『虞美人草』 ⑨ 夏目漱石

2,579字


一五 (甲野家)

 欽吾(藤尾兄)の書斎の描写が小野さんの視点で語られる。
うらやましがっている。こんな机だったら、博士論文がすぐに書ける、と笑
 後代の一読者から見ると、夏目漱石なんて、立派な机で優雅に執筆してそう、という勝手なイメージがあるけど。
 こうやって、誰もが通る一通りの悩みを持ちつつ、かの夏目漱石さえも大文豪になっていったなんて、目から鱗じゃないですか?
 現在、リモートワークしてる皆様の方が、執筆環境に投資されているかもしれませんね。

p.277
 そのほかに洋卓(テエブル)がある。チッペンデールとヌーヴォーを取り合わせたような組み方に、思い切った今様を華奢な昔に忍ばして、室(へや)の真ん中を占領している。周囲(まわり)に並ぶ四脚の椅子はむろん同式の構造(つくり)である。(略)
p.278
 小野さんは欽吾の書斎を見るたびに羨(うらや)ましいと思わぬことはない。欽吾もむろん嫌ってはおらぬ。もとは父の居間であった。(略)さほどに嬉(うれ)しい部屋ではない。けれども小野さんは非常に羨ましがっている。
 こういう書斎に入って、好きな書物を、好きな時に読んで、厭(あ)きた時分に、好きな人と好きな話をしたら極楽だろうと思う。博士論文はすぐ書いてみせる。博士論文を書いたあとは後代を驚かせるような大著述をしてみせる。さだめて愉快だろう。しかし今のような下宿生活で、隣り近所の乱調子に頭を攪(か)き回されるようではとうていだめである。

『虞美人草』夏目漱石著 角川文庫

昭和30年 初版発行

  世の中って進歩してて、日本に生まれて定職についてるだけで、昔の人が思いつきもしなかったような贅沢をすることもできている不思議を感じる事が多々ある。
 私が今食べているような健康的な食品だって、一昔前はそんじょそこらでは手に入らなかった。以前もこういう食生活を試みようとして、あまりに高価で挫折したことを覚えているので、それは自信もって言える。今では、大枚をはたかなくても、多少他のことを調整すれば、健康的な食生活を選ぶことは大して難しくない。

 家具もそう。
 身分不相応なんだけど、時々泊まりたくなる大好きな高級ホテルがあって。親一人子一人で旅行を始めたとき、安心できる環境で泊まりたい、と随分お世話になった。
 そのホテルの、一番安くて小さい部屋に泊まるんだけど、この部屋が大好き。狭い(といってもうちと大して変わらない)んだけど、とっても機能的だし、家具は優雅。何度か泊まるうちに、うちも狭いけど、家具をこんな風にしたら優雅な気分が同じように味わえるのでは?と思って試してみたら大正解だった。家具は、ボーナスの度に一つずつ揃えていった。まだ全然足りてないけど、執筆&食事の環境には満足している。(一番小さいサイズのダイニングテーブルと椅子)

 もしかしたら、過去の大作家の執筆環境よりも良い環境をすでに持っている可能性ある笑
 おかしいな。大著述が書けていない笑

 続いて、日本間での藤尾と藤尾母の会話場面。
 この妖怪母(失礼!)の謎が、やっと解けた。断っているつもりだったんだ、ってこと。そういえば、例えば京都の方って、そうなんですよね?
 私は「いけず」とか、本で知る知識ばかりで、実際に込み入った会話をしたことがないので知る由もないのだけど。そうかぁ。あれは断っているつもりだったのか。面と向かって意を唱えるのは失礼だから、肯定した向きなんだけど、実は否定だった、みたいな。それでも、京都人(文化人)同士ならそれで通じるのだろう(私には通じませんでした💦)

p.289
 「そりゃ、今までの義理があるから、そう子供の使いのように、藤尾が厭だと申しますから、ひらにお断り申しますとは言えないからね」
 「なに厭なものは、どうしたってよくなりっこないんだから、いっそひらったく言ったほうがいいんですよ」
 「だって、世間はそうしたもんじゃあるまい。お前はまだ年が若いから露骨(むきだし)でも構わないとお思いかもしれないが、世の中はそうは行かないよ。同じ断るにしても、そこにはね。やっぱり蓋(ふた)も味(み)もあるように言わないとーーただ怒らしてしまったって仕方がないから」
 「なんと言って断ったのね」
 「欽吾がどうあっても嫁を貰うと言ってくれません。私も取る年で心細うございますから(略)」
 「心細いから、欽吾(あれ)があのまま押し通す料簡(りょうけん)なら、藤尾に養子でもして掛(か)かるよりほかにいたし方がございません。すると一さんは大事な宗近家のご相続人だから私どもへいらしっていただくわけにもゆかず、また藤尾を差し上げるわけにもまいらなくなりますから…」

『虞美人草』夏目漱石著 角川文庫
昭和30年 初版発行

 宗近の父は断られたことを分かっているのか、と藤尾が母に尋ねる。
 ことによると謎が通じなかったかもわからないね、と母。
 通じてないのでは、と私も思うよ…

 この二人の会話から、新たな事実が発覚。明日、藤尾と小野さんは大森へ行く約束をしていると言う。母が、なんなら一緒に歩いているところを一に見せてやるといい、とか言ってる💦
 今、全体で何ページあるのか確認してみたら、注釈や解説を抜かすと本文はp.410まであった。現在p.291。章でいうと、一九まであるみたいです。

 藤尾母は欽吾と話す。財産をやるやると言って、いつくれるんだ、みたいな話になってる(こんな言い方ではないが)。 欽吾は、今日から、と。
 しかし、欽吾は、小野をよく知っていますか、と。宗近の方がおっかさんを大事にしてくれます、という兄。

 藤尾が呼ばれる。
宗近へ行く気はないか、と兄に尋ねられ、ない、と答える藤尾。
どうしても厭か、厭です、と。お前のために言っているのだ、と言う欽吾に、藤尾は小野さんの性格を知っているのか、と尋ねる。
 知っている、と静かに答える欽吾。

 一さんを賞(ほ)める人に小野さんの価値(ねうち)が分かるわけがありません、と答える藤尾。

 登場人物出てきた中で、欽吾兄さんが一番違和感はなかった。ここがイヤとかがなかった。
 この人がそう感じるなら、とも思う。
でも、やっぱり結婚は本人の問題だよねぇ、とも思う。

だってどう考えたって、イヤと感じている人と結婚するなんてイヤじゃん笑

 

 

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