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壱
2023年7月21日 09:22
夏休みも半ばにさしかかり、友達と遊ぶこともなかった僕は、祖父母の家の庭で夥しい数の蟻の群れを眺めていた。滴る汗が砂利の上に滲みを作り出し、水玉模様の土を蟻が横切る姿を注視する訳でもなく、ただ眺めていた。コイツらは何を考えているんだろう。死んだ羽虫の亡骸を重たそうに抱えて列を成す蟻の気持ちを僕はわからずにいた。蟻は飽きもせずに運搬を続けている。 脇に咲く薔薇の棘に目をやり、指
2023年7月31日 17:47
蝉の声が頭の中で重なり合い、綺麗な思い出も、忘れたい過去も全てをぐちゃぐちゃにかき混ぜる。川沿いのベンチに腰掛けながら、煙を燻らすことに一生懸命な警備員を視界の端に捉える。彼はきっと、お昼休憩の1時間をいつもこうやって過ごしているのだろう。心の中で応援しながら、僕も一生懸命煙草を吸っている。今朝、祖父が死んだ。囲碁の好きな人だった。縁側でいつもラジオを聴きながら盤上を眺めてい
2023年7月7日 20:29
一つ、欠伸をした。こんな晴れた日は思索に耽るなどの馬鹿げたことはよしておいて、何とはなしに道を歩くに限る。桜の散る遊歩道をふらふら歩いていると、紋白蝶が視界の端に映り込む。彼もまた、なにも考えてはいなさそうだ。暫く歩くと、出店などが出ている少し広い道に出た。血を吸い上げた様な鮮やかな桃色に人々は魅了されているようだ。人集りの隙間を縫う様にして歩く。誰も私を見向きはしないが、それが私