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朝井リョウさんの『ままならないから私とあなた』の『レンタル世界』を読んで感じたこと


朝井リョウさんの

『ままならないから私とあなた』の小説の中に

『レンタル世界』という話がある。

朝井リョウさんの作品を読むと私はいつも心がキュッとなるのだけれども
この『レンタル世界』も
やっぱりそうだった。

この小説を読んでいるうちに

家族や友人など
私が理解している(理解していると思っている)人たちの
表面に現れているものが、
どれだけその人の本質や真実に近いのかさえ
自信が持てなくなるようなそんな感覚になった。

お互いになんでも言える間柄

裸の付き合い

そんなことで本当に相手の全てをわかっていると言えるのか?



主人公の雄太は、大学時代のラグビー部の先輩である野上と同じ会社に入社して6年目になる。


大学時代をラグビー部員として寮で生活した雄太は
良い意味でも悪い意味でも『もろ体育会系男子』だ。

そして、社会人になっても
飲み代も風俗代?も奢ってくれる野上先輩に全幅の信頼を置いている。


雄太は大学時代の部活動や
寮生活を通して

信頼している仲間に対してなら

自分の底を見せることができる

他人には知られたくない、
最も恥ずかしい部分をさらけ出して、先輩や様々な人との信頼関係を築いてきたと自負している。


逆を言えば、雄太は自分の恥ずかしいことや失敗したこと
全てを知ってもらって初めて人間同士の信頼感が生まれると信じている人間なのかもしれない。

そんな雄太が最も信頼して
心を開いている大学生時代の
ラグビー部だった先輩の野上は31歳

野上は28歳で結婚して
2歳の愛娘もいる。


ある時、雄太は会社の別の先輩の結婚式で
新婦の友人(ヨウコ)に出会って一目惚れしてしまう。

雄太には3ヶ月前に合コンで知り合った彼女がいるのに
ヨウコのことが気になりつつも、今の彼女とも関係も続けていた。

そんな状況で、雄太は
たまたまあるイベントで
結婚式で一目惚れした
あのヨウコに偶然出会う。

ところが雄太が一目惚れしたヨウコは偽名で、
本当は高松芽衣だと彼女に告げられ驚く。


実は芽衣は友達の少ない新婦に『レンタル友達』として雇われて、新婦と同じ大学のゼミ仲間のふりをして 
倉持曜子と名乗って結婚式に出席していたのだった。

雄太は芽衣から人間関係をレンタルするサービスがあり
芽衣はレンタル友達の一人として雇われていたと打ち明けられる・・・
人間レンタルサービスには友達の他にも、レンタル恋人、レンタル親、レンタル兄弟や
レンタル親戚などがあることを芽衣から聞かされる。


雄太は
『どうせその場しのぎをしたって後からバレるのに』
と反発するのだが


芽衣は、その時間をなんとかして凌げれば
どうにかなることが世の中にはあると訴える。

相手に嘘をつかない、
恥ずかしいことをさらけ出せるからその人と分かり合えると思い込んでいる雄太にとっては
自分を偽ってまで人間関係をつなぎとめようとする人なんて到底理解できないのだ。



そんなことがあっても芽衣のことが忘れられない雄太は


以前から『お前がちゃんとした彼女を作ったらうちに連れて来いよ』

と野上先輩から言われていたことを思い出し

今の彼女ではなく、芽衣を彼女として連れて行きたくて
芽衣に「レンタル彼女」を依頼する。


雄太は、大学時代から自分が尊敬し、慕っている野上に芽衣を会わせれば
彼女の心をきっと変えられると信じていた。

そして、そのあとで芽衣に告白するつもりだった。



先輩の奥さんは噂通りのショートカットの美人で
手料理も申し分ない。



野上先輩と奥さん、
雄太と芽衣の4人で
和気あいあいとパーフェクトな楽しい時間を過ごした(雄太はそう思っていた)帰り道に芽衣に告白する雄太だったが


芽衣は、これはあくまでビジネスで、雄太と付き合うつもりはないと言い


実は野上先輩の奥さんも
「レンタル妻だったと思う」と芽衣から告げられる。


実は野上は結婚はしたものの

同性愛者だった。


そしてその事実を知った妻と関係がギクシャクして
野上の妻は子供を連れて家を出て、現在別居中だったのだ。


同性愛者だった先輩の野上

野上は後輩の雄太に自分の本当に核となるものを大学生時代からこれまでの間ずっと偽っていたのだ。


では、雄太の云うようにお互いに全てを見せ合うのが親友だというのなら

偽っていた野上先輩はそうではないのだろうか?

では、芽衣を彼女としてレンタルして、野上の家を訪れた
雄太はどうなのか?

自分にとって大切な人だからこそ、真実を偽って関係を続けたり

大切な人だからこそ秘密にして知られたくないこともあるのではないだろうか。

失いたくない大切な人だからこそ・・・


野上先輩の隠していた同性愛者だという秘密を知ったその後の雄太が
野上にどう向き合ったのかは結末では触れられていない・・・




朝井リョウさんの小説の読後感がたいていそうであるように

その答えは読者が自分で考えて、その答えを探していって欲しいと作者から囁かれたような気がした。

何だかまとまりのない感想になってしまったが

私にも家族や友人にも言えない、言っていない秘密があるように

きっと誰でもそうなのだろう。

そしてそんな秘密を抱えながら人は繋がったり離れたりするのだ。

自分自身の気持ちすら全部理解できないのだから
他人のことを全てわかるなんてありえない。

でも、私はそれを表面的な関係だとは言いたくない。

相手のことをどれだけ知っているかなんて関係ない。


相手のことをどれだけ思いやれるのか

それが大切な関係を築くということだと思うから。


世の中には正解は一つだけではないことを朝井リョウさんの作品はいつも私に教えてくれる。


朝井リョウさんの小説、私、結構好きなんです。

https://note.com/brave_zinnia931/n/n1ab63483765d


読書感想文にもならない文章になりましたが


長文を今日もここまでお付き合いくださりありがとうございます。

いつも応援してくださり感謝しています。

これからもよろしくお願いいたします。



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