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城谷創懐 Shirotani Kraft
2020年11月25日 15:12
最終章 幻像(アフターセンセーション) なんで、ねぇなんでなの。どうして黙ったままなの。自殺をするような人ヒトじゃなかったでしょ。 あばら骨の奥から声がする。死んでいない。ここにいる。君のそばで息をしている。答えたい。 痛みが向こうから突っ走り神経がマヒしたあと、全身がこわばって動けなくなった。 あたりは真っ暗闇。 なきがらにふれる彼女の指づかいを腹のなかで感じる。 喉も
2020年11月25日 14:32
第8章 星誕(アウェイクニング) 自分を責める自分しかいない。自分を助けるのは自分しかいない。 思いどおりにしたがうのは己のみ。 友も家族も元カノも、自分が求めていないことをするばかりで期待を裏切った。みなブラックホールに堕ちてしまえ。「現実から逃げないで」うわの空でひびく。 ミソラは貶(おとし)めようとしていなかった。強い念が、気迫になって結果的に、追い込んだ。それだけだ。
2020年11月25日 13:31
第7章 超克(アセンション) 日陰に沈む六本木駅構内がミルキーホワイトに光っていた。 乳白色のライトが濃密な光線の束になる。灼熱の色をおびる。 足もとに段差がすべりこみ、時が滞る。 後ろむきに押し流されているみたいだ。地下鉄の階段を駆け下りているだけなのに。 この世にいたって馴染めない。それどころか、悪影響をおよぼす宇宙人だと思われる。 地球の女神よ。私の存在が要らないな
2020年11月25日 13:02
第6章 紫電(ホストリティ) 旋と出逢えなかった。来た道を引き返すこともできなかった。 連絡通路さえも見逃していた。駅中に直結で戻れなかった。 並木道が湾曲している。 遠くの灯がにじむ。 欅坂はイルミネーションの真っ最中だった。多くの観光客でにぎわっていた。 ベタつくカップルが目に留まる。視線の先でケヤキ並木が電燈を着かざっていた。
2020年11月25日 12:28
第5章 翡翠(ディメンション) ついさっきまで眼下にとじこめた旋がいない。首をねじって車内を物色し、本当にいないか確かめた。 波状攻撃を肩くねりすりぬけ道を切りひらく。衣服にかくれた骨をよけると水の張った肌がふれあう。 鳴りひびく発車メロディーに急かされ、ホームドアの陰からにゅっと人面がとびでる。 人面にかくれた頭蓋骨がつぎつぎと腕を噛んでくる。歯痕はつかない。ただとがった犬歯が
2020年11月25日 11:52
第4章 霹靂(タイムシフト) ついに、二月三日が来た。八丁堀駅のホームにある待合室で日比谷線を待つあいだながめた白い折れ線のついたパンフレットには、円柱のシルエットが描かれていた。 零次元のオブジェと白いゴシック体でかぶせてあり、金色の光彩でふちどられていた。 円柱がゼロ次元をあらわすとしたら、一番ふさわしいオブジェはいかなる造形だろう。 実物をみる前にイメージをふくらませる。実
2020年11月25日 10:02
2020年11月25日 09:49
第2章 燻銀(イルージョン) 灯台の地図記号がいぶし銀の校章に彫られている。胸ポケットの浮きしずみで蒼い布地がしずかにぎらつく。 ブレザーを羽織ったワイシャツのそでぐち、手にリモコンを握りしめる。 ふくらはぎのむくみを引きしめながら、関節に刻みこまれたもうひとつの校章を秘める黒タイツに丈の長いスカートが下ろされていた。エレベーターガール役の滝藤だ。 小道具を整頓する腰のひくい男子
2020年11月25日 09:32
第1章 睡郷(アンバーワールド) 家のかべに四角い風穴をうがち、嵐で破れないよう角材で補強する老夫婦の後すがたが、うっすらとよみがえってきた。 すっかり年季が入り、木炭になり果てている角材の枠組みにうすくて丈夫なガラス板をはめこんだだけの窓がおぼろげに浮かびあがる。 開くことも閉めることもできない、ちいさくて頼りない窓。 朝になると屋根代わりの草木からほんのり生暖かいこもれびが差
2020年11月25日 09:10