遠くに来たふたり。まひろの旅立ち/大河ドラマ『光る君へ』第43回~45回
あの有名な望月の歌が、こんなにも静かで虚しさ漂う歌になるなんて。孤立する道長を際立たせるシーンだった。
彰子を筆頭に、3人の娘が帝の妃となった道長。表向きには藤原家の絶頂期である。望月の歌は、頂点にのぼり詰めた彼の傲慢さがうかがえる歌として学んだ記憶がある。
この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたる ことも なしと思へば
歴史に詳しくないため、「この世」が「この夜」なのではないかという解釈の違いなど考えたことがなかった。
娘からは恨み言を放たれ、公任からは「欲張り過ぎだ」と左大臣を退くよう進言され、実資からは「本当に民のことなど見ておられるのか?」と痛いところを突かれる。考えてみれば、最初の頃こそ道長の民に対する思いが強く出たシーンが多かったが、中盤以降はそうした機会はほとんどない。あんなに自分の娘を入内させたくないと考えていたのに、いつの間にか次から次へと入内させ、娘たちが皇子を産めば喜んだ。でもそんな彼も、満ちた月がその後は欠けていくことを理解している。
ドラマでは、かつてまひろが詠んだ歌への返歌として望月の歌を詠んだという演出。道長はどこまでも「まひろLOVE」。気づくのはまひろだけだ。そして、廃邸でふたりが見た月へと思いを巡らす。倫子とは違う万感の思いに浸っているふたりに、彼らは遠いところへ来たんだなあと思った。
第45回は、道長の歌について公任らがそれぞれ異なる解釈をするところから始まって面白かった。当時もこんな感じだったのだろうか。
まひろは、ついに源氏物語を書き終えて「旅に出る」宣言をする。道長は部屋にやってきて、「行かないでくれ」と未練タラタラ。今の彼にとって、まひろの存在がすべてなのかもしれない。魂の抜けた顔をしていた。体調も悪いのだろうが、倫子の願いも聞き入れずに出家するとは、倫子があまりにも不憫。だってもうバレバレじゃないの、まひろのことは。どこまでも「まひろLOVE」。この回では、ずいぶんかっこ悪い道長を目撃することとなった(笑)。
そんな彼に、まひろは「賢子はあなたの娘」と爆弾をぶっ放して去っていく。道長は、自分の娘だと本当に気づいていなかったんだなあ。賢子をそっと見守る彼には台詞がなく、「気づいてやれなかった」「知っていたらもっといろんなことをしてやれたのに」という後悔や寂しさが入り混じった表情のみ。「何十年と気づいていなかった俺のバカ。バカ、バカ、バカ」。私には、道長のそんな心の声が聞こえた。
あと数話、終焉に向かっていくまひろと三郎(道長)の物語。だが、大宰府でまさかの周明再登場にザワつく。もうすぐ終わるのに、ここで再会するのはどういうことなの? 次回予告では、まひろが刀伊の入寇に遭遇する模様。老いた乙丸が心配だ……。双寿丸も生きのびてほしい。もちろん周明も。最終回まで気を緩めたらいけない、いけない。