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【広報目線で考える】谷桃子バレエ団YouTube

みなさん、谷桃子バレエ団のYouTubeは見られたことありますか?

日本国内の歴史あるバレエ団のYouTubeで、1年半前に有名ディレクターのもとでリニューアルされたチャンネルです。

バレエ経験者・現役広報の立場から、この取り組みの凄さを、考えたいと思います!

となんだか偉そうに書いてますが、現役広報と言ってもまだまだペーペー、バレエも驚くほどの才能のなさで基本見る専門ですので、あくまで個人の感想として、ご容赦ください✨

何がすごい?YouTubeマーケティングの成果

なんと言っても

チケットを完売させたこと

これに尽きると思います。

バレエをご存知の方にとっては当たり前かもしれませんが、国内のバレエ公演で完売させることはとても難しいらしいのです。

YouTube内でも明らかにされていますが、限られたバレエファンと出演ダンサーの知り合いばかり。ダンサーにチケットノルマがあるカンパニーもまだ多いそうです。

そんな状況において
・チケットを完売させたこと
・初心者には抵抗感のある古典作品『白鳥の湖』でも集客をしたこと

というのは、業界の中で革命的なことだと思うのです。

今回はなぜ、いちバレエ団にこのような偉業が成し遂げられたのか、考えていきたいと思います。 


1.戦略

ターゲティング:バレエを見たことがない人

→バレエ団の収益に繋げる・業界を盛り上げる、という点で、従来のバレエファンを対象にするのはあまり効果的ではないですね。

バレエのマーケットを拡大するためには、まだバレエに触れたことのない人に、興味を持ってもらう


必要があります。

トレンド:日本特有の推し文化に合致するファンマーケティング型

→いきなりバレエそのものの凄さを伝えるのではなく、まずダンサー1人1人のファンになってもらうことを大事にされています。

完璧な姿を見せるのではなく、思い悩む不完全な部分も見せて、共感を誘う仕組みを作っています。

▼ダンサー密着動画

拡散力:バズるためのSEO対策

→時々コメントで「年齢・身長・体重は必要?」「サムネ誇張しすぎでは?」などのネガティブなコメントもありますが、広報・マーケティングの観点では、ある程度必要なことだと思います。

SEOとはざっくりいうと『検索されやすいワードを選んでいく手法』で(※正式な意味とは違いますのでご注意ください。)、ある程度の型があるのです。

Googleの予測変換などを思い浮かべていただくと良いと思いますが、多くの人が検索しそうなワードがまずは出てきますよね。

私が本業で担当しているお家系YouTubeだと「間取り・平米数」は鉄板です。
どんなに自分たちのこだわりを書いても、このメジャーワードがなければそもそも見てもらえないのです。

例えば「バレリーナ」といえば、そのスタイルの美しさが有名です。
となると、美容文脈で「年齢・身長・体重」は検索されやすいのでは?と思います。

また、検索されてもクリックしてもらえないと意味がないので、ある程度誇張・過激なサムネになっても仕方ないのかと思います。(もちろん良識の範囲内でのバランスが必要で、実際にコメントでの批判を受けて、すぐに謝罪と共に差し替えられているものも拝見しました。)

広報をしていて、伸びない悩みと、マスに訴えかける手法への抵抗感の、ジレンマも多いです。しかし知ってもらって利益を出さないと事業自体の存続が不可能なので、「どんなに良いものも、知ってもらわないと存在しないのと同じ」と、しみじみ感じます。

と、ここまでは戦略の部分について書きました。この分野に詳しい型なら「当たり前じゃん」と思われる内容かもしれません。

しかし、どんなに優れた戦略も実行されなければ意味がありませんよね。谷桃子バレエ団のYouTubeの1番の凄さはこの「実行力」にあると思うのです。


2.実行力

ダンサーの協力を集める

広報をしていて悩むこと、実は1番がここだったりします。

なぜなら広報部だけで広報はできないけれど、営業・現場などの皆さんは基本本業でお忙しいのです。
いくら会社のため、周り回ってみなさんのため、と思っていても、本業で忙しい中で「広報に協力なんてしてらんないよ。」となるのが当たり前だと思っています。

ダンサーのみなさんもきっとそのはず。YouTubeに協力する時間があったらもっと練習したい、休みたい、バイトしたい、などあるはず。それでもたくさんのダンサーさんが(見る限り)前向きに協力されています。

ダンサーさんたちがきっと良い人たちで一生懸命なのは大前提ですが、経営陣・ディレクターさんの説明力、協力を集める力も優れているのではないでしょうか。

個人的に、素敵な広報の先輩方は、社内外の協力を集める、いわゆる調整能力にも優れた方が多い気がしています。

批判を恐れない・歩みを止めない

何か新しいことをするときには、批判がつきものですよね。実際、リニューアル当初は「ダンサーの家密着」「給料の話」など通常のバレエらしからぬ企画からか、批判的なコメントがよく目につく感覚がありました。

