短編・馬鹿についてるクスリがある
「大学どうすっかなぁ〜」
「どうした?お前らしくもないじゃん。
いつもならパァって決断できるのに。」
「うーん、そうなんだけど、やっぱり将来っていったら東大!みたいな大学行った方が良いじゃん」
「そりゃそうだけどさ〜」
「んだって、元々おれらじゃ、むりっしょ。そんなに悩むことでもなくない?建築ってのに行けばいいじゃん。」
「いや、それが実はさ。」
「何そのリップクリームっ。前髪あげてどうした〜?え?いやいやいや、そこにぬる…の?」
「これさ、額につけると頭悪く出来るんだ。中学2年から、寝る前に塗り続けてた。」
「オマエ、頭おかしくなったか?」
ユウヤの真面目な雰囲気から、TikTok流行りのネタって訳ではなさそうだった。
「このクリームは額から一部分の頭のシナプスに関与する事が出来て…判断を一時的に鈍らせる事が出来るんだ。羨ましいんだよ。俺はこんなに苦しんでるのに、アイツらは…ずっと楽しそうにしやがって。それにアイツらときたら少しの問題で
あんなに簡単に達成感を味わってるのに、俺の方はもっと苦労して悩まないと達成感が無い。」
「でもさ、昨日クリームを塗ろうとして、ふと思ったんだ。このままじゃダメなんだって。楽なダチ同士で一生連む事なんてできねーし、トラブルに対してもガキみたいに喚いて解決してちゃしょうもない。カッコわりぃじゃん」
いつもより流暢に、馬鹿げた事を話す姿に違和感を感じると共に、なんだかユウヤの良くない部分を見ている気がした。なによりコイツに見下されている気がする。
「オマエさ、何がいたいわけ?ドッキリでもつまんねーよ、それ」
そもそも頭良かろうがなんだろうが、俺だって悩んだり苦しんだりしてるし、何がしたいんだ、言葉の端々でマウントとりやがって。
イライラしながらユウヤの言葉を反芻するとふと気がついた。
「お前さぁ、昨晩塗り忘れただろ?」
「いっけね!うっかりしてた!」
コイツはそう言うところがある。薬の効果があるかどうか判断出来ないが、塗る事で何かしらの効果はあるらしい。そういや頭悪い割にはテストで高得点を連発する時があった。あんな日もうっかり塗り忘れてたのかもしれない。とはいっても小学生からの付き合いだが、性格自体はそう変わらないんだな。
「ユウヤさ、お前がもし天才ってやつだとしても多分意味ないぜ」
ユウヤはクリームを慣れた手つきで額に塗った。
「いや、天才は天才だから。天才だから。」
[終]