マガジンのカバー画像

恋する青の鎖鋸

11
大学入学後、4度フラれた。 恋焦がれて、恋拗らせた男子大学生の恋愛私小説です!
運営しているクリエイター

#彼女

【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸2章①「猿公と重なる」

【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸2章①「猿公と重なる」

前回↓

はじめから↓

 二〇二二年一月二十二日。
 定期演奏会を一ヶ月前に控えた冬休みの日、俺たちは日光の温泉宿に来ていた。



「温泉行きてぇーな」

 サークル帰りの電車で、適当に俺がぼやいたのがきっかけだった。

「俺も行きたいと思ってたわ。日光でも行かん?」
「いいじゃん。中学ぶりだわ」

 その場にいたハヤトが思いの外食いついてきて、あまつさえ二人旅まで提案してくるのには、結構驚

もっとみる
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸1章⑤「この慕情を鎮める術を」

【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸1章⑤「この慕情を鎮める術を」

前回↓

はじめから↓

 それから数日後。

『この前のアフタヌーンティーのお返しで連れていきたい所あるんだけど』

 そのメッセージと共に、ある喫茶店のウェブサイトのリンクをLINEでコノミに送信した。

 高円寺にあるその喫茶店は、店員が旅先で手に入れた食材を用いて、クリームソーダとカレーを提供するという他に類を見ないコンセプトを掲げている。喫茶店のツイッター公式アカウントから毎月限定のクリ

もっとみる
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸1章④「でしゃばりで身勝手な胸騒ぎ」

【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸1章④「でしゃばりで身勝手な胸騒ぎ」

前回↓

はじめから↓

 大学のイチョウ並木が少しずつ色付きはじめた十一月。

 学園祭を間近に控えた学内は、少しだけ浮足立っていた。観客を呼ばずに、動画配信のみのオンライン開催とはいえ、コロナで失われていた日常が徐々に取り戻されていくような気がして、少しだけ嬉しかった。

 吹奏楽団は学園祭のステージに向け、設けられた準備期間の中で練習に励んでいた。感染対策のために設けられたルール上、ステージ

もっとみる
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸1章③「タナトスに見つめられている」

【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸1章③「タナトスに見つめられている」

前回↓

はじめから↓

 気づけば十月になり、残暑を感じる日もほとんどなくなった。大学からの帰宅途中、季節に振り回されて相変わらず温度調節が下手くそな電車に揺られながら、ツイッターのタイムラインを眺めている。四月に大学垢をはじめて以降、ほとんど日課のようになってしまった。受動的に流れてくる多様な情報を、画面をスクロールしながら流し見るのは時間つぶしにちょうどいい。
 フォローしている大学の知人の

もっとみる
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸1章②「あの華奢な体躯の何処に」

【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸1章②「あの華奢な体躯の何処に」

前回↓

はじめから↓

 そういった友人たちに囲まれる中で楽器を吹くのは、やはり楽しかった。
 マスクの着用、アルコール消毒に換気の徹底など、未だに猛威を振るうコロナウイルスへの感染対策を煩わしく感じることもしばしばあるが、何もできずに終わった高校三年生の時よりは圧倒的にマシだ。しかし、「楽器を一日吹かないと戻すのに三日かかる」とはよく言ったもので、一年以上あったブランクを取り返すのはかなり難し

もっとみる
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸 0章③「彼女の本音は」

【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸 0章③「彼女の本音は」

前回↓

はじめから↓

 二〇二一年四月二五日。三度目の緊急事態宣言が発令なされた。
一度目ほどの強制力はなかったものの、とどまることのない感染拡大を重く受け止めた俺の大学は、二週間の休校という判断を下した。政府が再び中途半端なことを言っていると軽い気持ちで受け止めていたために、かなり衝撃を受けた。
 ユウキばかりに目を向けていないで、始まった大学生活を満喫しようと思った矢先にこれだ。荒む心が再

もっとみる
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸 0章②「その姿を見るだけで満足すべきだった」

【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸 0章②「その姿を見るだけで満足すべきだった」

前回↓

 デート当日。ユウキとは駅の改札で待ち合わせた。駅からしばらく北へ歩き続けて、少し前時代的な商店街を抜けると、小江戸の町並みが視界いっぱいに広がった。流石は川越が観光地として誇る景色だ。伝統的な蔵造りの家屋が道の両脇に立ち並び、行き交う人々をレトロな風情に誘う。背の低い建物の中で一際目立つのは「時の鐘」と呼ばれる鐘楼。雲ひとつない晴天に向かって突き出されたシンボルがあまりにも様になってい

もっとみる
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸 0章①「何回ごめんなさいと書いてあるんだろう」

【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸 0章①「何回ごめんなさいと書いてあるんだろう」

プロローグ

「恋愛に夢見てない人がいい」

 躊躇いなく、彼女が言い放つ。

 自分にとって好きな人であり、好きだった人であり、鮮烈で唯一だった貴女。

 今はもう貴女に向ける感情が何なのか、何であるべきか分からず、ただ「かけがえのない」としか形容できなくなってしまった。

 彼女と別れたあとの帰路で身勝手にこぼす。

「じゃあ俺は違うね」

 恋愛に夢しか抱けないのだから。

※この作品は現大

もっとみる