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わたしが書いたお話

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わたしがこれまでに書いた小説をまとめています。
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記事一覧

リヨン25を飛べ

リヨン25を飛べ

*この物語は事実を元にしたフィクションである。

 アーロン・ホモキは深呼吸をした。そして途切れた道の先を見据えた。それは長さ6.7メートル、高さ4.49メートルの25段の階段。リヨン25。フランスのリヨンにあるスケートボード界で最も伝説的な階段。アーロンはリヨン25をスケートボードで飛ぼうとしていた。
 リヨン25をオーリー(ボードと一緒にジャンプをする技)で飛ぶ挑戦が始まったのは2002年、ア

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短編小説『すなぎもちゃん・スマッシュ・ヒッツ』 

短編小説『すなぎもちゃん・スマッシュ・ヒッツ』 

『すなぎもちゃん・スマッシュ・ヒッツ』

 僕はすなぎもちゃんと暮らしていた。
 すなぎもちゃんは白ねこで、当たり前のように喋って、二足歩行で歩き、僕の家、廣井家で家族のように暮らしていた。
 すなぎもちゃんを飼った覚えはない。
 ある日、すなぎもちゃんは突然やってきて、いつからか当たり前のように居候していたのだ。
「パパさん、お仕事お疲れ様ですにゃ。ママさん、ご飯美味しいですにゃ」すなぎもちゃん

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短編小説『ねこのまち子さん、フレンチクルーラーを食べる!!』

短編小説『ねこのまち子さん、フレンチクルーラーを食べる!!』

「今日はよろしく頼むにゃ」
 自由猫猫党(じゆうにゃんにゃんとう)の元党首は我々取材陣と握手をしながらそう言った。
 元党首の笑顔と肉球の柔らかさが印象的であった。
 元党首が一人がけのソファーに座る。
 スタッフが照明を元党首に向けると、元党首は「眩しいもんだにゃ。いくらやってもこういうテレビの取材には驚いてしまうにゃ」と静かに言った。
 私の手には元党首に聞きたいメモが握られていた。
 自由猫

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短編小説『ねこマジシャンのイリュージョンショー』

短編小説『ねこマジシャンのイリュージョンショー』

ねこマジシャンのイリュージョンショー

 ねこのマジシャンがトランプのカードを切っている。
 しゃっしゃっしゃっしゃ。じゃらららららら。
 私はねこのマジシャンに指名されて、客席からステージにあげられた。
 白い手と肉球を巧みに使ってカードを切っていくそのねこのマジシャンを見ながら、私は何故かモグワイのことを思い出していた。
 モグワイ。
スコットランドはグラスゴー出身のポストロックバンド。
轟音

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短編小説『I saw a savior』

短編小説『I saw a savior』

I saw a savior

 カレーが食べたいにゃ!!!!!!と叫び出したい気持ちを抑えて、二本足で歩き、言葉を喋る、ねこのまち子さんは街を歩いていたわけですが、ここで実際に叫んだらどうなるだろう?ともまち子さんは思うわけです。
「カレーが食べたいにゃ!!!!!食わせろにゃ!!!!!」と街中でいきなり叫ぶ自分を想像するまち子さん。
 すぐさまに治安当局がやってきて、捕獲され、刑務所もしくは保健

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短編小説『ちゃん呪』

短編小説『ちゃん呪』

『ちゃん呪』

「じんちゃ~ん!この駅でぇ~写真撮るとぉー、幽霊がうつりこむって話にゃよ~!!」と酔った友達でねこのきいちゃんが呂律回らずにそう言うので、私はうへうへ笑いながら「じゃあ、撮ってみようよ~!」ってiPhoneのインカメラできいちゃんと「いえーい!」って言ってたらきいちゃんが「あ、動画だったにゃー!」って言って「動画かーい!」って突っ込んでいたら、そんな私たちの背後に叫ぶ顔をしたような

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短編小説『ねこのまち子さん、市民税を払いに行く!!』

短編小説『ねこのまち子さん、市民税を払いに行く!!』

 白ねこのまち子さんは二足歩行で歩き、喋ることができるので、税金を納めなければいけないのです。
 鉄球をぶつけられる寒い山荘で夜通し討論する番組『浅間で生テレビ』で「徹底討論!喋る猫に納税の義務は違憲なのか!」というテーマが放送されたとき、「喋る猫の生活党」の党首である道場さんは「我々、歩き喋る猫は進化でありまして」と言ったら、田原総一朗に「ちょっとまって、まだ管さんが喋ってるから」と遮られたので

