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#彼女
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸1章⑤「この慕情を鎮める術を」
前回↓
はじめから↓
それから数日後。
『この前のアフタヌーンティーのお返しで連れていきたい所あるんだけど』
そのメッセージと共に、ある喫茶店のウェブサイトのリンクをLINEでコノミに送信した。
高円寺にあるその喫茶店は、店員が旅先で手に入れた食材を用いて、クリームソーダとカレーを提供するという他に類を見ないコンセプトを掲げている。喫茶店のツイッター公式アカウントから毎月限定のクリ
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸1章④「でしゃばりで身勝手な胸騒ぎ」
前回↓
はじめから↓
大学のイチョウ並木が少しずつ色付きはじめた十一月。
学園祭を間近に控えた学内は、少しだけ浮足立っていた。観客を呼ばずに、動画配信のみのオンライン開催とはいえ、コロナで失われていた日常が徐々に取り戻されていくような気がして、少しだけ嬉しかった。
吹奏楽団は学園祭のステージに向け、設けられた準備期間の中で練習に励んでいた。感染対策のために設けられたルール上、ステージ
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸1章③「タナトスに見つめられている」
前回↓
はじめから↓
気づけば十月になり、残暑を感じる日もほとんどなくなった。大学からの帰宅途中、季節に振り回されて相変わらず温度調節が下手くそな電車に揺られながら、ツイッターのタイムラインを眺めている。四月に大学垢をはじめて以降、ほとんど日課のようになってしまった。受動的に流れてくる多様な情報を、画面をスクロールしながら流し見るのは時間つぶしにちょうどいい。
フォローしている大学の知人の
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸1章②「あの華奢な体躯の何処に」
前回↓
はじめから↓
そういった友人たちに囲まれる中で楽器を吹くのは、やはり楽しかった。
マスクの着用、アルコール消毒に換気の徹底など、未だに猛威を振るうコロナウイルスへの感染対策を煩わしく感じることもしばしばあるが、何もできずに終わった高校三年生の時よりは圧倒的にマシだ。しかし、「楽器を一日吹かないと戻すのに三日かかる」とはよく言ったもので、一年以上あったブランクを取り返すのはかなり難し
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸 0章②「その姿を見るだけで満足すべきだった」
前回↓
デート当日。ユウキとは駅の改札で待ち合わせた。駅からしばらく北へ歩き続けて、少し前時代的な商店街を抜けると、小江戸の町並みが視界いっぱいに広がった。流石は川越が観光地として誇る景色だ。伝統的な蔵造りの家屋が道の両脇に立ち並び、行き交う人々をレトロな風情に誘う。背の低い建物の中で一際目立つのは「時の鐘」と呼ばれる鐘楼。雲ひとつない晴天に向かって突き出されたシンボルがあまりにも様になってい
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸 0章①「何回ごめんなさいと書いてあるんだろう」
プロローグ
「恋愛に夢見てない人がいい」
躊躇いなく、彼女が言い放つ。
自分にとって好きな人であり、好きだった人であり、鮮烈で唯一だった貴女。
今はもう貴女に向ける感情が何なのか、何であるべきか分からず、ただ「かけがえのない」としか形容できなくなってしまった。
彼女と別れたあとの帰路で身勝手にこぼす。
「じゃあ俺は違うね」
恋愛に夢しか抱けないのだから。
※この作品は現大