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猫に負けてしまう雨の夜。

恋は猫。

猫は恋。

好きな人が暮らしてほしくないワーストワンは
猫だ。

母親や妹はぜんぜんいい。

でも猫だけはなんかいやなのだ。

トオルがずっと暮らしていたのはオスの
黒猫だった。

彼らは恋していた。

まぎれもない恋だった。

トオルがある日胸の中に抱いていたのは、
雨の日のダストボックスの近くで
ヤギみたいな声を枯らしていたその子だった。

夜に出会ったから、ノアールと名づけたらしい。

窓の外を見るのが好きだった黒猫。

ノアールはとにかく窓に伝う雨をみるのが
なにより好きだった。

まろやかなその背中はいつもなにかを隠している
ような知ってるようなそんな姿で栞をしなやかに
拒んでみせた。

雨を映す出窓はもうあの日からずっと空席のままだ。

雨粒をみるのは栞も好きだったけど。

出窓の指定席はノアールの場所のような気がして。

あれからもうそこで雨粒をみることもなくなった。

くっついては、はなれてみたり。
いつのまにかちっちゃなひとつが
ふくらんで。

どれよりもおおきなひとつにすがたを
変えてもっと大きくなりたくて
隣の水玉のだれかをいざなってみたり。

ノアールがみていた世界を栞も知っている。

ある日の夜。

駅の中二階から栞はゼブラゾーンに咲く
傘の花をみていた。

みんなひとりひとりが傘の中に棲んで
いるのにどしゃぶりのなか、
ずぶぬれになってもかまわず走り抜けてゆく
男の人がいた。

誰かの傘をあてにしないぬれるがままに過ぎて
ゆく男の人。

だいじな誰かに逢いに行くためだけにまっすぐな
ひと。

栞はその男の人の顔も姿も着ているものがいつしか
トオルに見えてきた。

そして彼が一目散に雨に濡れながら走っている先に
いるのは、黄昏が匂うノアールだったりするのかも
しれないと夢想した。

栞はそのときふられたんだなってどこかで
みらいのじぶんを想った。

きっとそう。

そしてほんとうは。

栞もノアールがいなくなって
から彼を愛していることに
気づいていた。

ノアールに負けて恋しくて雨みたいに泣いた。


🐈‍⬛  🐈‍⬛  🐈‍⬛

今夜もこちらの企画に参加しております。
いつも素敵なお題をありがとうございます🐈‍⬛

 

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ゼロの紙 糸で綴る言葉のお店うわの空さんと始めました。
いつも、笑える方向を目指しています! 面白いもの書いてゆきますね😊