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短歌の感想・批評

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記事一覧

短歌研究2024年「300歌人特集」を読む(記録)

 2024年7月7日、日本時間21:50〜24:00、上篠翔と千種創一で「短歌研究」2024年5月・6月合併号…

千種創一
4か月前
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睡蓮試論(川野里子歌集『ウォーターリリー』)

 短歌が主に「私」の声を運ぶ一人称の文学とされる中、川野里子歌集『ウォーターリリー』は、…

千種創一
7か月前
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2023年活動まとめ

 2023年は、本当に色々なものを失った。なのに今、生きる気持ちにあふれているのは、失っ…

千種創一
11か月前
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物語の余白にこそ(中井スピカ『ネクタリン』評)

中井スピカ歌集『ネクタリン』は、女性視点からの孤独、痴呆症の進む親との関係、海外への旅な…

千種創一
11か月前
48

詩集『イギ』試し読み

『イギ』という詩集を青磁社から出版しました。(青磁社 Amazon )「ユリイカ」や「現代詩手…

千種創一
1年前
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詩集『イギ』刊行から1年にあたって

短歌から離れていた時期、ぐちゃぐちゃの僕の精神を支えてくれていたのが、詩を書くという行為…

千種創一
1年前
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定型の辺境を(野村日魚子歌集『百年後 嵐のように恋がしたいとあなたは言い 実際嵐になった すべてがこわれわたしたちはそれを見た』)

 野村日魚子歌集『百年後 嵐のように恋がしたいとあなたは言い 実際嵐になった すべてがこわれわたしたちはそれを見た』(2022年、ナナロク社)は、近代短歌でありがちな個々の私生活の視点ではなく、神話のような視点から、生きること死ぬことについて描くエネルギッシュな歌集だ。その荒々しいエネルギーは、破調の歌の多さにも表れている。本稿では、主に同歌集の韻律について論じる。(引用歌は全て同歌集より。) 1 破調の歌の読解 「私」もしくは神視点が、震えている犬を眺めている、と読んだ。

靄晴らし(岡井隆歌集『阿婆世(あばな)』)

 岡井隆の死後に出された最終歌集『阿婆世(あばな)』(2022年、砂子屋書房)は、人が死に対…

千種創一
2年前
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遠景としての家族(井戸川射子詩集『遠景』)

井戸川射子の詩集『遠景』(2022年、思潮社)は、タイトルのとおり、遠くから何かを眺めている…

千種創一
2年前
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20年代を歩くために(松村正直『踊り場からの眺め 短歌時評集2011-2021』)

松村正直が様々な場に発表してきた時評を集めた『踊り場からの眺め 短歌時評集2011-2021』(2…

千種創一
2年前
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美術の歌(その1)

李禹煥(リー・ウーファン)は、「もの派」を牽引したアーティスト。もの派とは「石や木、紙、綿…

千種創一
2年前
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成長する水晶(西巻真歌集『ダスビダーニャ』)

西巻真歌集『ダスビダーニャ』(2021年、明眸社)は、生活の苦さの中に水晶のような美しい歌の…

千種創一
2年前
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時差歌会・公開版 (記録)

 2022年5月4日21:00〜22:30、Twitterスペースにて、魚村晋太郎、上篠翔、安田茜、千種創一(…

千種創一
2年前
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開かれた記録性(松本実穂歌集『黒い光 二〇一五年パリ同時多発テロ事件・その後』)

松本実穂歌集『黒い光 二〇一五年パリ同時多発テロ事件・その後』(2021年、角川書店)は、社会に開かれた記録性を持つ点で、重要な歌集と言える。 その名のとおり、歌集は、2015年に起きたパリ同時多発テロ事件など一連の事件を背景にした生活を扱っている。しかし、歌には押し付けがましい非難はなく、抑制された風景描写・心理描写が存在している。 シナゴーグ前に並べる警護兵のひとりひとりの低きBonjour(こんにちは) p15 催涙ガスにのどふたがれて走りをり息すればわれぼろぼろ