映画「落下の解剖学」感想と解説
こんにちは、ハイエナのねいねいです。
やっぱ映画祭でノミネートや受賞している作品は面白い。「落下の解剖学」も個人的に超よかったです。
🌈✨落下の解剖学
ジュスティーヌ・トリエ監督作品。
面白いと聞いていたので、楽しみにしていました。
🌈✨初見の感想
音や音楽について
私は映画を見る上で音楽や音がもたらす効果を重視して観るんですが、この視点で見ると面白い"カラクリ"があって、なんと「生活している上で出る音」と「自然が発生させる音」しか鳴ってませんでした。(※エンディングを除く)
大音量で流れていた音楽はありましたが、あれも父親が流していた曲で登場人物が実際に聞いていた音になるので生活音です。ピアノの音もダニエル君が弾いていた生活音です。
そしてBGMが流れていないだけあって、音だけで表現しなくちゃいけないので、「息遣い」や「唾を飲みこむ音」などもしっかり聞こえたと思います。
少なくとも私が過去観た映画では、そういった生活音や雨や風と言った自然が発生させる音以外に、その場の雰囲気をよりよく伝えるためのBGMが少なからずかかっているので【全くBGMがない】という映画に出会ったのは初でした。この時点で個人的は斬新すぎて耳が楽しかったです。
ストーリー
ミステリーなのかと思って、一生懸命犯人探しをしてました。笑 息子のダニエル君が実は殺したんじゃないか!?と最後の最後まで疑ってましたが、そんなおそろしい話じゃなかったw
でもミステリーの面白さはありましたね。母親が殺したのか、息子が殺したのか、それとも第三者が実はいて殺害されたのか、自殺か事故か…。
ただこの映画単純なミステリーじゃなかった。
裁判を通して真相を突き止めようとしてるけど、誰にも真相がワカラナイ、記憶も曖昧な状態で、ひたすら仮説や妄想で答えを出そうとしてるので謎が紐解けるというよりは可能性の話しかしていません。
息子のダニエル君が終始裁判を傍聴し、最後に証言したから勝ち取れた「無罪」であって、もし裁判長の言われるまま途中で傍聴を辞めていたらおそらく母親は「有罪」になってる可能性は高いと思います。
ダニエル君を疑いたくないですが(ずっと疑ってた癖に笑)最後の証言ももしかすると母親を助けるための嘘だったり、記憶が間違っている可能性だってあります。証明するものがないので。
この映画は「曖昧なことしか分からない」状態で母親の有罪無罪を決めつけると言うなんともおそろしい映画です。でもこれがこの映画の面白さとリアリティなんだと思います。
父親を亡くして悲しい中、母親に疑いがかかるという、めちゃくちゃ重たくてしんどい話でしたね。母親とダニエル君の精神的なダメージ相当デカいと思います。
母親は有名な小説家ということなので、世間へのイメージもありますし、夫婦という関係性の中で円満な時もあれば喧嘩する時だってあるでしょうに。(※暴力はいけません)
そして一緒に生活する中で蓄積したストレスは誰が悪いとかハッキリと言い切れない部分もあり、裁判では人生の1部分だけ切り取って犯人だと決めつけようとする…
この部分はとても勉強になりますね。他人の人生のことなんて簡単には理解できないであろうに、人生のほんの少しの1部分を切り取るだけで、容易にイメージや運命を大きく変えてしまう危険性。
裁判でなくても1部だけ切り取ってイメージ操作するのはメディアだったり、Twitterとかでもよく見かける行為です。発信する側も受け取る側も注意すべきことです。
(真相は一旦置いといて)裁判の結果、映画としては本当に無罪で良かった。もし母親が有罪になっていたらと考えるとダイエル君にとって相当つらい…。
ただ、ちょっぴり真相は気になる。ダニエル君を信じて(笑)あの証言を聞けば、自殺っぽいなって思います。と言うかもうその結末を信じたい。そうじゃないと私もつらい。笑
が、私の気持ちとは別に映画の脚本として描かれなかった真相があるのだろうか?と。気になって夜も眠れないです。笑
でも犯人や真相を語ってしまうとこの映画の良さや面白さが失われるので、この結末で正解だと思います。
そしてこの映画には面白い"カラクリ"がたくさん仕込まれているので、ストーリーと合わせてさらに楽しめました。
いくつも仕込まれた"カラクリ"の解説
この映画、やけにリアル。途中で「この映画ってもしかしてノンフィクション?」と疑うぐらいには。いや、そこらへんの実写映画よりも実にリアルに描かれているんじゃないだろうか。
映画を観てるというよりはリアル過ぎて、実際に裁判所で傍聴しているような没入感がありました。私は普段から没入感を求めてドルビーシネマやIMAXを選んで映画を観ていますが、映画を最高の空間で集中して観るとはまた違った、現実味がありすぎて現実の話なのか分からなくなるっていう感覚や体験、この没入感はむしろ初体験でした。(そういう題材を選んでいるにしても)
一応、母親が小説を書く時や裁判の証拠として(正確な台詞は忘れましたが)「作品の中に現実や実話を混ぜて、現実なのかフィクションなのか分からないようにする」みたいな台詞がありましたよね。
これも伏線だったとは。(上手い"カラクリ"だなぁ…)
映画の中だけの話かと思いきや、観客にもまるで映画の中にいるような感覚を味わえるような構造でした。映画を見終わった後「映画を観た~!!」って感覚よりも「なんか実際に起こっている裁判を傍聴したような気分だな」って感覚です。
※ただ、ごめんなさい。すごくリアルとは言いましたが、実際裁判を傍聴した経験はないのでこの部分は私のイメージの感覚です。海外の裁判傍聴した経験ある方も多くはなさそうだけど…
そして、もう一つ仕込まれていた"カラクリ"が。
最初に述べた「音や音楽について」です。「生活している上で出る音」と「自然が発生させる音」しか鳴ってないと書きました。
リアルな没入感を与える効果を発揮したのは、この音の仕込み"カラクリ"ですね。このためにBGMを使ってないんだと思います。ちゃんと納得の理由があった!!
それと、ダニエル君について。
目が悪いダニエル君はおそらく「真相が見えないこと」を具現化したキャラクターだと思います。
裁判の中で録音された夫婦喧嘩を聞くシーンがありましたよね。録音された「会話、何かが割れる音、殴り合いの音、荒い息遣い」を聞いて、その場で何が起こったのか?を質問して母親が答える。
母親が嘘をつく可能性もある中で、録音された音だけを聞いて何があったのか想像するというのは、母親以外の登場人物にとっては「視覚的な情報は不明だけど、音だけは真実」という状況です。
(余談)面白いのは母親は1度嘘をついていることがバレているし、不倫の経験もあり、人間的に少し信用ないように描かれている。
「視覚的な情報は不明だけど、音だけは真実」というのは、目が悪いダニエル君が普段から体験していることと一致しています。
"リアリティさ"を損ねてしまうBGMを差し込まない作り、そしてどうやって父親は死んだのか「真相が見えないこと」「父親が死んでいる事実だけが認知できること」にも繋がっているように思います。
🌈✨最後に
映画を見る上で音楽や音がもたらす効果を重視して観ると言いましたが、まさにこの映画は"音"が重要な要素になっていたので、わたしはとっても楽しめました。
音遊びとしてとても良い映画に出会えました。
それではまた~