
「隠れた人材」はデータから見つかるのか
タレントマネジメントの領域では、「隠れた人材」をデータから見つける、ということが期待されていると感じています。それもあって、人事においてデータを整備・活用しよう、という動きが活発です。
当然ですが「人事データの整備」は人材の発掘以外にも、組織開発や人的資本経営の観点でも何か良いことをもたらすのではないか、と期待されていることでしょう。しかし、データを整備するプロジェクトを立ち上げ推進してきたものの、思うような成果が出ずに頓挫してしまう、そういった企業も少なくありません。
人事のデータをかき集めるにあたって、いろんな部署との調整が大変だった。
データを整備したが、結局だれも使っていない。
とりあえずデータは集まったが、活用の話となると意見がまとまらない。
といった声もよく耳にします。
データ整備がうまくいかない根本の理由は「手段」と「目的」の履き違えであるケースが多いです。データを整備することは手段に過ぎませんが、いつのまにか目的となってしまい、本来目指すべきは「人材開発」や「組織改善」であることを見失ってしまうのでしょう。
今回のnoteでは、そもそも「隠れた人材はなぜ発生するのか」について考え、それに基づきこの隠れた人材を見つけるためには「どうやってデータ整備をすればいいのか」について掘り下げます。
「隠れた人材」はなぜ発生するのか
「社内の隠れた人材を発掘する」ことは、人材開発に関わる人事としては上げたい成果の一つだと思います。「タレントマネジメント」という言葉から「発掘や抜擢」という言葉を連想することも多いです。
「人材が発掘」される、ということは、その人材が持つ能力が「隠れていた」ということになります。こういった「隠れた才能」が発生する要因には以下のものがあります。
評価の偏り:上司や同僚はその人の一面しか見えないこともあり、フィードバックが偏った視点に限られてしまう
配置の固定化(滞留):長期間同じ役割・部署にいることで、成長の機会に恵まれない
情報分散:人に関するデータが部門・部署で散逸してしまい、人物の全体像が見えない
評価について、業績評価が中心だと、わかりやすい・派手な成果を出す人だけが目立っていきます。また、上司部下の関係においては、コミュニケーションまわりや成果の出し方が似ているタイプを高評価してしまう、といったいわゆる相性の良さによるバイアスがかかってしまうこともあります。
滞留については、長期間同じ部署にいることによって一定の価値は出し続けているにも関わらず、評価の視点が変わらず新たな役割をアサインされることがない、といったことが起こります。若手社員が「リーダーシップを発揮したい」と考えても、上司が次の業務はまだ任せられないと判断したり、ポジションがないなどの理由により、機会を得られないこともあります。
上司の評価だけではなく、人事やメンターなど様々な視点からの評価情報があったとしても、それを適切に共有する機会がないこともあります。企業全体の視点では活躍できる適切なポジションがあるにも関わらず、悪い意味で「知る人ぞ知る」逸材となってしまい、適切な異動がなされないことも起こります。
こうした「隠れた人材」はどの企業でも一定割合存在します。その情報を共有できる仕組みが重要であり、そのために「人事データの整備」が必要となります。隠れた人材を見つけるためのデータ整備について整理していきましょう。
隠れた人材を見つけるためのデータ整備
冒頭でデータ整備が空回りしてしまう、という話を書きましたが、それが起こる理由には大きく以下の3つの理由があります。
理由その1:目的がないままデータ整備を始めてしまう
経営などトップダウンによる「とりあえずデータ整備をする」という意思決定によって、発生してしまうケースです。丸投げされた現場はデータ整備するためにとりあえず人事システムを導入しますが、担当者は使うかどうかもわからないデータと格闘した結果、結局誰も使わない、という悲劇も起こります。
理由その2:現場の理解不足と負担感
データ整備後の活用イメージが現場(各人事部門や事業部門など)と共有されていないケースです。現場からすると、作業工数が増えるというデメリットに対して、得られるメリットが感じられないため、整備にあたって調整で苦労したり、せっかく運用を始めてもデータ整備が形骸化し、使えないデータになってしまうこともあります。
理由その3:過度な期待と現実のギャップ
苦労してなんとかデータさえ揃えてしまえば、あとはすぐに効果的な結果がでるだろう、と考えたくなりますが、それは幻想です。人事の施策自体、数ヶ月あるいは年単位で効果がでるものなので、結果がでるまでには時間がかかります。そのため、途中で飽きて止めてしまうこともあります。
データ整備を始めるにあたっては、「何のために整備するのか」の目的が最も重要です。今回は「隠れた才能の発掘」にピン留めしているので、それに最低限必要な環境を整えていく、という前提で話を進めます。
目的の明確化
ここでは、「隠れた才能の発掘」が目的ですが、もう少し解像度を上げる必要があります。
「どんな才能を見つけたいのか?」
「それをどのように活かすのか?」
といったところまで具体化しておくと、集めるべきデータが明確になりスムーズです。
例えば、以下のようなもの。
どんな才能?
