらしゃら鳴らすたましい  「口腔前庭」田村穂隆 上の…

千種創一
3年前
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同人誌「砦」一首評 1

うたたねにたゆたう肩へ肩を貸し来世も汽水域でありたい  「冬の涯」帷子つらね 眠りは水と相性が良い。「泥のように眠る」や「船を漕ぐ」などの慣用表現があることにも表れている。 電車などのうたたねでぐらぐらとしている人がいるのだろう。その横に座り、肩を貸して、眠りを助けてあげている。そのとき願うのは、淡水と海水の混ざる河口の曖昧な水域、汽水域のように、相手にとっての自分の存在が来世でも曖昧なものであってほしいということ。 眠りの水っぽさと、関係性を示す汽水域という語の調和