Solen springer ud som en rose 【C.Nielsen】《私的北欧音楽館》
YouTubeで、新しい再生リストを公開しました。
ニールセン (C.Nielsen) 作曲 Solen springer ud som en rose
(劇付随音楽「Cosmus」CNW19 /1921年 より)
(仮訳) 太陽は昇る、バラの花のように
YouTubeチャンネル《私的北欧音楽館》としてnoteで初めて紹介するデンマークの作曲家、ニールセンの楽曲が、いきなりマニアックなものになってしまいました。マニアックなゆえか、今のところ動画も2つしかあがってないようです。
もともとはメジャーな歌から順番に紹介しよう、などとも考えていました。ですが、やっぱり、いま一番夢中になっているものについて語るほうが勢いがあるし、また、いま考察していることを記録しておきたい、とも思ったので、そのへんはこだわらないことにします。
さらにいうと、本当にメジャーな歌になると、どうしたらいいかわからないくらいたくさん動画があがっていて、ありすぎてぜんぶ聴けないし、すぐには手がつけられない、という事情もあります。
ニールセンについては、一昨年くらいまでは、情報不足といったほうがいいくらい動画がすくなかったのですが、どうも、YouTube Premium 等々が整備された影響で、アルバムの公式アップロードが一気に増えたようです。
そのせいで、今年に入ってから、ひさしぶりにYouTubeでニールセンを聴いたら、おすすめで新しい動画がバンバン上がってきたのにびっくりした……というのが、この《私的北欧音楽館》というチャンネルを始めようと考えたきっかけでした。
情報過疎は嘆かわしいけど、動画が多すぎてもかえってとまどってしまう、というのは皮肉なものですが、でもまあ、そのおかげで、この Solen springer ud som en rose のようなマニアックな歌とも出会えたわけなので……しばらくは、大量にアップロードされている動画のなかから、マニアックな歌の発掘にいそしむことになりそうです。
デンマーク国内でメジャーな歌については、当面は、記事の中でそれぞれ動画をさしはさみつつ、紹介していこうかと考えています。さらに、参考となるサイトも順次、紹介していきます。
また、今回の記事は、音楽そのものよりも、ふだんどんなふうに調べたり、タイトルを翻訳したりしているか、ということがメインになっています。
かなり長い記事になってしまいましたので、興味のあるところへ飛びながら読むもよし。また、さっそく、有名どころの歌もいくつか埋め込んでいますので、連休中、お時間があるときにお茶でも飲みながら、もしくはふとんの中でゆっくりとお楽しみくださいませ。
・◇・◇・◇・
ダントツで上手すぎる、ニールセンの太陽の描写
せっかく2つしか動画がないので、いきなりひとつ埋め込んじゃいましょう!
舞台裏から歌っているのでしょうか、声が遠くから響いてくるように聴こえます。
若さと勢いに満ちた、神秘的なメロディです。
ニールセンのメロディによる情景描写力はハンパないですが、なかでも、日没や夕暮れ時の描写にはしびれるものがあります。
前回の記事でも上げましたが、地中海の日の出から日の入りまでを描写した「ヘリオス」序曲は、その代表例になります。
歌の方では、例えば、繊細で美しいメロディの Hvor sødt i sommer aftenstunden 。
タイトルの各単語を英語になおすと、
hvor = how
sødt = sweet
i sommer = in summer
aftenstunden = グーグル翻訳の能力を超えた単語
……なのですが、「aften」は「evening」なので、日本語訳するとすれば「なんと甘美に、夏日は暮れゆく(?)」みたいな感じになる思います。
それと、男性合唱の代表作のこれ。
Aftenstemning は、「夕べの趣き」と訳されることが多いようです。
どちらの歌も、歌い上げられる情景がどんなものか、メロディから想像できるような気がしませんか? 歌詞の内容が分からないわれら異国人でも、メロディをたどるだけで情景が立ち上がってきて、楽しめる、それがニールセンの歌の大きな魅力です。
ところで。
もしかして、デンマーク人って、夕暮れ時のなんともいえない情緒が好きなのかもしれませんね。今回は割愛しますが、ニールセンの作った夕暮れ時の歌は、私の把握する範囲ではあと4曲もあります。
これらの歌を聴いていると、日本人は夕暮れ時のもの寂しさにひたるのが好きだけど、デンマーク人は沈む太陽の名残惜しさと、夕暮れ時独特のゆったりとした空気感が好きなのかも……なんて、空想が広がります。
夕暮れの情景については、こんなふうに少なくない数の音楽で描写されています。が、では逆に、「日の出」を描写した作品はあるのか……と疑問に思い、YouTubeをチェックして、ひっかかってきたもののひとつが、この Solen springer ud som en rose でした。
こっち動画の方は、序々に声が大きくなっていって、3番になったら声がいっそう近く大きくなっているのがはっきりわかります。そもそもが劇中で歌われる歌なので、そういう演出になっているということなのでしょう。
・◇・◇・◇・
では、この歌はいったいどういう歌なのか?
