【小説】翡翠 Hisui 最終章『幻像(アフターセンセーション)』読了時間3分
最終章 幻像(アフターセンセーション)
なんで、ねぇなんでなの。どうして黙ったままなの。自殺をするような人ヒトじゃなかったでしょ。
あばら骨の奥から声がする。死んでいない。ここにいる。君のそばで息をしている。答えたい。
痛みが向こうから突っ走り神経がマヒしたあと、全身がこわばって動けなくなった。
あたりは真っ暗闇。
なきがらにふれる彼女の指づかいを腹のなかで感じる。
喉もとに熱い息がふきかかる。急に胸のまわりが火照りだし、ぬくもりがもどってきた。
石の殻に亀裂が入り、固まった皮ふがはがれ落ちて、金魚が舌先を吸う感覚が自分のくちびるに宿った。
半目をそっと開ける。旋が両手をかさねて胸板を押していた。
目を閉じて次のくちづけを待ちわびていると、みずみずしい肌そのものと触れあえた悦びを激しい列車風がさらった。
千切れてちいさくなっていくわずかな感覚にすがりついている間は、彼女のわきから匂いたつ香水を胸いっぱいに、腹いっぱいに満たすことが出来た。
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