同人誌「砦」一首評 2
折り鶴は肉を持たない鶴だから風にしゃらしゃら鳴らすたましい
「口腔前庭」田村穂隆
上の句の定義が、読み手の世界を拓く。肉を持たない鶴と言われることで、読み手の脳裏にはどうしても肉を持つ鶴の像が出てくることになり、その像との対比で、急に折り鶴の亡骸感が増す。
下の句で、その折り鶴が一匹ではなく、吊り下げられた、お見舞いに持っていくような千羽鶴であることがわかる。
一方、下の句の体言止めの構造が甘く、いくつかの解釈が生まれてしまう。①折り鶴が自身の魂を鳴らす、②私が折り鶴の魂を鳴らしてあげる、③鶴そのものが魂である、など主語述語がやや曖昧である。
現在の短歌界でスタンダード的な「迷ったときには歌の良さを最大化する読みをする」という立場を取れば、①が自然であろう。つまり、折り鶴がしゃらしゃらと音を出すのは肉を持たないが故であり、その鳴っている音は魂の音である、という解釈である。言外に、骸の折り鶴に残った魂が、何かを求めているような寂しさが醸し出される。折り鶴からここまでの世界を展開できる歌はなかなかないと思う。
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同人誌「砦」は、2021年11月23日発行。帷子つらね、小松岬、田村穂隆、中田明子、永山凌平、拝田啓佑、橋本牧人、平出奔が参加。入手は以下のリンクから。
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