さて、こうやってYouTubeでいままで聴いたことのない新しい歌を発見すると、作曲のいきさつや、タイトルをどう日本語訳したらいいか、等々を調べるために、いろいろググり、グーグル翻訳をかけまくることになります。
が、その前に。
まず、真っ先に当たるサイトがこれ↓。
……えーっと、変な文字化けしてますが……「Carl Nielsen 150år (= yesr)」、つまり、ニールセン生誕150年を記念して作られたサイトらしいです。ここにはニールセンの全作品のリストがあります。
これをスクロールして、「VÆRKER (= works)」をポチ。
すると、全作品リスト↓が出てきます。
ちなみに、デンマーク語は、「v」をw に入れ替えると、なんとな〜く、よく似た英単語が思い浮かぶパターンが多いです。
……どうやら、デンマーク独自の文字が化けてしまうみたいです。
それはともかく、このリストにある、全416作品から、当該作品を「目で見て」探すわけです。が、交響曲や室内楽なんかは関係ないので、「歌」で絞り込みをかけます。
このページの、水色の文字の「FILTRER OG SORTER VÆRKLISTEN」をポチると、楽曲ジャンルの選択肢が出てきます。
そのなかの「SANGE MED KLAVER」をポチッとな。
すると、ピアノ伴奏をともなった歌、233曲のリスト↓が出てきます。
ちなみに、「og」は and です。g は読まずに「オ」と読みます。はじめは、読まない g がある、なんてルールしらなかったから、「オグ、ってへんなの〜。オグシオかよ!」って思いながら、オグオグ言ってました。
で、「med」は with 、ピアノは「klaver」で、こちらはドイツ語の影響が見うけられます。
さて、見ていただけばわかるとおり、この作品リスト、曲のタイトルをぜんぶ大文字で綴っていて、しかも極太のゴシックなんです!もう、目にうるさくて、毎回、目当ての歌を探しにくいったりゃありゃしません。
デザインがおしゃれなことで有名なデンマークのはずなのに、このウザさはいまだに解せません。
とくにてこずるのが、日ごろ見慣れていないデンマーク独自のアルファベットです。
小文字だと可愛い「æ」なんか、大文字になると「Æ」と、戦隊ヒーローのバッジみたいに主張の強い文字になっちゃいます。
しかも、当時の表記で書かれているので、現代では「Å」となるものが「AA」となり、これがまた目にうるさい。
これでも、はじめのころと比べたら、なんとなく知っているデンマーク語の単語も増えたし、調査済みでタイトルを知っている歌もそこそこ増えたので、多少は楽に探せるようになったんですが……とはいえやっぱり、そもそもの量が多いので、うっ、となってしまいます。
さあ、これらの困難を乗りこえて全233曲分、タイトルを確かめました。
だけど……
Solen springer ud som en rose がどこにも見つからない!(@_@;)
…………_| ̄|○ il||li…………
……と、いうことがたまにあります。
今回も、自分の見落としかも、と思い、あのリストを2周しました。だけど、やっぱりありませんでした……。
……くそっ……いままでだってこういうことはあったもんね……!
……だ、だから、パターンはわかっているから、大丈夫だもん……
だけど……やっぱり、泣けてくる……
233曲目視で確認した挙げ句でこれなので、精神的な打撃はかなり大ですが、こういうときは2パターンあるのが経験でわかっています。
①歌われているうちに別の歌詞がつけられて、そっちのほうが有名になってしまったパターン。
②劇付随音楽やオペラのなかの歌で、それほど有名でない歌のパターン。
この場合、動画サムネイルの緑のCDのジャケットから、劇場用の音楽、つまりオペラか劇付随音楽かのどちらかであることがわかります。
この緑のCDに希望をつないで、ググります↓。
この曲目リストから、Cosmus という劇の音楽だということがわかりました。
ではまた、150år の作品リストに戻ります。
劇付随音楽のリストはこのページ↓です。
たしかにありました。Cosmus は CNW19です(CNW についてはのちほど。曲タイトルの頭についている数字がそうです)。
さて、未知の歌を調べるにあたり、なぜ真っ先にこの 150år のサイトを調べるかというと、楽譜を見ることができるからです。オペラだって、交響曲だって、全スコアをここで見ることができます。
楽譜は各曲のタイトルをポチッとすると出てきます。
日本ではまず無いですが、ヨーロッパでは、ひとつの詩に何人もの作曲家が曲をつけているケースが少なくありません。ニールセンの歌の場合もそういうのがいくつかあって、いったんは楽譜にあたっておかないと、たしかにニールセンの作品である、と確信をもって断言できないのです。
実際にこんなことがあるんです……
下の動画は、両方とも I skyggen vi vanke (日かげを私たちはそぞろ歩く)という歌です。だけど、タイトルをよく見ると、下の動画は「CNW204」とついています。この「CNW」は「Calr Nielsen works」の略で、いわば、全作品の通し番号になります。
そうか〜、じゃぁ、下がニールセン作曲かぁ……と安心して聴いてみたら、とんでもない。なんと、曲が入れ替わっているんですよ!
