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読み切り恋愛短編集【れれこい】 14.メタバース 818
読み切り恋愛短編集【れれこい】
前日譚⤵️
※読み切りですが、関連のある章には同じヘッダー画像を使用していますので、ご参考になさってください
第14話 メタバース
男には生涯をかけて愛し抜こうと決めた女がいる。
人生のそれぞれのステージに、いつも女がそばにいてほしいと願っている。
四六時中ふれあって、温もりを感じながら眠りにつきたいと望んでいる。
女が望むなら、全ての楽しみを封印してしまうことなど少しも惜しくないと思っている。
一途なのね。
女は、愛してくれる男がいることを好ましく思っている。
女を可愛いと言ってくれる男のことが愛しいと思う。
女のことを何よりも優先してくれる男のことが好きだと思う。
女にはかつて愛した人がいる。
かつて愛した人のことを嫌いになったわけではない。
かつて愛した人と、男に向ける愛の種類が異なるだけだ、と思っている。
友達と恋人と家族に向ける「愛」は別だもの。
男にもかつて愛した人がいた。
一生の伴侶だと思い定めた人もいた。
もう、かつての愛情は感じない。
今となっては、どうして愛せたのかも解らない。
この世で一番大事なのはこの女だと思っている。
これから先もこんなに愛することはないと思っている。
最大で最後の恋だと信じている。
気持ちが変わる経験したのに?
女は、優しい男に安らぎを感じている。
女が会いたいときに会いにくる。
どこにいても会いにくる。
どんなに忙しくても会いにくる。
同じ朝を迎えたいときには、泊まりにくる。
男の部屋にも泊まりに行く。
ひとりの時間にも安らぎを感じる。
かつて愛した人と過ごす時間にも、安らぎを感じる。
都合のいい男になってるよ。
男は自分の全てを捧げてでも、女ただひとりから愛されたい。
男の全てを犠牲にするから、自分だけを想っていてほしい。
女の唯一の愛が手に入るならば、他に何も残らなくても男に悔いはない。
男は、何者でもない者になることに躊躇いはない。
女のためなら、たとえ世間に存在を忘れられても構わない。
献身と自己犠牲は違うのよ。
女は自由でいたい。
男のことを自由に愛したい。
男からも自由に愛されたい。
愛の形は変わっても、かつて愛した人とも自由でいたい。
女の時間は女のもの。
使い方は女自身が決める。
いくら愛しくても、男を必要としない時間がある。
ひとりで過ごす時間も男以外の誰かと過ごす時間も手放せない。
束縛は嫌よね。
男は悩む。
男は苦しむ。
男は疑う。
でも男は信じたい。
こんなに愛情を注いだのに。
こんなに時間を割いたのに。
こんなに尽くしたのに。
こんなに我慢したのに。
こんなに自分を捨てたのに。
強制されたわけじゃないでしょ。
女は不思議に思う。
愛してって頼んだ?
時間を割いてって言った?
我慢を強いた?
自分を失くすなんてどうかしてる。
男のことは愛してる。
いつか一緒に暮らしてもいいと思う。
でもそれは今じゃない。
自分の時間を存分に味わい尽くしてから。
安心や安定が欲しくなればね。
それでも男は決めた。
生涯、女を愛し続けることを決めた。
たとえ穏やかさとも、暖かさとも、優しさとも、柔らかさとも無縁でもいい。
女を愛し続けることに決めた。
男の時間は女のもの。
男の想いは女のもの。
男の全ては女のもの。
実らなくても、それは信念。
後悔しなければいいけれど。
男に仄かな想いを寄せていた私は、稀有な男と稀有な女の仮想空間には、入り込める隙などないとすっかり諦めがついている。
きっと伝わらないわね。
覚えておいて。
時の流れは移ろうもの。
人の想いは変わるもの。
それでも幸せになってみせてよ。
心の底から祈ってるから。
(秋実れれ子)
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