エンゼルメイク
「この人、眠っているの?」
TVを見ながら呟いた。その女性は綺麗に化粧を施され、白いドレスを着て、今にも目を開けて、起き上がるかに見えた。
それは、モナコ公国の公妃グレース・ケリーの葬儀での光景。
交通事故で非業の死を遂げたとは思えないくらい、棺の中の死に顔は安らかだった。(お国柄か、棺の中まで映していた。)
まるで1つの完成した芸術作品のようにすら見えた綺麗な死に顔。
もっとも一国の公妃が亡くなったのだから、TVで全世界に放映されても良いように、国をあげて最大限、手を尽くしたのだろう。
それは、私が初めて『エンゼルメイク(死に化粧)』というものに触れた出来事だった。
映画『おくりびと』(2008年 日本映画)で初めて知った納棺師という職業。
『旅立ち』に際し、生前の写真と見比べながら、その人らしさを最大限表現しようと化粧を施す凛としたシーンの数々。
それらは、人生最後の葬儀という儀式の、研ぎ澄まされた、丁寧で静謐な舞台裏。
悲しいシーンなのに、上品で、美しくさえある。
エンゼルメイクは決して強制ではない。
けれど、死に化粧とは、死を悲しむだけでなく、残された側が、静かにその死を受け入れ、乗り越えていくのに必要な過程の1つかも知れない。
誰にでも、必ず訪れる死。
中々触れづらいテーマだが、劇中では、時に笑いを交え、観客の気持ちをほぐしつつ、死と向き合う納棺師という職業の奥深さを描いている。
それは、本人が安らかに、そして見送る側も納得し、その死を自然なものとして、時間をかけて受け入れていくのを支え、見届ける尊い仕事。
理想の最期とは何かを問いかけつつ、観客に寄り添いながら、一緒に考えていくように感じた作品だ。