ふたりの闇が色濃くなる/大河ドラマ『光る君へ』第37回
前回はまひろが道長との関係を詰問されたところで終わり、どうなることかと思ったが、さすが赤染衛門。大人の対応で、倫子を悲しませないでほしいと釘を刺すにとどめた。赤染衛門、今週も目ヂカラ強し。
ここのところ、少しずつまひろと道長の心境の変化が表に出てくるようになった。従者ズのひとり、乙丸久々登場に沸いたのも束の間、まひろと賢子のぎこちない親子の会話に不安が募る。二代にわたって姫様をお守りするお役目。泣いた顔と笑った顔が同じの乙丸。彼にとってはどちらも大事な人であり、ふたりの確執には胸を痛めている様子だ。
実家に戻ってきたというのに、住み慣れた家を「みすぼらしい」と感じるまひろ。今や、帝や中宮・彰子、重要ポストの面々とも対等に語り合える立場となり、衣食住に困ることなく好きなことに没頭できるようになった。そんな暮らしにすっかり慣れてしまったのか。あのまひろですらそうなるのか。
酔った勢いで、宮中のあれやこれやを自慢げに語る傲慢なまひろには、惟規さえも困惑顔だ。賢子からすれば、自分のことを放っておいて、宮中で裕福な暮らしをしているようにしか見えないだろう。この回のまひろは、2時間ドラマでいうところの国生さゆりさん、東風万智子さん演じる女社長みが強い。若い頃に産んだ子どもを施設に預け、がむしゃらに働いて成功を掴んだものの、子どもを迎えに行くことはなかったというあのパターンにちょっと似ている。母親を遠くに感じている賢子が、まひろに反抗するのも無理はない。
「賢子のために、宮中の人たちとも繋がりを持っているのに」(意訳)とまひろは為時に話していたけれど、それはまひろの自分勝手な解釈なのでは。そんな風には微塵も見えないぞ。私自身、しばらく三郎(道長)からまひろへの扇の贈り物に浮かれていたので(笑)、今非常にチグハグで複雑な気持ちだ。今こそ直秀に出てきてもらって、皮肉のひとつやふたつ言ってもらいたい。今回、伊藤健太郎さん演じる双寿丸が初登場。二代にわたって、直秀枠に影響されるのか。賢子にどんな影響を与えるのか楽しみにしている。
今のまひろと道長は絶頂期。逆に言えば、終わりの始まりである。まひろの書く『源氏物語』でも、女三の宮が登場していることから光源氏の絶頂期を過ぎた物語が始まっている。「罪」「罰」という文字を書いたあのとき、まひろが自分の変化に気がついたならば、この先道長との関係は崩れていきそうな気がする。それでも彼女は、道長を支えるつもりだろうか。
「敦成親王さまは次の東宮となられるお方」
気を許しているまひろに、道長はポロリと本音を言った。取り繕ったものの、立ち去った彼の表情は明らかに狼狽え、「しまった」という顔。柄本佑さんの表現力に、ひょえーーとなりながらもう一回観てみる。道長本人も、まさか自分がそんなことを言うなんて思っていなかったのか。今まで家の繁栄など考えてこなかったマイペースな道長が、ブラック化する兆しが見えてきた。『鎌倉殿の13人』の小四郎みたいに。もっとも小四郎の場合は、「それが世を治める最適な選択」と思って突き進んでいたが、道長の場合はどうか。自分の娘がようやく幸せを噛み締めたのを見て、家の繁栄という野望が沸いたのだろうか。
その彰子は、敦康親王を非常に可愛がっており、定子との子である親王に帝が特別な思いを抱いていることも知っている。道長の思う彰子の幸せと、彰子自身が願う幸せは明らかに違う。まひろは彼女の気持ちに気づいており、道長の発言に違和感を覚えている。扇を見つめるまひろが、心の中に迷いを持っているのは間違いない。この回のタイトル通り、「波紋」を呼ぶ回だった。知らず知らずのうちに、ふたりが遠くに来てしまったんだなあと実感した回でもあった。
良い世の中にしたいという思いも、「業」には勝てないのか。そういえば、大石さん×吉高さん×佑くんのドラマ『知らなくていいコト』も、その辺りを考えさせられる終わり方だった……。残り2ヵ月ちょっと。ふたりの色濃くなる闇。平和だったね、このひと月ほど。うん。
とりあえず、ききょうさま(怒りを溜めている形相のウイカさまの表情、何度観てもいい!)の源氏物語批評を聞きたい。ここで終わるんかーい!!と消化不良だったので(笑)。
劇中では、彰子が帝への土産にとつくった33帖の豪華版の製本シーンが描かれた。紙や文字が美しく、劇伴の効果もあってとてもドラマチック。何より、彰子がとても楽しそうだ。まひろに出会ったことで、自分の意思で動くようになった彼女の今後も注目したい。