【読書感想文】死神の浮力/伊坂幸太郎

ずいぶん前に購入し、ずっと積読として置かれていた「死神の浮力」。
2024年中に読み終わることができたのですが、年末年始に帰省をしてバタバタしていたため、感想が書けていませんでした。

内容を思い出しつつ、読んでみて感じたことや思ったことを書いていこうと思います。

ネタバレになる可能性もありますので、ご了承いただけますと幸いです。




「死神の浮力」ですが、前作として「死神の精度」という作品があります。
続きものではないのですが、「死神の精度」は短めのお話が何本か入っているようなつくりになっているので、こちらから読む方が入りやすい印象です。
私も「死神の精度」を先に読んでおもしろかったことで、「死神の浮力」についても購入を決めました。

どちらのタイトルにも"死神"とあるように、本作は死神が主人公の物語です。
読む前はホラー系のお話なのかなと少し身構えていましたが、読み進めるとこの”死神”にちょっとしたかわいさを感じるくらい、魅力的なキャラクターとなっていました。

この死神ですが、調査対象の人間を7日間調査し、「可」とするか「見送り」とするかという仕事をしています。
死神なので「可」となった場合というのは、「死」を意味します。
7日間の調査後、「可」か「見送り」かの判断をし、その結果「可」になった場合は調査後に死ぬ、といった感じです。

死神と書いてはいるものの、対象の人間を調査するので、見た目は普通の人間です。ただ、感覚や感情といったものは普通の人間とはちがうため、会話などをするとちぐはぐになることが多々あります。
(そういったかけあいも本書の魅力の一つに感じます。)

そんな死神と調査対象の人間との7日間を描いたものが、「死神の浮力」です。
今回、調査対象に選ばれたのは幼い娘を殺された夫妻の夫、山野辺遼。
ちょっと名の知れた小説家でもあったことから、マスコミやメディアなどに心無い取り上げられ方や取材をされていました。
最愛の娘を失った悲しみに加え、日々のマスコミ対応に疲弊し、「犯人に復讐をする」ということだけを胸にどうにか生きているというような状態。

そんな中、被告人として捕まった男が無罪判決を受け、夫婦の怒り・やるせなさ・喪失感といったものがピークになった時、死神である”千葉”と出会い、ここから千葉と山野辺夫妻の7日間がはじまっていきます。

テーマとしてはかなり重たく、娘を失った親の悲痛さ、虚無感、怒りといううのが全体として描かれているため、読んでいる私にも、犯人への憎しみや恨み、言葉では到底表すことができないであろう感情というのが湧いてきました。
夫婦二人だけでは心が暗くなる空気感を、死神というエッセンスとも劇薬ともつかない要素が入ることによって、奇妙でありながらも、どこか力を抜かせてくれるような印象を受けました。

死についての話題もたくさん出てくるため、生きているということ、そして「いつか必ず死ぬ」ということを突き付けられ、普段意識しないように見ないようにとしていた部分を見せられ、改めて自分の人生について考えるようになりました。

何百年も生きている死神からしたら、人の一生など大した時間ではなく、そんな時間の中で、たくさんの感情に振り回されて生きる人間のことを滑稽に思っているのかもなぁとも思いました。
死=怖いこと、と漠然と思っていましたが、本書を読んで「死ぬことは怖いけれど、怖くない」と思うようになりました。
そして、いつか死ぬのだったら、今を楽しんで生きるほうがいいのではないかとも思うのです。
どうしても未来や先のことを考えがちな私ですが、いつなにがあるかも分からないこの時代で、先の見えないトンネルにおびえるよりも、今この一瞬一瞬を大切にするほうが、いつか訪れる「死」の間際に後悔しないのではないかと。

もちろん、好き勝手にやればいいというものではなく、過剰に不安がらずに、一日一日をしっかりと生きて、刻んで、積んでいくことができれば、それだけで十分なのではないかなと思いました。

これから先の何十年、良いこと、楽しいこと、嬉しいことだけが起これば何も言うことはありませんが、そんなことは不可能です。
人生は辛いこと、苦しいことの方が多いとも感じます。そんなときにこそ、一日一日を積み重ねていくという、難しいけれども大切なことを忘れないようにしたいです。


伊坂ワールドも全開で、言葉選びや文の構成など、久しぶりに伊坂作品を読んだにも関わらずなつかしい気持ちになりました。
中学生のときに伊坂さんの作品に出会ってから、その世界観と言葉選びのセンスと魅力的なキャラクターに心惹かれ、色々な作品を読んできました。

社会人となり、しばらく読書から離れてしまっていましたが、これを機に伊坂作品はもちろん、気になるタイトルについても読んでいこうと思います。


死神シリーズの続編も出るのでしょうか。
もし発売されたら、また感想文を書きたいと思います。




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