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私の短歌五〇首(2)
目の前で伸びをしながら欠伸する子猫の口に指入れてみる
ぜいたくに育つ子猫は煮干し食い頭と骨をそのまま残す
トイレから戻った猫がゴロゴロと喉鳴らしつつ布団にもぐる
若者が語らい笑う誰もみな誰かの過去で誰かの未来
不器用で話下手でも正直なあなたがいるとほっとするから
あの時にすればよかったあの時にしなきゃよかったいろいろのこと
世の中に星の数ほど人がいて今宵あなたと会話している
何気ない会話のなかと何気ない仕草のなかに君の本当
故郷を思う胡馬の北風に依る如く越鳥の南枝に巣くう如く
一列で順番待ちの二人連れ肩の糸くずそっと取りたる
ちっぽけな善を重ねて徳を積むそれくらいなら私もできる
霧雨に傘持ち歩く二人づれ繋いだ手と手離し難くて
業平かはた団子屋かまっすぐな言問橋の名前のいわれ
年月は新しくなり吾輩は古びるばかり生きているから
酔いしれて居酒屋の夜なごやかに友との語らい笑いに満ちる
共にいるただそれだけで親孝行子らが離れて初めて思う
生け花はきれいだけれど私には植物の半殺しに見える
あなたにはあなたにだけのよさがあるたとえば顔がまん丸いとか
何彼とやたらにキレる老人に過去に歩んだ生き様を見る
どんどんと贅沢になる家族葬 私のときは葬式いらん
携帯がなかった頃の待ち合わせ来てるの知らず30分も
あのころは深夜ラジオが友だった今とは違う時間があった
殿さまの優しさ籠るお人形 姫さま笑うお顔はいかに
妹がトラに喰われた夢を見てやさしくなった翌朝のオレ
妹のあらすじだけの感想文直してやった遠い夏休み
ご機嫌に口ずさむ歌 途中から歌詞が分からずふんふんふんに
ふるさとの山はいつでもそこにいるただ黙ったままでもそれがよい
集まった十三回忌 親戚の家族構成がらりと変わり
会うたびに細く小さく丸くなる母の背中に声なき感謝
母からの宅配便に詰められたあの頃あった遠い日常
片栗の花がうつむく初恋に伝えきれない想いを秘めて
ひそやかに私を思ってくださいと茜の花は蔓をからませ
臆病で内気な心おし隠し夕化粧して恋を疑う
寂しさの増す庭に咲くツワブキに冬を迎える心安らぐ
女郎花その名が徒に誰にでも靡きはしない気高き美人
こっそりときれいに咲いた姫百合はたぶんあなたの心と同じ
髪を切り生き方変えると言う彼女 颯爽として美しくある
居酒屋のひとり女子のかっこよい頼むメニューも俺等と違う
覚えてたほんの小さな約束に慕ってくれるまごころ感じ
ささやかなメール文にもさりげなく時の装い載せてくる君
やわらかな響きの名でも本当はとっても強い「のぞみ」という君
日の光音を立てると言わずとも夏はぎらぎら秋は燦々
遠い地のホテルのテレビ眺むれば天気予報の画面馴染まず
先斗町 傘かしげすら窮屈な路地を歩くも足取り軽し
諫早で道を尋ねて親切に教えてくれるも言葉わからず
突然に降られ駆け入る雨宿りほのかに過ぎるやさしい時間
傘開きわずかにできる空間は時雨隔てて仄かに優し
晴れ間なく物忌む雨夜の品定め男同士の会話も楽し
二人行く遠い道のりだんだんと妻に遅れる心も折れる
「お茶でもいれましょ」と言ったのに「お茶がはいりました」の言葉やさしい