実際私自身も「なんか変なことやってる」「私の好きなバレエを下品な感じにしないでよ」と、ネガティブな目で見ていました。

しかし、すごいなと思ったのは、そのような批判を受けても、方針を変えず、配信もやめなかったことです。

私だったら、常に批判的なコメントに怯え、少しでも批判的なコメントがあろうものなら「やめた方が良いのか…」と悩んでしまいます。

しかし、谷桃子バレエ団は、やめなかった。

批判を受けてもあゆみを止めなかったのは、ディレクターの中に確固たる戦略があり、その成功を信じていたからだと思うのです。「成功する・させてみせる」という強い気持ちがなければ、批判なんて怖くて受けれないと思います。

そして、ターゲットと目的を強く意識していたのも大きいのだと思います。
おそらく批判的コメントをするのは「完璧で綺麗なバレエが好きな従来のバレエファン」。(私も含めです!)

「バレエは完璧で美しいものなんだ。」「綺麗な踊りが見たい、ダンサーのプライベートなんて興味ない。」なんて人も多かったはず。

しかし、このYouTubeのターゲットは、(おそらく)バレエを見たことがない人。なので、この人たちに魅力的に映れば、従来のバレエファンの感覚は、優先度を低くして良いはずなのです。

▼実際に『白鳥の湖』に来場したお客さん
動画元:【週5バイト→主役】158cm、22歳、入団1年目【2,300席超満員・白鳥の湖】
https://youtu.be/T_M1TJVWLlM?si=ehTapUtmvXxEXNMP

人間、批判されたい人などいないと思うのですが「大事にしている人の意見だけを聞いていく」くらい割り切らないと、世の中いろんな意見があるので、方針を貫くことは難しいのだろうな、と思いました。
(※こちらのYouTubeが従来のバレエファンを蔑ろにしているという意味ではないです。妥当だと思う意見に対しては真摯に受け止め改善されている様子でした。)

私自身はぶつぶつ文句を言いながら見ていくうちに、チャンネルもバレエ団もファンになりました☺️


3.PRする商品自体の魅力(谷桃子バレエ団の魅力)


どんなに戦略がしっかりしていて、社内の協力体制があっても、これがかけていては広報・マーケティングが成功しません。

それは、商品自体の魅力です。

「広報・マーケティングのプロならどんな商品・サービスでも魅力的に見せれるでしょ。」と思われる方もいらっしゃるかもしれないですし、実際そうなのかもしれませんが、個人的には、商品自体に魅力がないと、どんなにPRを頑張ったところで限界があると思ってしまうのです。

例えば家づくりでも、どんなによく見せようとしても、欠陥住宅ばかり作る会社のPRはなかなか難しいですよね。

谷桃子バレエ団は、PRの手法を変えれば売れるだけの、魅力があったということなのだと思います。
・本来海外で活躍できるレベルのダンサーたちが続々入団したこと
・ダンサーそれぞれに個性があること
・監督がバレエ団の現状を真摯に受け止め、本気で変えようとしていること

などでしょうか。

特に最後に関しては、大事です。今の時代「完璧でなく、欠けのある方が愛される」などと言いますが、ただただネガティブな点を曝け出して、それにあぐらをかいているようでは当然、逆効果です。
現状は良くない、けれどもその事実を受け止め、真剣に変えようともがく姿勢に、みんな共感し、応援したくなるのだと思います。

改めて、広報・マーケティングとは「"隠れた"魅力を、適切に伝えるための手段である」ということを実感させられました。


(おまけ)従来のバレエファンとして驚いたこと

私自身バレエが大好きで
「日本国内でもバレエ環境が充実して、たくさんの魅力的なバレエ公演を観たい。」
「そのために私ができることは何かな?」
と常に考えています。
だからこそ、今はバレエに関係のない業界ですが「魅力を伝える」広報・マーケのキャリアを選びました。

しかし、経験の浅い私の頭では「完璧でないバレエを見せる」という頭にならなかったのです。だって、私にとってのバレエは完璧なものだから。

だから、最初はダンサーの技術が足りていない姿を見て、すごく不満な気持ちになりました。「こんな踊りにお金を払いたくない。」と。

しかし、見続けているうちに、失敗して、技術も足りなくても、必死に頑張る姿を見ているうちに「谷桃子バレエ団の公演を見に行きたい」「完璧な踊りでなくても関係ない」と思うようになってきたのです。
実際、白鳥の湖やレ・ミゼラブルの当日YouTubeでは、感動で泣きました笑

バレエが好きだから、バレエのPRができるわけではない。多角的な視点が必要である。というのが、すごく大きな気づきでした。

まとめ

さて、かなり個人的な考えを書いてしまいました。繰り返しますが、私は広報としてペーペーなので、広報マーケティングのプロフェッショナルの方のご意見を聞いてみたいな、と思う今日この頃です。

とにもかくにも、谷桃子バレエ団のYouTubeはおすすめです!