もともと知っている歌でしたが、デンマークの合唱団にかくも堂々と間違われると不安でたまらなくなり、楽譜をチェックしてして……やっと安心することができました。
あとは、コメント欄に「間違えてます!」とメッセージをいれてあげたいけど、英語に自信がなくてふんぎれないってのが……。
楽譜はこちら↓。
CNW204 をポチッとしたら出てきます。右半分の楽譜がそうです。
さて、話をもどして……
この Solen springer ud som en rose は、いったい Cosmus 全曲の中の何番目になるのでしょうか……何ページめくったら出てくるんでしょうか……ドキドキします。
すでに、233曲を2周チェックしてるので、探索のための新たなるしんどさを想像すると、ややひるむものがあります……が、意を決して、
ポチっ。
あ、いきなりあったわ!
ありがたいことに、しょっぱなから出てきました。
だけど、この楽譜……ふつうと違って小節の区切りがないです。ちょっとびっくりです。
ところで、この劇付随音楽、そもそも全何曲やねん……ドキドキ。
ペラっ。ペラっ。
あ、2曲で終わり……
これ、ネット上の「1冊」に全劇付随音楽が掲載されているので、うっかりペラペラしてると、どの劇の付随音楽がわからなくなってしまいます。だからきちんと見て、気をつけてないと、楽譜の中ですぐに迷子になってしまうんですね……。
さて、こんどは歌詞を日本語に直したいところですが、残念ながらこの楽譜、コピペできないのでグーグル翻訳にかけられません。
なので、こんどはググってコピペできる歌詞を探します。が、まあ、そもそもがマイナーな存在のニールセンの曲目の中でも、かなりマニアックな歌のようなので、予想通り、なにも見つかりませんでした。
だけど、かわりにこんなモノが見つかりました。
なんとまぁ……Cosmus の台本です!
まさか台本まるごとスキャナして、アップロードしてるとは……
げにも、世界は広いですね。
私みたいな物好きが海のむこうにもいたようです。
万国の物好き、ありがとう!
お互い、団結しようぜ!これからもよろしくなっ!
では、私もどこかの物好きのために、YouTubeでニールセンの歌の再生リスト作るのがんばろう……っと!
ここまで来たら、どのへんで、どんなシーンで、どんなふうに歌われるのか、気になるじゃないですか!
めくります。
当たり前ですが、デンマーク語なので、読めません。
だけど、メロディの雰囲気からすると、場面の冒頭で歌われてそうなので、シーンごとの切れ目を徹底チェックです。
ペラペラペラペラペラペラ………………
意味のわからないアルファベットを見続けるのは結構つらいですが、がんばって台本の91ページに見つけました。
が、これもコピペでグーグル翻訳にかけられないので、歌詞の意味はちんぷんかんぷんのままです。だけど、本気になったらいつでも調べることができる資料がある、というのはめっちゃ重要です。
ていうかですね。
ニールセンを聴き始めた中学生時代には、こんなこと想像もできませんでした。
なんかCDが出たらいいのに〜、そしたら、ライナーノーツに情報があるのに〜……くらいしか、マジで、情報量と情報に接する手段がありませんでした。
それどころか、国内盤のCDすらロクになかったです。だから、NHKのFMをしっかりチェックして、テープに録音して、大事に大事にしてました。
だから、まさか、田舎のおばさんでも、インターネットのおかげでこんなデンマーク語の資料を直接目にすることができるだなんて、夢のようです。
それと、日ごろからこんなことをしてると、英語でも何でもいいから外国語が多少でもわかることは大事だって痛感します。
もちろん英語だって、やっぱり大事ですね。世界に向けて公開されている資料は英語で作文されているし、デンマーク語を解読するときも、やはり英語がヒントになります。
・◇・◇・◇・
では、タイトルをどう訳そう?
