引き込まれた短編小説。「童貞」酒見賢一
天気がよいこともあり、古い本の品出しに精を出していました。そのなかで墨攻などで有名な酒見賢一さんの「童貞」という作品を発掘。そのタイトル名に邪な連想が頭をかすめましたが、調べてみると至って真面目な小説のようです。そこで、本日の読書として手にとりました。
物語は男性が生贄に捧げられるシーンから始まります。それだけでも衝撃的で目が離せない。そして更に読者が小説を読み進めれば「女が男を支配する邑(むら)」という独自の世界を理解できるように著者がていねいに話を進めます。これは本当に凄い。この最初の数ページを読んだだけで、この作者の力量がうかがえます。
そしてこの作品のテーマは治水です。小説の内容自体は、主人公の若い男が、女が支配する邑と戦う様子を永遠と書き続けます。しかし、少し俯瞰すると主人公が氾濫する河と向き合い戦う小説であることがわかります。
そして小説の最後はどっちが勝ったとかそういったオチはありません。しいて言えば、この小説自体がもう1つの小説の前章、つまりエピソード1のような終わり方だと店主は感じました。でも、最後まで読んで気持ちよく本を閉じることができました。なんだろう。この納得感。
そして更に巻末の著者のコメントを読み、その情報をググると、この小説には隠れたネタがあることがわかります。ネタバレになりますが、要は中国の紀元前の歴史から着想を得た小説のようです。
ただ、店主が個人的に気になったのは、著者の女性観。女が支配する邑を通して女性の醜さを次々と描写しています。
例えばP61-62で女性のぬくもりが男の独立心を奪うと解説する場面。本音と建て前を使いこなす横暴で繊細な太女。女性の肉欲的な部分。それがいいのか悪いのか店主は判断できませんが、著者が何か訴えたいものがあるのだろうと感じました。
こんな興味を惹かれる小説でしたが、最後に残念なことが1つだけありました。
この小説のタイトルである「童貞」。この意味を店主は測りかねています。なぜその言葉を選んだのか?本当にわかりません。でもまあ、それを考えるのも小説の醍醐味、いや後味というものなのかもしれませんね・・・