映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』を観た。
この映画は大スクリーンで観た方がよい
「映画館で観て!」と知人に勧められていた映画を、先週ようやく観た。
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
(以下、ネタバレ含みます)
言わずと知れた、なのだけれど、原作はルイーザ・メイ・オルコットの自叙伝的な小説「若草物語」。グレタ・ガーウィグが脚本を担当し、メガホンをとった。
物語は、成長した四姉妹の次女・ジョーの目線で進んでいく。彼女が、時として楽しかった子供時代を懐古する形のため、シーンが今と子供時代を行ったり来たり。時系列通りに進まないのに、不思議ととても分かりやすい。これ、けっこう重要。
ストーリーをほぼ知っているくせに、気がついたら感動して高揚感が止まらなかった。音楽や衣装、セット、小道具など細部まで素晴らしかった。後で衣装デザイナーが映画『プライドと偏見』(あまり洋画を観ないのに、これは観ていて覚えてた)と同じだと知り、ちょっとテンパったりもして。
昔、ゲキ×シネで舞台『蛮幽鬼(ばんゆうき)』を観て、「舞台を観る機会がないから映画館に観に来たけど、衣装やらなんやらを細かく見る事ができるのはゲキ×シネだからだよな。2,500円全然高くないよな」と感じたのを思い出した。
今からでも遅くない。興味のある人はぜひ映画館へ!
(ここから、もっとネタバレ)
女性の才能と経済的自立問題。憧れの主人公・ジョー
「若草物語」は、南北戦争時代、慎ましい暮らしをするマーチ家の四姉妹の成長を、隣の大富豪・ローレンス家との交流を交えながら語られる。子どもの頃から何度も何度も読んだ話で、四姉妹の個性と内面から出てくる美しさ、この時代の文化や伝統美に毎回ときめいた。マーチ家は物質的には豊かではないけれど、四姉妹は麗しく逞しく生きている。読むたびに感嘆したものだ。
そして彼女らのその後を描いたのが、「続・若草物語」。正直、ジョーとローリーの組み合わせが大好きだったので、続編でローリーが四女・エイミーと結婚するのは大変なショックで(笑)。そのせいか、続編のストーリーを頭のゴミ箱フォルダに勝手に入れたらしく、ずいぶん削ぎ落としちゃっていた。読み返していたのは、いつも1作目だけだったのだ。
四姉妹は見た目も性格も全然違うので、自分との共通点を見出しやすく共感しやすい。そんな中で、抜群の行動力と豊かな想像力、好きなことを仕事にして生きていく(小説家になる)強い信念を持った次女・ジョーは、誰もが一度は憧れる存在ではないだろうか。
女性が”なりたい自分”を見つけ、好きなことでお金を稼ぐ。この本が出版された当時のジョーの生き方は、センセーショナルだったに違いない。「若草物語」は女性の経済的自立の話、お金の話でもあるのだ。
映画では、大人になったエイミーが魅力的!
21世紀の若草物語――、映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』には、現代女性が抱える問題とリンクする演出や台詞が散りばめられている。また、お互いを敬い信頼し合う四姉妹だけれど、女性特有の嫉妬や反感を持ち合わせた複雑な心理状況も、とても丁寧に描かれている。
特筆すべきは大人になった四女・エイミー。原作で覚えていたイメージとはずいぶん違い、ジョーに失恋してダメダメ坊ちゃんになっているローリーに厳しく接する彼女の聡明さに驚かされた。演じているフローレンス・ピューが低音ボイスなのもいい(ちょっと見た目と声がミラクルひかるに似てるところも好き)。そりゃローリーも好きになるわなあ……。
個人的には、ローリーがエイミーの絵描き用のエプロンの後ろボタンを外してあげるシーンが印象深い。彼女が絵の才能の限界を語りはじめ、お金持ちの結婚相手を探す言い訳を「女にとって結婚は経済問題なの」「女には他に道が無いのよ」と自身に言い聞かせるように吐露する。ローリーの中で、エイミーの存在が大きく変わる重要なシーンだと思った。
と言いつつも、終盤で、ジョーに好意を抱くフレデリックがニューヨークから彼女を訪ねてマーチ家にやってきた際には、「こいつ誰?」「ねえ、こいつ誰?」(もっと優しい言葉遣いでしたが)とローリーがしつこくエイミーに聞くシーンが描かれ、ジョーへの多少の未練か? と思わせるような演出も。いや、きっとそれは義姉への愛なのだろう。ローリーはずっと孤独だったから、愛情に包まれたマーチ家の一員になりたかったはず。
恋と友情の間で揺れるジョーとローリーを、息ぴったりで演じた二人
ジョー・マーチを演じたのはシアーシャ・ローナン。ジョーはいつも走っている。想像力も感情も豊かで小説家になる夢を持っていて。だけど大人になることには臆病だった。そして自分の才能と向き合う中で妹・ベスを亡くし、孤独を知り、家族の大切さに改めて気づいた彼女は、ローリーのプロポーズを断ったことを激しく後悔し苦悩する。彼を異性として愛せない、でも愛されていたい欲求。珍しくジョーは揺れ続ける。
「それは愛じゃないわ」「あなたらしく生きなさい」と慰める母。それでもローリーに“会いたい”と手紙を書き、姉妹と彼だけが鍵を持つ秘密の郵便箱に投函する。
ローリーを演じたのは、ティモシー・シャラメ。憂いを帯びた視線と髪の色が、自分が想像していたローリーとまったく重なっていた! すてき! 優男だけどすてき! 且つそのエレガントな衣装もお似合いで、「このままリンクに出て、4回転ジャンプしそう!」と思った輩がここに一人……。
四姉妹の成長と葛藤は、現代女性につながる
エイミーは、早熟な幼少期より憧れていたローリーから告白されても、「ジョーの代わりは嫌!」「二番目は嫌なの」と突っぱねる。彼女にとって、姉のジョーは尊敬と共に嫉妬の対象でもあり続けた。才能も恋人も、何もかも手にしているように見えたから。
そんなエイミーがローリーと結婚したと知ったとき、気持ちを押し殺して“おめでとう”と言ったジョー。秘密の郵便箱に入ったままの手紙を葬るシーンが切なかった。
一方、愛した男性と家庭を築いたにも関わらず、贅沢への憧れが止まず貧しい暮らしに疲弊していた長女・メグ。自分の命の時間を悟りながら、内に秘めた静かなエネルギーで姉妹を見守った優しい三女・ベス。
四人とも、大切なものは何か、自分はどう生きたいかを考え、葛藤し、自ら道を切り開いていく強さが漲っていた。
時代は異なるけれど、登場人物たちと同じような心の揺らぎを、誰もが持って生きている。大人になって現実と向き合い続ける彼女たちの姿は、とても心に響いた。結婚と仕事、自分の才能への自問自答。この映画は、現代に生きる女性への力強く温かなエールだ。
あまりにも映画に引き込まれてしまい、限定本を買ってしまった……。ああ、サントラ盤も欲しい……。