歌詞の全部は無理でも、タイトル、というより、実質は歌詞の第1行目なのですが、日本語に翻訳したい。そうでないと、さすがにみなさんに紹介できないし、自分も歌の内容を想像できません。
今回は、動画の方にタイトルの英訳があるので参考にできます。
すると、Solen springer ud som en rose はこうなります。
solen = sun
springer = spring
ud = out
som en rose = like a rose
だから英語だと、「The sun springs out like a rose」といった感じですね。
だけど、ちょっと引っかかるのが、熟語っぽい感じのする「springer ud」をどう日本語にするか?です。
「springer」がタイトルに入った歌から想像していきます。
例えば、Nu springer våren fra sin seng 。
日本語訳するなら「春はいま、寝床からとび起きる」なので、この場合の「springer」は「ぴょん!(・∀・)」です。
「ud」といえば、これ、Ud går du nu på livets vej。
この歌の「ud」には悩まされました。だって、グーグル翻訳にかけると「アウト!君は人生の道……云々」って出てくるんです。
これじゃあ、いきなり人生終わってるじゃないですか!
明らかにメロディの雰囲気と合ってないとわかっていても、グーグル翻訳をあてにしてるこっちとしては、もう、パニックです。
この歌については、以前から勝手に「卒業式の歌」と名付けています。最初に聴いたのがこの動画のこのピアノ演奏で、どう聴いても卒業式の全校合唱にピッタリとしか思えない……。
そんな歌がいきなり「アウト!」で始まるなんて、絶対ありえませんよね!
調べまくったら、「人生の旅路が今、君の前に」という日本語訳が出てきて、あまりの上手さに拍手喝采してしまいした。
もうこの歌の「ud」はざっくばらんに、「飛びだせ、青春!」でいいんじゃないんでしょうか。
さらに、Se dig ud en sommerdag (夏の日、外を見てごらん)もあるので、
「ud」はもう、「アウトかセーフか」ではなく、素直に「外へ!」と解釈するのでよさそうです。
普通にデンマーク語の辞書を買えばこんなドキドキもないのですが……あえてこうやって「蘭学事始」感を楽しんでいます。
それに、辞書を見たとしても、その単語が実際にどう使用されているか、生きた使用感がわからないと上手く訳せないので、あってもなくても変わらんかなぁ、と思っています。
せっかくなので、Cosmus の台本に戻って、Solen springer ud som en rose の2番と3番の歌いだしも確認します。
すると、ありがたいことに、ほぼ、私の知ってる単語ばかりでこうありました。
1番 Solen springer ud som en rose ( = バラのように)
2番 Solen springer ud over havet (= 海の上に)
og dufter i verden ind (= そして、世界中をつつむ大気に)
3番 Solen springer ud alle dagen (= すべての日に)
注)dufter はグーグル翻訳では「香り」「におい」と出てきますが、ここでは文脈的には「大気」と解釈するのがいいんじゃないかと思います。
つまり、「太陽は、バラのように springer ud し、海の上に springer ud し、世界中の大気の上に springer ud し、すべての日に springer ud する」ということになります。
これとかつ、「ぴょん!(・∀・)」で「飛びだせ、青春!」で「外へ!」みたいなイメージを重ね合わせると、
springer ud =「ぽん!(≧▽≦)」
だと思われます。
まいった……われながらどうしよう……という結果です。
だけど、そもそもニールセンがつけたメロディが、もう、ノリが、「ぽん!(≧▽≦) おひさまが生まれたよ!」ですから。きっとこれでいいはず!……と強気で押し切りたいと思います。
いまのところ「ドンっ、となった花火だ、きれいだな〜」的なノリを表現する言葉が見つかってないので、「太陽は昇る、バラの花のように」と倒置することで、雰囲気を出してみることにしました。
だけど、これではメロディの持つ神秘性や喜びや勢い、例えるなら、「ナルニア国物語」の偉大なライオン、アスランが、ナルニア創生時に歌った歌のような生き生きした感じが表現できていません。「人生の旅路が今、君の前に」みたいに、タイトルを見ただけでメロディが聴こえてくる気がするレベルで日本語にするのは、ほんとうに難しいです。
注)「ナルニア国物語」においては、上も下も光もなかった暗黒の世界に、造物主であるライオン、アスランが歌を歌って、大地や太陽や星や精霊たちや動植物を生み出していったことになっています。
