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鎌倉に「何を頼んでもおいしいお店がある」と聞いて

ー この言葉、最上級の品質保証 ー


秋風が切なく感じられる今日この頃、私は鎌倉に出かけた。


おめあては夜ごはんだった。


鎌倉といえば何を想像するだろうか?


お寺巡り、江ノ電に乗って江ノ島観光、鳩サブレー、小町通りで食べ歩き、海岸でチルアウト、生しらす丼


私はざっとこんな感じをイメージする。


今まで鎌倉で夜ごはんなんて、食べたこともなければ考えたこともなかった。


(私だけ?)


だから「鎌倉で夜ごはん」という今回の目的は、私にとっては未知の世界で、行く前からその特別感にドキドキしていた。


このお店を紹介してくれたのは、私が崇拝してやまないフードエッセイスト・平野紗季子さん。


そのお店というのは、鎌倉の小町通りからちょっと奥に入ったところにある「オステリア コマチーナ」


(一応「ワイン食堂」や「イタリアン」という肩書きがあるらしい。)


一日中鎌倉を観光していた私と友だちは、無数にきらめく飲食店の誘惑を何度もくぐり抜け、ついに最高のコンディション(ベリーハングリー)でお店のオープンと同時に入店した。


オレンジがかった暗めの照明がムードを演出してくれる。


手書きで写真が一切載っていないメニューが渡される。


うっきうき。


メニューを選ぶ時間ほど楽しいものはない。


しかもこのお店は「何を頼んでもおいしい」から、メニューとしっかり向き合うことができる。



ここからは2人で食べた全6皿をご紹介


桃とフェタチーズのサラダ


これが出てきた瞬間、ときめかない人がいるだろうか。いや、いないだろう。(反語)


大きすぎる桃を1つお皿にとって、フォークとナイフで一口大に切って口に入れた。


あ〜〜〜っまい!


素晴らしくずっしりした甘さ。


かためで重くてツンと冷えてて甘い桃。


今シーズン食べた安い桃がどれも水っぽくてイマイチ甘くなかったという、かわいそうなんだか安物を買った自分が悪いんだかな私、天に昇る。


フェタチーズの塩気とオリーブオイルの香りとマッシュルームのほろ苦さもいいアクセントになっていた。


桃の種に近い赤いところまでキレイに取れているのもすごい。謎。


感動しているところで2皿目も到着。


ポテトフライ


大皿にごろごろのせられているじゃがたち。


あつあつのうちに一口。


さくっ

ほくっ

じゅわっ


ひと口という一瞬のうちに起こった感動のドミノ倒し。


シンプルなのに、今まで食べてきたどのポテトフライよりもおいしい。


(歴代フライドポテトランキングの1位が塗り替えられた。ちなみに今までの1位はマクドナルドのフライドポテトだった。)


ほくほくしかしないと思っていた。

しかしそこにあったのは、想像よりもひとまわり小さいほくほくと、その外側の想像よりひとまわり大きいさくさく。

そして塩だけで味つけされたフライドポテト全体のじゅわじゅわ。


皮がついているのもまた良い。


ジャガビーを揚げたてあつあつのうちに食べたらこんな感じなんだろうなあという味だった。


そうこうしていると3皿目も到着。


サバのリエット


実はこちらのメニューには少々のドラマがあった。


リエットという言葉の意味を早とちりしていたのだ。


インスタグラムなどでよくこのお店の魚のフライの写真を見かけていた私たちは、「サバのリエット」という文字を見て、勝手にこれがそのフライだと決めつけて注文していたのだ。


しかし注文した後にもう一度メニューを眺めていると、別の場所に「サワラのフリット」という文字を発見した。


「フリット」


・・・


フ、リ、ット、、、


・・・


「字面的にフライっぽいのこっちなんじゃ、、??」


・・・


「じゃ、じゃあ、リ、リエットって、何??」


(青ざめる私たち。)


友だちがググろうと一瞬スマホに手を伸ばした。


しかしその友だち、


「やっぱ調べない!」


と言って手を離した。


未知のものに出会ってしまった以上、諦めて潔く未知のまま登場するのを楽しみに待つ姿勢。


登場するまでの想像が膨らんでいく時間も楽しい。


私はサバのカルパッチョ的なものが出てくるのを想像していた。


しかし登場したのがこちら。



私は無意識のうちに、「勝ち組だわ、、。」とつぶやいていた。


後日リエットについて調べた。

リエット・・・パテに似たフランスの肉料理である。豚のバラ肉や肩肉を角切りまたはみじん切りにし、強めに塩を振って、脂肪の中で簡単にほぐれるまで弱火でゆっくりと加熱し、脂肪分がペースト状になるまで冷やす。(wikipediaより)


