黄昏ていた言葉が、朝焼けにつつまれてゆく。
紙コップにちっちゃな穴あけて、糸をつないで糸電話にする。
つたってくるもの。伝わるってどういうことなんだろうと、
考えていたら、ふと小学生の時の糸電話のことを思い出した。
理科も算数も社会もだめで。
でも、理科の実験のある日は妙にわくわくしていた。
男の子だったか、女の子だったか、たぶん女の子だったと思う。
わたしの耳にかぶさった紙コップにつながる、糸の先にいたのは。
その時、わたしの耳にくすくすっていう笑い声が、すぐそばでエコー
効かせたような声で聞こえてきて。
聞こえてる?
っていうから。
聞こえてるよ、なんか言って
っていったら。
ふたたび笑い出して、わたしも笑い出して。
笑ってる中で、くぐもった声でふたりでもしもしって言ったことだけを
覚えてる。
糸電話って耳がくすぐったいんだなって。
なんで、だれもこそばゆいことしていないのに。
じぶん以上に近くに居る人の声みたいで、ほんとうに不思議だった。
あの感覚は、大人になるとなかなかないなって思いつつ。
伝わるって、ああいうことなのかって。
からだの中の小さな細胞が、知ってるよこの感じって言ってるみたいな
そんな体感こそが、伝わるっていうことなのかなって。
言葉を伝える。
言葉だけではない、なにかを伝える。そんなことを日々しているけれど。
わたしは、その伝える仕事をしようと思った時、とにかく師匠のような人が欲しくて。
欲しかった。
そして言葉を伝えるその伝え方が、すこぶるあたたかい存在のあの人を、師匠だと思うことにした。
その人は、わたしのことを弟子だと思っていないだろうし。
その人に正式な弟子がいるのかもわからないけれど。
いつもフラットな場所で、素敵な人達とひとつの世界を築いていらっしゃるチャーミングな大人の男の人。
ずっと憧れていた。
憧れてもいたし、半ば焦がれていた。
ただ、一度だけそのひとと出会った。
その人の事務所に伺う前日、大阪から上京した。
ソファに座って、初対面とは思えないぐらいにお喋りをスタッフの人も交えてした。
もてるとはどういうことかとか、歳をとること。
わかりやすくモノの重たさを伝えるとは?とか。ある大阪の豪快な広告会社の社長さんの話を、そこにいるみんなの共通の友人のように話した。
時計のない世界にいるみたいだった。
取り立てて、言葉の話はしなかったと記憶している。
そして夢のように時間は通り過ぎ。その人の事務所をあとにした。
ちょっと浮ついた足元で、コンビニに寄った時、地下鉄か何かの工事をしているとかで、道路の真ん中に信じられないぐらいの深い穴が空いていた。
見ていたら吸い込まれそうな。
闇をたっぷり抱えた穴は、とてつもなく現実だった。
その穴を覗いていると。
さっきまで、憧れていたあの人が眼の前にいた不思議や、その人がちゃんとわたしの名前をさんづけで呼んでくれる、その声や音に照れ戸惑いながら。
照れ隠しのように飲んだ冷たいラテが、喉に気持ちよかったことさえも、幻のように思えてきた。
そして、それから少し時間が経った頃。
憧れていたその人に仕事でお声をかけていただいた。
言葉を選んでください。
言葉のDJのような役割を、ぼんさん(わたしの仮名です)にしていただけたらと。
それは、ファッション関連のショップのフィッティングルームに飾る言葉です。
詩でもいいし、小説の一節でもいいし、俳句でもなんでも歌詞でもいいですから。
そんなメールが届いた。
飛びあがりました!たぶんその時。
わたしの好きな伊藤沙利なら、あのハスキーな声で、え? マジっすか?
みたいなリアクションをしたと思う。
わたしも天に昇って死んでしまうのではないかと思うぐらい夢中に言葉選びに、勤しんでいた。
勤しむというより、取りつかれていた。
言葉の神様がいるならはよ降りてきてぇ~っていうぐらいに。夢中だった。
ただ、はじまりもおしまいもない、言葉選びに何を基準にしていいのかさえわからなくて。楽しさは日々増すのに、ゴールがみえなかった。
そしてわたしは第一弾の言葉を大量に選んで、出典を添えて送った。
そうしたら、いいですね。
ってその方から返事が返って来たので、あれでよかったんだって思っていたら、その次に続く文章に目が留まった。
わたしが、膨大な言葉の海に溺れそうになっているのを察してくださったその方が、助け舟のように差し伸べてくれた言葉は、今も忘れられない。
🐧 🐏 🐼 🐀 🐇 🐉 🐊 🐑 🐁 🐬 🐧 🐑 🐼 🐕 🐹
✉ひとやものやいきものたちとなかよくすること。
向上すること。
できなくても、できるだけ明るくすること。
そして、生きることは捨てたもんじゃないんですよ、
ってことをフィッティングルームで、言葉をふと目に
した人が感じるような、そんな観点がもうひとつあると
いいのかなって✉
そんな言葉を頂いた。黄昏ていた言葉に朝焼けが差し込んだような。
たぶん、その頃のわたしはあることで破れかぶれになっていたので、おのずとネガティブな言葉ばかりを選んでいたのかもしれない。
それは、無言のうちに。
差出人が誰かも書かずに、そっとポストに手紙を入れてくれていたみたいなそんな経験だった。
なにかを言葉で伝える時、わたしは時々あの人の言葉を思い出す。
わたしにとって、憧れていた方から頂いたその言葉は、もしかしたら、
note書く時のマストアイテムかもしれない。
ほんとうに伝えたい言葉ほど、伝えられないのだと、今日思い知ったわけだけど。
今日もひとりごとにお付き合いいただきありがとうございました!
今日は、どんぴしゃ
♬天野月子さんの糸電話です。歌詞のタイポグラフィが面白いですよ!
☂雨の夜 空のpulltop 指ひっかけて
☂降ってくる 言葉だけを みないで聴いて