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子どもも会社員も、必要としているものは同じだったという話。

最近読んだ本で、ほえーって思った話をします。

「私たちは子どもに何ができるのか」(ポール・タフ著)という本を最近読みました。
(原書のタイトルは "Helping Children Succeed"。読み終わると、こっちの方がなんかしっくりくるタイトルだなとは思う。)

すごく雑にサマると、

・人間の能力は大きく「認知能力」「非認知能力」に分けられる。本著では後者に焦点が当てられており、この能力は具体的には「やり抜く力(グリット)、好奇心、自制心、楽観的なものの見方、誠実さ」といった性格としての強みともいわれるような"気質"のことを指す。

・アメリカにおいて大きな問題となっている貧富の差から生まれる「教育格差」。この負の影響を受けてしまいがちば低所得者層の子ども達に対する教育を成功させるためには、「非認知能力」が重要である。

・実際に、非認知能力に焦点を当てた早期教育を受けた子どもは、そうでない子どもと比べて学士号取得率や平均的な収入が高く、家庭も安定しており、犯罪と関わる率が低い傾向にあるとされている。

・そして、この「非認知能力」は幼少期の周囲の環境の産物により身につく。周囲の大人が豊富な語彙で話しかけること、家庭内のトラブルやストレスが少ない環境で育つこと、子どもが泣いたときに周囲の大人がどう反応するか、などなど。

こうしたことを実際の実験やケースを用いながらわかりやすく説明していき、最後に「じゃあ我々には何ができるのか?」という問いに答えていくという本。

この本の本筋からは若干逸れてしまうかもしれないけれど、私が「ほほー!」と思ったのは、「インセンティブ」「モチベーション(動機づけ)」の章。仕事では企業の人事をやってるので、ここにビビッとくるのはもはや職業病なんだろうか。笑

「インセンティブ」の章で書かれていたことをこれまた雑に要約すると、

・教育における賞罰の効果はあくまで限定的なものである。とあるアメリカの市の公立学校で子どもの成績や読んだ本の冊数に応じて金銭や携帯電話を報酬として与えるという社会実験を行ったが、結果としてどれも効果は見られなかった。

(ちなみにこの実験には940万ドルの現金を使ったらしい。こうした社会実験的な研究にこれだけの予算が割かれているということには純粋に関心。)

・もっと幼い幼稚園児に対しても同じことが確認された。ある実験で、お絵かきをしたらご褒美をあげる、というルールを幼稚園の4歳児たちに伝えたところ、2週間後には子どもたちは明らかに絵を描くことに対する興味を失っており、実際にお絵かきをすることも減ってしまっていた。
・つまり、教育における賞罰(外的インセンティブ)は非常に限定的であり、ケースによってはむしろ逆効果をもたらしてしまうこともありえる。

インセンティブで子どもの学習に対する意欲や能力が伸びないのだとしたら、じゃあどうすればいいのか?そのヒントが書かれているのがその次の「モチベーション」の章。

・子どものモチベーションが上がる要素は、「自立性」「有能感」「関係性」。これは心理学的に人が求めるとされている3つの項目でもある。

・どうやったら教育現場でこの要素を満たせるか?

・生徒が「自分で選んで、自分の意思でやっているのだという実感を最大限に持てている」状態を教師が作る。むやみに管理したりしない、強制されていると子どもに感じさせないようにすることで「自立性」を保つ。

「チャレンジングで、ちょっと頑張らないとやり遂げられなさそうな課題」を与え、生徒が「自分はきっとできるはずだ」と思い挑戦できるような「有能感」を生む。

・子どもたちが教師から好感を持たれ、価値を認められ、尊重されていると感じられる「関係性」を育む。

ここまで読んだときにね、「あああ~~~~。」って思ったんですよ。

これ、大人もまったく同じだわって。

まさにこの本に書かれていたことを思い出しました。言わずと知れた良書、「心理学的経営」(大沢武志著)。

人事や組織開発に関わっている方なら読んだ方も多いのでは。

(もう廃盤になってしまっているので↑のamazonでは9,000円で売られてますが、最近ペーパーバック版も出てそちらは比較的お手頃に買えます…!Kindle版もあります。)

