追い求めた先に
焦燥感に駆られ、安心を求めて突き進む。
今の自分を変えたかっただけなのに、ちょっとした歯車の狂いから、いつの間にか見分けがつかなくなっていく善悪の区別。
金銭感覚が麻痺してゆき、いつしか大金を使いこむことが当たり前になっていく。
けれど、どんなに大金をはたいても、少し経てば消えていく高揚感。
やがて不安になり、その不安をかき消すために、目についたブランド品や高価な化粧品を再び購入することの繰り返し。
そして遂に、勤務先の銀行で巨額を横領するまでに至ってしまう…
角田光代先生のサスペンス小説『紙の月』。
この小説も、10年前に映画化されていたことも、最近初めて知った。
お金の魔力。
満たされない心。
そうなってしまった経緯。
主人公の梨花本人にも、いくら使ったのか分からない途方もない金額。
すでに自分を止めることが出来なくなってしまった梨花。
そして自分の不正の周知を無意識に望むようになる心理。
『自分の居場所』『本来の自分』を求めただけなのに…今まで生きてきたすべての時間、すべての出来事によって作り上げられた自分という存在と向き合う梨花。
ラストシーン。
タイ・ラオス国境の町、チェンコンに逃げて来た梨花。
日本での贅を尽くした生活と、逃亡先のタイでの質素な生活。
その落差は計り知れないほど大きいが、それでも梨花は生きている。
果たして梨花はここで捕まるのだろうか?
坦々とした印象だったが最後まで小説に惹きつけられ、余韻を残したまま物語は幕を閉じた。