マガジンのカバー画像

短い小説まとめ

6
短編
運営しているクリエイター

記事一覧

ソクラテスの逆襲

ソクラテスの逆襲

太陽はまもなく頂点に達するころだ。影は短くなり、日差しが強く照り付ける。40度に達する渋谷公園は木漏れ日の中と言えど人々が過ごすには少々苦痛を感じる。

男は水遊びをする子供をながめていた。

不思議なもので、人々は暑くなるほど外に涼みに行った。屋内に籠るのに飽きたのか、はたまた広告会社が作った社会の流れなのか。それとも、人間に備わった本能と呼ばれるものかもしれない。暑くなったときは水を浴びなさい

もっとみる
揚がるイカを眺め、湯気を浴びるだけの話(短編カス小説)

揚がるイカを眺め、湯気を浴びるだけの話(短編カス小説)

ナゼ働かないといけないのか。

6月13日05時42分。私はスマートフォンを軽く眺めては何もないことにガッカリする。
ガッカリ?私は何を期待していたのだろうか。ーいつもの時間だー
それを確認するなり、慣れた手つきで手早く作業着に腕を通し、黒い靴に履き替える。更衣室から緑色のコンクリートに向かい歩をすすめた。その後は心をどこか身体の奥底にしまい込んで見えないようにする。これで安心だ。次に心が顔を出す

もっとみる
短編・馬鹿についてるクスリがある

短編・馬鹿についてるクスリがある

「大学どうすっかなぁ〜」

「どうした?お前らしくもないじゃん。
いつもならパァって決断できるのに。」

「うーん、そうなんだけど、やっぱり将来っていったら東大!みたいな大学行った方が良いじゃん」

「そりゃそうだけどさ〜」
「んだって、元々おれらじゃ、むりっしょ。そんなに悩むことでもなくない?建築ってのに行けばいいじゃん。」

「いや、それが実はさ。」

「何そのリップクリームっ。前髪あげてどう

もっとみる
「小説」狐の夢入り

「小説」狐の夢入り

今日も暑くてやんなっちゃうなと思いつつ、ダラダラと人混みのなか歩を進める。私の住んでいる集合住宅では夏になると週末に2回ほどフリーマーケットを行っている。今日が開催日だという事をうっかり忘れていた私は、なにも考えず昼ごはんを買いに出掛けてしまった。

「いつもなら絶対前日に買い溜めするってのに」そんな事をぶつぶつ思いながら必要のない”何か”を探して右往左往する邪魔な住人を避けていく。そもそも裏通り

もっとみる
小説・ダチョウエビのビスク

小説・ダチョウエビのビスク

「ダチョウエビ、それは地中海の奥深く、5000m付近にしか存在していません。海老にしては柔らかすぎる身は脂肪分が多く、とても美味と言えるものではありませんでした。一方でその殻は濃厚な琥珀色に輝き美しかったため、漁師の妻は工芸品に加工して残ったぶよぶよな身は海に捨てていました。しかしビエキス・マダムさんによりダチョウエビの歴史は大きく変わります。甘みのある脂っ気は料理の隠し味、とりわけスープにすると

もっとみる
若い燕(ショートショート)

若い燕(ショートショート)

「ミズキ様ー」
小さな薬局だからか呼び出しの声がよく響く。女の人だ。「呼ばれたわ」隣にいたお母さんは勢いよく立ち上がりカウンターに向かった。カウンターも小さかった。

「全く、夜遅くに風呂なんて入るから風邪ひくのよ?髪の毛もちゃんと乾かしたの?」

車に戻るなり小言を言われた。ちゃんとしたよ!と私は言い返したかったが少し喉奥が気怠かったので助手席で頷くだけだった。病名は急性扁桃炎だった。
正直病院

もっとみる