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#創作大賞2024
【Emile】12.Emile【完】
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罅が入った天井の隙間から、一筋の光が、彼らを照らしました。
太陽が登ってきたのです。人々は [ 女王の愛 ] を捨て、醜い塊を受け入れ、この地を踏みました。
それは、一人の人間として生まれたことを表していました。母親の守りを失った子供たちは、不安や苦しみに苛まれ、この醜い世界を生きていかなければならなくなったのです。
「よく断ち切ったね、オヴ。君は、大人になったんだ。大丈
【Emile】11.愛
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オヴは、 泥の中を駆け抜けました。走れ、走れと、女王が急かすのです。
オヴがたどり着いたのは、あの子が死んだ場所。
あの時みた、枯れた花が一面に広がっていました。あの綺麗な白い花は一切咲いていませんでした。
女王の心臓が中心で脈打っていました。
そして、その側に一つの影を見つけました。
その影は手を広げて近づいてきました。
オヴは女王の愛を握り。その、影に突き刺しました。
【Emile】10.覚悟
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「オヴ、今日も練習?」 ご機嫌で鼻歌を歌う少年がいました。
赤土色の少年。新品の綺麗なピアノ、足のつかない椅子。
「うん、私、ピアノが嫌い。でも、練習しなきゃ」
「そっか、僕は好きだよ。ピアノ。そうだ。ねぇ、いっぺん好きなように弾い
てみてよ、オヴ」
「好きなように?」
「そ、心のままにさ、音楽は、僕とオヴを繋ぐものだから、離れ離れになっても思い出せるだろ?」
「離
【Emile】9.女王
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「女王はあなたは我が子の幸せだけを願えばいいのです。」
「生まれながらにみんなから愛される女王
オヴ。」
彼女はいつも、とてもたくさんの人に囲まれていました。たくさんの人が彼女の元を訪れては、豪華な貢物を持ってくるのです。
眩いアクセサリーや、決して枯れない花などでした。しかし、女王はわかっていました。それが自分に送られたものではないということを。
誰も彼女のことなど、
【Emile】8.真実
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「やぁ、久しぶりだね。大きくなったんだね。」
オヴが楽譜から顔をあげると、目の前には、背が高く、髪の長い男の人が立っていました。
「おかえり、オヴ。」
「パパだよ。オヴ。ほら。エルドット。」
エルドットの顔を見て、オヴは固まっていました。
「あれ、わからない?ようやく目を逸らさなくなったと思ってきたのに。」
「君を頂点とするこの世界は、完璧な理想の世界だった。だけど、
【Emile】7.楽譜
「驚いたよ。優秀だね。オヴ、君には生きる価値があるよ。」
「ありがとうございます。」
帰り道、同じ電車に揺られながら帰っていきました。帰りの電車は余裕のある空間がありました。
時間が経つにつれて、景色はとても綺麗なものになっていきました。あちこちに咲き乱れる、花、歌う蝶。汚れが一切ないその世界は、さっきまで枯れた土地にいたオヴたちは、まるで、この世界そのものが幻想のように思われました。
帰宅後
【Emile】6.戦場
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電車で揺られながらたどり着いた目的地は、とても息苦しいところでした。
喉の閉塞感、心臓がとても痛むのです。喉から鳩尾に吊るされた錘が、振り子のように、死の時を刻むのです。自分の呼吸の音がよく聞こえること、目の前には、醜い塊が犇めき合っていました。何人も、何人も、倒れて行きます。醜い塊を前にして、ナイフを持つ手が震えるのです。ほとんどの子どもたちはこの醜い塊との戦いに負けて、立
【Emile】5.約束
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「なんで最後にお前とピクニックなんだよ。」
「いいだろ、最後くらい僕の後ろを歩くのも」
振り返ってヤタカは笑いました。
それから、流れる時間は止まることはなく、とうとう、巣立つ時がきたのでした。
明日になれば、彼らは黒い制服を纏い、戦場をかける兵士になるのです。オヴの首には、綺麗な赤い宝石がキラキラと輝いていました。
オヴの前でヤタカが軽快に歩いていました。オヴは長年付き
【Emile】4.イドの王
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白い花園。女王が歩けば、花が歌い、輝きを増す。女王の心臓は未だ健在。
女王は嗾され、ナイフで風穴をあけた。
彼女は見てしまった。
奴は王となる。
女王の心は、奴に奪われた。
赤く染まり、枯れていく花達は、まるで私たちのよう。
女王の心を取り返さなくては、平和は訪れない。
汚れた女王は、心を探して彷徨い歩く。
「おとぎ話さ、これは。真実じゃない。だから図書館に並んでないだろ?」
【Emile】3.イドについて
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茶色の短い髪の青年が、横たわる塊をしゃがんで見ては、紙に何かを描き写していました。
生まれたての赤ん坊のような姿をした塊が、潰れ、赤く染まり、 とても醜い姿をしていました。
青年は後ろに人影が現れたことに気づき、立ち上がりました。
「あ、すみません。邪魔でしたね。」
「…また君か。」
青年のそばに立っていたのは、黒い服を身にまとった大人の兵士でした。手に持つナイフは赤く染
【Emile】2.女王のなくしもの
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「ボケてきたんじゃないかな?」
お昼時、ヤタカの笑い声が食堂に響きました。数分前に、自習を終えた二人は食堂に向かいました。席に着くなり、ある噂話を耳にしたのです。
「まさか、なくした物が何かわからないなんてね。」そう、女王はとても大切なものをなくしたのです。しかし、なくなったことはわかるものの、それがなんなのか、女王本人にもわからないのだとか。
そして、その女王のなくし物
【Emile】1.ヤタカ
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「母さんは、僕のことを愛してくれない。」
赤土色の髪をした少年が、眼鏡の奥の青い眼を天井に向けて、不満そうに言いました。
目線の先に広がる天井は、この世界を包み込むように存在しています。天井には大きな絵が描かれており、中心には、心臓に大きな穴が空いた人のようなもの、真っ赤な色をしています。
その人間の近くには宙に浮く大きな丸。この絵は、とても昔から存在していて、何
【Emile】0.はじまり
「ごめんね」
深夜1時9分。その日は、とても綺麗な夜でした。
人々は、眠りにつき、夢の中でした。
一人の逸れた蟻のような、小さな迷子の子どもがいました。その無垢な少女は、無花果の様な赤いドレスを身に纏い、 頭を抱え、目を塞ぎ、白い花の絨毯の上に、まるで胎児のように震えながら丸まっていました。
少女の恐怖の対象は、目を背けたくなる様な、とても醜い姿をしていました。それを受け