「既存のルールや慣習にとらわれず、新しいアイデアや解決策を生み出すクリエイティブな視点を持つ、新しい視点や発想を生む人材」
どのように活かす?
「新規事業の企画チームや業務改善プロジェクトにアサインし、既存の業務フローに捉われない革新的な提案を取り入れる」
別の例として、こんなものもあります。
どんな才能?
「派手な結果は目立たないけれど、継続して高品質な仕事をこなす安定感を持つ人材」
どのように活かす?
「プロジェクトマネジメントや、品質管理が重要な業務にアサインする。さらに、彼らの姿勢を社内で共有することで、全体の業務品質向上のモデルケースとして活用する」
こういった、発掘したい才能や活かし方について、いくつかケースを作っておくと良いです。
集めるデータの質と視点
整備の前提では、「どの範囲から」「どういった視点を含んだ」データをあつめるのか、が必要となります。
どの範囲から集めるのか、はデータの質に影響します。人事が扱うデータ(労務や評価業務等で扱うデータ)だけではなく、上司や同僚からの日常的な評価やフィードバックを含むかどうか、データ収集の工数なども踏まえながら前提を決めることが重要です。
また、集めるデータの視点についても、評価というと業績に寄ってしまいますが、「隠れた人材の能力」という観点では、スキルや志向性につながるデータにも焦点を当てることになります。
目的に沿ったデータ収集と分析
データ収集をどこまで行うか、どのように分析するか、についても前提を作っておく必要があります。
データ量については、必要十分なものに絞り込むことが有効でしょう。例えば、リーダーシップに関する能力であれば、自己評価データやプロジェクトの成功事例などに限定する、ということもありえます。必要ないデータに関しては、プロジェクトのスコープから外すことを検討しましょう。
人事データの整備を行う機会もなかなかないため、ついこれを機に集めたくもなりますが、欲張ることは禁物です。
分析については、定量データだけではなく、日常の面談やコミュニケーションなど主にテキストデータからなる定性データを扱うか、も重要な前提になります。こういった定性データは人や組織のより詳細な状況を知るのに有効な情報ですが、分析には工数や技術的な要素も絡むため、十分な検討が必要です。
これらの前提が揃うことによって、目的に沿ったデータ整備が可能になります。要するに、「前提を揃えることによって集めるべきデータを最低限まで絞り込み、データ整備の難易度を下げる」ということを行っています。
「隠れた人材」を見つけるためのデータ整備の第一歩
データ整備に限らず、人事にまつわる新しい施策を実施するためのポイントは「スモールスタート」です。企業によって人も組織も異なるため、「こうすれば絶対成功する」、という黄金パターンはありません。小さな成功体験を作り、それを横展開する、というのが良いでしょう。
スモールスタートの例
部門ごとに仮説検証
「法人営業部門で次世代リーダーを発掘する」など、具体的なテーマ設定する
既存データの可視化
現在収集することができるデータを洗い出し、シンプルな分析からスタートする
小規模なデータ整備の試行
営業部門で必要なスキルや、社員のキャリアに関する希望のデータを追加し、それをベースに活用例を作る
最初からうまくいくわけではないので試行錯誤することが前提となります。最初から完璧を目指さず、うまくいかなくても反省を活かして次に繋げる、という柔軟さが重要です。
「隠れた才能」発掘からつながる「次の可能性」
今回は目的を「隠れた才能」に絞りデータ整備を進めましたが、これがうまくいくことで、これらのデータを応用的に活用することが可能です。
配置転換や異動の最適化
社員のキャリア形成支援
離職予防のためのエンゲージメント向上策
これまで整備されたデータに、新しく必要なデータを足すことでデータベースを拡張し、応用範囲の広い人事データが整備されることになります。
冒頭にも書きましたが、データ整備自体は目的ではありません。目的に対して前提を揃え、データの収集範囲を最低限にすること、そこからスモールスタートで小さな成功を積み重ねて、最終的には組織全体の可能性を広げられるとよいと思います。「隠れた人材の発掘」に限らず、人事におけるデータに基づいた課題解決の考え方の基本ですので、参考にしていただけると幸いです。
人事データの活用や分析、指標の開発に興味を持たれた方、あるいは具体的な課題についてのご相談がある場合は、ぜひWorkTech研究所にご連絡ください。noteへのリクエストもお待ちしております!