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短編小説『ねこ太郎、現代の鬼と戦う』

短編小説『ねこ太郎、現代の鬼と戦う』

 最近、最近。京都は三条、鴨川河川敷で私が本を読んでいると、川上から大きめのギターケースが、どんぶらこどんぶらこと流れてきました。
「ギターケース流れてるやん」って思っていると、パカっとケースが開き、中からずぶ濡れのねこが出てきて「助けてにゃ〜助けてにゃ〜」と叫ぶのでした。
 私は「待ってろー今助けるぞー」と叫び、慌てて鴨川に突入しました。
 すると運のいいことに、ここ最近の日照りで水かさは低く、

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短編小説『デッドマンズ・ギャラクシー・デイズ』

短編小説『デッドマンズ・ギャラクシー・デイズ』

 バンドをやめた。
 正確には顧問と喧嘩してやめさせられた。
 軽音楽部の大会に出るためのバンドに入らされた私は嫌々コブクロばかり弾いて、あるとき、我慢の限界が到来して「私はバンドがやりたかったから軽音楽部に入ったんであって、軽音楽部の大会とか知らないですし、コブクロとかやりたくないんすけど」って言ったら「やる気の無いやつはいらないよ」って「あ、そうですか。」でやめた。
 そしたら軽音楽部での居場

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短編小説『終末のランチ~複眼豚のカツ丼編~』

短編小説『終末のランチ~複眼豚のカツ丼編~』

 ぐわんぐわんごうん。ぐわんぐわんごうん。
 月曜日から金曜日まで、朝から晩にかけて、巨大迷路型コンピューターで仕事をするのはとても大変なことでした。
 背骨さんは中央<システム>の末端職員なため、地図を片手に巨大迷路型コンピューターを文字通り右往左往し、バルブを締め、また右往左往し、バルブを緩め、そんな仕事をし続ける日々にすっかり疲れ果てていました。
 ぐわんぐわんごうん。ぐわんぐわんごうん。

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短編小説『心霊ビデオ』

短編小説『心霊ビデオ』

『心霊ビデオ』

 心霊ビデオってあるじゃないですか。ちゃんと見たことなくても夏の怖いテレビ番組で流れる映像とか、あと『ほんのろ』とか。
 あ、『ほんのろ』って『ほんとにあった!呪いのビデオ』の略のことなんですけども、あのタイトルで禍々しいジャケットでTSUTAYAやGEOの邦画ホラーのコーナーに並んでいるのを見たことはあると思います。多分、結構大勢いると思う。私も、結構、昔は映画を借りに行っては

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短編小説『失われたタンゴが聞こえてきたので』

短編小説『失われたタンゴが聞こえてきたので』

『失われたタンゴが聞こえてきたので』

 失われたタンゴが聞こえてきたので、私は通りを右に曲がった。
 軒先でレコードを七輪で炙っている女性がいた。レコードがはぜる音が失われたタンゴのメロディを奏でていた。
 女性は団扇を扇ぐと、七輪の火は強くなった。
 レコードはますます焼かれ、失われたタンゴは失った音色を取り戻していった。
「すいません。なんのレコードを焼いているのですか?」と私は言った。

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ぽんぽこりん、考察。

ぽんぽこりん、考察。



 たぬきがお腹を叩くってだけでも嘘なのに、その上に、ぽんぽこりんって嘘の擬音を乗っけた人、かわいいを作る才能がありすぎる。
 しかし、いつからそしてどこから、たぬきに「ぽんぽこりん」ってイメージがついたのだろう。
 あの高畑勲監督の映画よりも前に「ぽんぽこりん」というイメージがあったのだろうか。絶対あったんだろうなと思う。
 そしてこういうのはだいたい調べたらすぐ出てくる。
 しかしでもまだ調

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『Every day is Exactly the Same.(原題:ねこのまち子さん、業務スーパーへ行く)』

『Every day is Exactly the Same.(原題:ねこのまち子さん、業務スーパーへ行く)』



 白いねこのまち子さんはねこですが二本脚で立って歩けますし、二本足で走ることができましたし、その上日本語を喋れて、そして一人カラオケもたまに行くようなねこでした。
 カラオケではちあきなおみの「星影の小径」を頑張って歌ったりしました。
 でもちあきなおみのようにうまく歌えないことはまち子さんが一番よく知っていました。
 そして「星影の小径」で歌われているようないつまでも誰かを愛すること、それが

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