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紅テントで輝いた「誤読の魔術師」

「マジックリアリズム」という言葉をご存知ですか?

私もよくわかっていません。なんとなく「日常と非日常、リアリズムと幻想が当たり前のように共存する世界観」だと捉えています。

ウィキペディアを見ると、日本人作家では安部公房の名が最初に出てきます。

「壁」や「カンガルー・ノート」はそんな感じでした。カフカ的と評されがちだけど、もう少しダリの絵画に近いような。村上春樹だと「ねじまき鳥クロニクル」「海辺のカフカ」辺りを連想します。

唐さんの文学にも近い匂いを感じました。現実へいつしか異物が混ざり込み、リアルが押し返し、やがてどちらとも違う第三の混沌を生み落とすのが彼の真骨頂なので。

芥川賞受賞作の「佐川君からの手紙」は怖かったです。

実際にあった凄惨な事件の実行犯へ会うためにパリまで飛ぶ唐さん。ところが事態は妙な方向へ歪み、ねじれ始める。実在するのかどうかが曖昧な人が出てきたり。

本や手紙に書かれた事実とそこから膨らませたイメージがシームレスに繋がる。唐さんは「誤読」と呼んでいましたが、極端な思い込みに導かれた解釈が現実を侵し、気づかぬうちに景色を変え、もはや本人にも原型がわからない。そもそも現実と空想を分ける必要性を感じていない。

ゆえに実在の人であっても、作中の言動や行動がファクトとは限らない。しかし他の全員にとっては妄想でも、唐さんにとっては苦心の果てに掴んだ真実なのでしょう。

つまり彼のマジックリアリズムとは「誤読」の必然的な到着点。狙ったわけではなく努力を重ねた末のナチュラルな産物だった気がします。ありふれた賛辞へ集約されてしまうのが悔しいけど天才です。

現実とファンタジーの曖昧な境界線。もしくはリアルと妄想のあわい。そこに創作ならではのエクスタシーが潜む。唐さんから学んだことです。紅テントで歌って演じる魔術師はいつだって妖しく輝いていました。ご冥福をお祈りします。

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