同人誌「砦」一首評 3
うつらないテレビにわたしの胸板のうすきがうつり暫しを見いる
「境」橋本牧人
この歌が含まれる連作「境」は、境に「きやう」とルビが振ってあるように、歴史的仮名遣いの連作なので、結句「見いる」は、見入る、即ち「みとれる」という意味と受け取った。
消えているテレビの真っ黒な画面に、裸の自分の胸が映り込んでおり、それに見とれているという歌である。
随分と自己愛あふれる歌に見える。しかし、作中主体は、「うすき胸板」に見入ったのではなく、「胸板のうすき」に見入っているのであるから、単に物質的な胸だけではなく、もっと抽象的な、例えば自身の存在の薄さ、生命の薄さ・儚さに見入っているのであろう。この硬質な抽象化は、文語文体の特質である。
自己愛とも受け止められかねない場面を無防備に詠む姿勢こそが、我を忘れて「見入る」という行為の本質をよく表している。
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同人誌「砦」は、2021年11月23日発行。帷子つらね、小松岬、田村穂隆、中田明子、永山凌平、拝田啓佑、橋本牧人、平出奔が参加。入手は以下のリンクから。
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