試される時
人に裏切られた時は、きっと自分自身が試されている時ー
数年前、ミュージカルにもなった遠藤周作先生の名作『王妃 マリー・アントワネット』。
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この作品に登場する娼婦マルグリットは、ある晩、石畳の上に倒れている。
まだ17才の若い娘だが、食べるために路に立っていて、酷い風邪をひいてしまったのだ。
近くの家に担ぎ込まれ、回復の後、司祭館に女中として雇われることになる。
そこで出会ったのが修道女のアニエス。
マルグリットと年も近く、気立ての優しい彼女は、聖書を読む自分の姿を羨ましそうに見ているマルグリットの視線に気づく。
そこでアニエスはマルグリットに読み書きを教えてみる。
一ヶ月も経つ頃には簡単な言葉が読めるまでになったマルグリットにアニエスはすっかり感心する。
それまで教育を受けるチャンスがなかっただけで、マルグリットにはやれば出来るだけの能力が備わっていることをアニエスは見抜く。
けれどアニエスの期待も虚しく、ある朝、司祭館の台所の机に、覚えたての文字で『さよなら』とだけ書かれた紙を彼女は見つける。
それから月日は流れ、パリでのある日の夕方。
アニエスとマルグリットは偶然再会する。
何も言わずに姿を消した自分を責めることなく、優しい言葉をかけてくれるアニエスに後ろめたさを感じるマルグリット。
その時、飢えと貧しさを経験したことのあるアニエス修道女だけは、他の貴族や聖職者と違い、マルグリットは信じられるような気がするのだった。
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アニエスとマルグリットの再会は、アニエスの心の広さと優しさに包まれてしまうような気がするシーン。
たとえ恩知らずな人に出会っても、そうなるには事情があることを察知し、何も聞かずにすべてを受け入れてくれる器の大きさ。
誰にでも出来ることではないけれど『人を信じる』というアニエスの姿勢は、この作品における私の中の名場面。