面白いほどにこの本の中でも同じことが述べられています。

(中略)若者を仕事に駆り立てる条件は何かと問われて、私は”内発的動機付けにとって最も重要な心理的条件”として三つのポイントにまとめたことがある。(中略)まず第一が「自己有能性」、すなわち、仕事を通して自分の効力感を体験できることである。これほど自分の成長欲求を満たすものはない。(中略)そして第二が「自己決定性」(中略)。自分の仕事については、自分で考え、自分で計画し、自分でチェックする。自由裁量の幅が大きいだけでなく、自己責任性を伴うことが大事である。そうした機会が日常的な仕事の中に見出せなければならない。第三が「社会的承認性」、とくに日本の企業社会の場合、職場の仲間や上司との人間関係が重要な動機付づけ要因として意味を持つ。自分の努力、苦労、そして成果がが周囲に理解され認められて、社会的承認を実感できることによって、心理的な充足と情緒的な安定が得られる。

例えば思いつくところで例を挙げると、

「チームで新規●件契約したらインセンティブが出る!!」
っていう営業キャンペーンが始まるとしますよね。
もちろんインセンティブのお金欲しくて頑張るんですけど。
うまくこれが機能すればきっとキャンペーンで得られる価値ってもっと大きくて、

・「いやー、新規●件は結構厳しそうだけどやってみるか!皆でがんばろうぜ!」
→キャンペーンの雰囲気に便乗して身の丈以上のチャレンジができる、「有能感」が生まれる

・「契約いただきました!」「すごい、おめでとう!」「あと●件!」っていう、「チームでがんばる」雰囲気が自然と生まれる
→自分がこの組織に所属してるんだ、必要とされてるんだ、という実感の中で「関係性」が育まれていく

上から文脈なく突如降りてきたキャンペーンだとしたらあまりうまくいかないかもしれませんが、「今月の残りの売り上げを追い上げるためにどうすればいいか?」「キャンペーン走らせて新規に集中してみるのはどう?」といった会話が従業員間でなされて自分たちでそれを推進するといったことになれば、まさにそれが「自立性」に繋がりますよね。「自分たちで決めたからにはやりきろう!」っていう。

当たり前だけど、ただ目の前にニンジンぶら下げただけでは人は動かない。
「有能性」「関係性」「自立性」が自然と生まれていくようなシナリオがあって初めて、幼児教育であっても企業での営業推進であっても、それが成功につながっていくんだなと。

仮にこの新規契約キャンペーンがすんでのところで未達成で終わってしまったとしても、組織として残る価値は大きいと思うのです。

なぜなら、「自分はもっと頑張れる」「もっと工夫してみたい」という気持ちで仕事に熱中した経験を皆で共有できて、従業員の間で組織に対する帰属意識が高まるから。何にも楽しくなく、個人プレーで降ろされた目標を死んだ目してギリギリ達成するよりも、こっちのほうが組織として中長期的なリターンが大きそうですよね。

もちろん、お金やインセンティブが何の効力もないというわけではないです。


社会人として働くようになればもちろんその対価としてお金は支払われるわけなので、ベースとしてその水準に対して「満足」とまではいかなくとも「OK」レベルだと感じていることは前提として必要です。実際、「心理学的経営」の中でも、給与や会社の制度といった「衛生要因」はそれによって従業員を積極的に動機づけるというわけにはいかないけれども、一方でそれが他社と比較して条件が悪いと感じると不満につながる(衛生要因はいわば"保障要因"としての役割を果たしている)、と述べられています。

人事として仕事をする中でこのあたりは理解しているつもりでいたものの、こうして改めて子どもも大人も同じ心理学のセオリーが当てはまると分かったことは自分にとって大きな学びになりました。

もちろん組織ごとにいろいろあるけれど、結局人間が何にモチベートされるかっていうのは国籍も年齢もそこまで関係ないんだなと。最近仕事でも色々考えている日々でしたが、改めて原点に返ったような気になりました。

長くなってしまいましたが、読んでくださった方に対して結局何が言いたかったのかというと下記の3つです。

・何によって人がモチベートされるか?は、子どもも大人も大きく言えば同じ。外的なインセンティブの効果はあくまで限定的なもので、本質的には「有能性」「関係性」「自立性」の3つが満たされることによって動機付けされる

子どもだからって、サラリーマンだからって、「ニンジンぶら下げれば頑張る」なんて単純なものではない。必要としているものはみな一緒。

・人や組織を動かしていこうとするとき、このポイント↑を少しでも頭の片隅に置いておくと、幸せに働く人、幸せに学ぶ人が増えていきそう!

個人の読書感想文にお付き合いいただきありがとうございました!

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