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2024年 掲載いただいた短歌まとめ
こんにちは。奥山いずみです。
社会人をしながら、短歌を趣味でつくっていて、今年10月まで新聞歌壇などに投稿していました。
今年の締めくくりに、自分用の記録もかねて掲載いただいた短歌をまとめておきたいと思います。
*リンクのあるものは、選者による評が掲載されています。
毎日歌壇 水原紫苑 欄
1月22日
みじめさを塗り絵であらわすわたくしの目の充血に咲きしヒナゲシ
4月1日
電話越し わたしから見えない月がアプリコットのあかるさと知る
4月8日
『饗宴』を書架にもどせばもう二度と愛し合えないような夕暮れ
4月22日
樹であった記憶ののこるきみとゆく三日月鋭き春の箱庭
5月14日
とおくまで行くはずだった 満開をすぎた並木は感情跡地
5月20日 二席
感情がよくわからない 夕暮れの信号待ちで顔をなくして
6月11日
あなたから借りた眼で見る夕焼けはぞっとするほど楽園みたい
6月17日
食べる/食べられるの世界のくらがりにわたしの落とした鍵の銀色
6月24日
果てと言うときにはいつも淡い陽が見えてあなたが活ける紫陽花
7月8日 一席
夕焼けの赤をこわがる鳥たちの羽に花野は仕舞われてゆく
7月29日
水蜜桃 肌には浅く疵がありそこから夜と嘘がうまれた
8月20日
目覚めると夢の言語は持ちだせず冷房の切れた蒸し暑い朝
9月2日
銀色の小螺子になってざらざらの壁へと円い鏡を留める
9月16日 二席
あなたにも渡さないわたしだけの夏 馬の記憶は燃えてゆかない
9月30日 一席
火の色はからだの内にわだかまり祝祭のごと蔦めぐる壁
▶参照 毎日歌壇・俳壇 9月30日の特選より
10月21日
あれが姉さんだということだけわかる薬草園に霧ふかく満つ
毎日歌壇 伊藤一彦 欄
1月15日 二席
なつかしい列車に乗ってわたる橋わたしがわたしを通過してゆく
1月22日
かなしさをわけあいながら暮らしてる湯冷めの素足をひたりとつけて
2月26日
破られたように目覚める如月の闇夜の重さにきみが唸って
3月4日
十日後が明日は九日後になって日々うまれかわるようでうれしい
(応募時は「うまれかわるようにうれしい」)
4月1日
よく知った街のどこにも春は満ち知らない小径をえらんで曲がる
5月20日
蓮根は空洞までが蓮根ときみはよわみをやすやす見せる
5月27日 一席
それぞれに色の異なるしずかさを心に置いて見る風景画
7月1日
傷のある梅は煮詰めてジャムにする祈りのような甘い香りの
7月8日 一席/每日歌壇 年間優秀賞
思い出すたびなめらかな骨のようトラウマは話せるまでになり
▶参照 毎日歌壇賞 2024年
9月30日
必要な会話を終えて会場の半島のような場所ですごした
10月7日 一席
何回も会っていたってうれしくてするりと剥いて出す梨の舟
▶参照 毎日歌壇・俳壇 10月7日の特選より
東京歌壇 東直子 欄
2月11日
安全なことしか話せなくなって あなたは何をひかりとしますか
3月10日
歯のうらを舌でなぞってまだ雨で満ちてゆかない窓を見ている
3月31日
風を噛む二頭の犬になりきって夕焼けおおきな池を背にする
4月14日
記憶って燃えてゆくのね夕暮れに小鳥の葬儀をふたりでしたの
6月25日
おだやかな事柄だけを祖母に言い祈りみたいにまぜる納豆
7月7日
透きとおるほどの怒りを見せられて怯えた指を湯でぬくめゆく
7月14日
断篇のように歩けばいつかまたわたしのとなりをゆく黒い犬
7月21日
空腹を今日は一度も感じずに無人駅めくわたしの身体
7月28日
しっとりと雨のにおいを身にまとうあなたの十三時からの出社
8月11日
釣糸をたらすあなたがとおかった光の鏃のような海鳥
9月8日
としん、としん せり上がりゆく心音を感じて都心という場所をゆく
10月13日
うつくしい統計図表のような花壇 律されたいという欲がある
東京歌壇 佐佐木幸綱 欄
2月25日
旧姓のままで呼んでといわれたりシナモンラテの湯気あわく立つ
5月12日
海外のラジオを聴けば真夜中にふと母国語の歌のながれる
7月14日
雨に手をさしのべているブロンズの少女のおさげ鋭利にひかる
アルージェ 東直子賞
乳液を手でぬくめゆく春の夜もっとわたしをすきになれたら
創刊した同人誌『夏澄み』
薄暑なつさんと短歌同人誌『夏澄み』を刊行しました!
「知らないはずなのに、どこか懐かしいあの夏」を思わせる、風が吹きぬけるような同人誌です。
創刊号である『夏澄み Vol.1』では、同人ふたりの連作、奥山いずみ「巣箱のなかに八月」 薄暑なつ「dollhouse」と、ふたり分のひとり言(ショートエッセイ&短歌)を収録した「ふたり言」を掲載しています。
ブックデザインはわたし奥山が担当しました。
「みんなといるけど、ちょっとさみしい」「ひとりになって、ほっと息をつくことがある」という方には肌が合う一冊かもしれません。
2024年12月1日の「文学フリマ東京39」にて初めて販売、その後オンラインでもお取り扱いを開始しました。
短歌とのつきあい方を変えようと思い、今年の10月で新聞歌壇への投稿をストップすることにしました。復活のめどは今のところ立てていませんが、「新聞歌壇のこの欄だから託せる短歌」がたしかにあったな、という思いがあり、また気まぐれにちょっとだけ再開する可能性アリです(笑)。
来年は短歌以外にもさまざま挑戦したいことがあるのですが、それがご報告できるレベルになればいいなあと思います。
みなさんの目標や挑戦したいことはどんなことでしょうか?
新たな一年がよりよい年となりますように。
どうぞよいお年をお迎えください。