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曼殊沙華、あなたの瞳に映ってた。

きしょうてんけつのない世界に憧れる。

たぶん、今じぶんがここにいるのは、

き、しょう、てん、ぐらいの位置なんだろう。

物事が順番に進んでゆくことに、軽い抵抗を覚えるし、

いつだってランダムがいいなってどこかで思ってる。

10年ぐらい前、好きな人が教えてくれた

ロラン・バルトの「偶景」。

<木の葉のように落ちてくるあらゆる>出来事、つまり

偶然の小さな出来事だけで構成されている本だよって、

教えてくれた。

ある日

鎌倉の腰越あたりで降りていった人をみていた。

足取りを止めて、掲示板の前に佇んで。

お寺で見頃の曼殊沙華のポスターに見入っていた。

朱の色をわたしの中に残したまま、電車は発車する。

その人の瞳には、想いを潜めた弥立つ眼差しが

滲んでいた。

昔好きだった人の声が甦る。

「偶景」という言葉と共に。

はじまりも、おわりもない。

はじまりはおわりで、おわりははじまり。

出来事はそんなあわいの中で生まれているもの

なのかもしれない。






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