こんな知識をかけらも持ち合わせていなかった私たちは、何も考えずに、(手を入念に拭いてから、)1つとって食べた。


かりっ

ひんやり

じゅわ〜〜


薄くてこんがり焼かれたかりかりさくさくのバゲットと、その上にこんもりのせられたサバのリエットなるもの。

このリエットがまたとんでもなくおいしい。

サバにバターがちょっと練りこまれているっぽくてじゅわっとするのもいい。

ひんやりしているのもいい。

バゲットに対するリエットの十分すぎる量も大満足。


この辺りで、食べ始めてから2人して「おいしい」しか言ってないことに気づく。

(一瞬「おいしい」をNGワードにしようとするも、無理すぎて断念。)


バゲット

そしてこの辺りで気になり始めたのが、テーブルの隅にずっと置かれていたバゲット。


自家製らしい。

1つとって口に入れた。


もっちもち


今まで食べた中で一番もちもちしていたバゲットと言っても過言ではないくらいにもちもちしていた。

一年ほっといても十年ほっといてもパサパサにならなそう。


風味も強い気がした。

(ていうかこんなにパンをパンだけで味わったことがそもそもない。)


そうこうしているうちに今回のメインディッシュが登場した。


レモンクリームスパゲッティ


このスパゲッティ、とんでもないポテンシャルを秘めていた。

まずレモンクリームというところから新しいのだけれど、それだけじゃない。


スパゲッティはただのスパゲッティだと思っていた。

でもこの写真をよ〜く見てみてほしい。

おわかりいただけるだろうか、このとんでもない太さ。

茹ですぎてぶよぶよになったスパゲッティの食感をイメージして口に運んだ。


!?!?


食べた瞬間、本当に食べた瞬間、度肝を抜いた。


食べ終わらないうちに、目を見開いた。


(友だちも私と同じで、食べ終わらないうちに目を見開いていたのには笑った。)


もっちもちでちゃんとアルデンテな直径very bigスパゲッティ。

(極太麺という言葉はニュアンスがちょっと違ってきそうだったからここでは用いないことにする。)

スパゲッティ界の異端児。

スパゲッティをその中でさらに細かく分類するとしたら絶対端っこのジャンルに入れられるであろうスパゲッティ。


なんだこれ、と、言葉を失った。


そんなスパゲッティにこれまたよく絡んでいるのがレモンクリームソース。


レモンのほのかな酸味とクリームの濃厚さがちゃんとスパゲッティにまとわりついている。


具なんてない。

具なんていらない。


シンプルの極みに魅せられた。


スパゲッティを食べ終えて、ちょっとずつお腹に余裕がなくなってきた私たち。


「あと1皿かね〜」

と言って、おかずを頼むかデザートを頼むか迷う。


迷った挙句、先ほどの「サバのリエット事件」で食べそびれていた魚のフライ、「サワラのフリット」にリベンジすることに決めた。


サワラのフリット


やっとお目にかかれた。(感涙)


一口かじる。


ふわっふわ。


そして、塩で味つけしただけなのになんでこんなにおいしくできるの?と疑問に思うほどおいしい。


そういえば今日、このお店に入ってから余計な具が入ったものを食べていない。


洗練されていてシンプル。


かっこよすぎる。


私たちは満腹と満面の笑みでゴールテープを切った。


終始にやにやがとまらない夜だった。


テーブルの真横にある出窓が開いていた。

白ワインを飲んで少し火照った顔に秋の夜風が涼しい。


・・・


大好きな人(平野紗季子さん)のお墨付きのお店だからめちゃくちゃ期待して行ったけど、それをはるかに上回る感動があったからとんでもなく幸せだった。


「何を頼んでもおいしい」と言われると、写真も口コミもないメニューでも安心して注文できる。


逆に、最近は食べる前から写真や口コミなどの手がかりを求めすぎていた。


私はいつの間にこんなに臆病になっていたのだろう?


間違えて頼んだ「サバのリエット」が、未知の食べ物を食べることの面白さを教えてくれた。


人生最高に幸せな夜ごはんだったかもしれない。


・・・


次の日、私はアルバイトに行った。

そこの社員さん、最近立て続けに起こる命に関わる悲しいニュースに、心がざわついているようだった。

(ざわざわする感じ、私もわかります。)


その話の流れで、私は「最近幸せなこととかあった?」と聞かれた。


昨夜のコマチーナの余韻にまだまだ浸っている最中だった私は、

「ありましたよ、昨日。友だちとおいしいごはん食べました!」

と目を輝かせながら言った。


すると社員さん、

「いや〜そういう小さな幸せって大事だよ〜!!」

と安心したように言った。


いや、

いやいやいや、

ちょっと待て!!


全然ちっちゃくないから !!!



私のまだまだ短い人生で最大レベルの幸せは、何も知らない大人によって有無を言わさず「小さい」幸せに振り分けられた。

(悪気がないのがまた悔しい。)



「小さい」幸せをこれからも大切にしていこう!!





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