「魔術師のおい」が、ナルニアの国生みの物語りです。
みなさま、もしいい言葉をご存知でしたら、教えてくださいませ。
・◇・◇・◇・
このメロディから立ち上がる情景
最後になりましたが、この Solen springer ud som en rose のメロディから立ち上がる世界について記述して終わりたいと思います。
ていうかですね……私があえてデンマーク語に不自由なままでいるのは、理由があります。
歌を聴き込むより先に歌詞の内容がわかってしまったら、言葉に思考が方向づけられてしまいます。そうなると、メロディから浮かび上がるものを純粋に想像できなくなってしまいます。
そうではなく、かろうじてわかる数語から、そして、文章としてまともに成立しないグーグル翻訳から、情景のヒントとなる言葉をひろい、補助線としてメロディから見える世界を膨らませていく……これは、デンマーク語に堪能になってしまってからは絶対に楽しめない遊びです。そのために、あえてデンマーク語に不自由な状態のままにして、上手になるための努力はあまりしないようにしています。
そして、こうすることで、ニールセンの音楽の実力を、より明瞭に感じ取ることができます。
さて、この Solen springer ud som en rose のメロディから見える情景に話をもどします。
そのまえに、もう、どんな歌だったか忘れそう……という人のために、あらためて動画をば。
まず、時は朝。バラ色の朝焼けの時刻です。
ひとりの若者が、東の空を見て、
朝焼け、すげーぞ!うぉーっ!
とかと感動しています。たぶん、オレ史上最高の感動です。
で、感動のあまり、思わず大きく息を吸って、そのまま止まってしまう。
そして、次に息を吐き出したときに、
Solen springer ud som en rose!
呼気とともに、自然に、そう言葉が出てきた。
日本語にするとこうです。
おひさまぽん!生まれたよ、バラのように赤く。
……いやいや、ふざけてませんってば、かなり本気です。
ふつうなら、「おひさまぽん!」ではなく、「太陽が」とか「日はのぼる」「昇る陽よ」とかするところです。
だけど、考えてみてください。Solen springer ud! とのびやかに上昇する音程の頂点を、ニールセンは「ud」と定めたんです。音の並びのすべての上昇エネルギーがこの「ud」に集中し、「ud」という外にむけて開く言葉の作用でぱっとはじけ、自ずと輝きを発し、広がっていくように仕組んだんです。
その音に「が」という助詞を、もしくは「る」という動詞の終止形を重ねても、語自体に力は無く、メロディのエネルギーをそいでしまいます。詠嘆の「よ」なら、そもそもが余韻を表現するための語なので、こちらの方がまだアリです。だけどそれでも、「ぽん!」のひとことの生命力には敵わない。
もうひとつは、メロディ自体にただよう、愛すべきつたなさです。
このメロディは、いざ、口ずさもうとしたら、どことなくとらえどころがなく、とまどってしまう、なかなか現代的な節回しであります。
にもかかわらず、素朴であたたかく、なんだか誰でも簡単に歌えてしまいそうな気がします。
たぶん、この若者は、文学の心得なんかなく、それこそ万葉集の東歌のように、素朴に思いを表明するしかできないのでしょう。
若者が、だれにきかせるともなく、早朝の静けさの中で、わかりやすい率直な言葉でひとりごとを言っている……ニールセンが楽譜を小節線で区切らなかったのは、これは実は歌ではなく、ひとりごとだからではないかと、私は推測します。
ところで、台本をみると sunget af en ung mand (若い男が歌っている)と、私にもわかるデンマーク語で書いてあります。だから、「ふとひとりごとを言ってたら、思わずいい感じの鼻歌になっちゃった」というのが、このメロディの正体だと思われます。
歌い手への指示にも、
Slowly and meticulously in accordance with the words
ゆっくりと、そして細心の注意で言葉にしたがって
(デンマーク語の方の日本語訳はお手上げなので、英訳された方を掲げています)
と「言葉に寄り添う」ことを求めています。それだけでなく、実際に、1番も2番も3番も、言葉にあわせて節回しを変えています。これは、私の知る範囲では、ニールセンの歌では、まずないことです。ニールセン自身も、言葉に寄り添ってメロディを組み立てた、ということなのでしょう。
だから、この歌は、めっちゃメロディアスだけど、気持ち的にはレチタティーヴォ、つまり「歌化した語り」なのだと思われます。
さて、私は先にこの歌について、「ナルニア国物語のアスランが……」とでっかい事を書きました。上に述べたことは、それとは一見、矛盾するように思えます。
しかし、若者が感じた感動は、間違いなく世界がとよむような偉大な感動で、ただ、彼は、それにふさわしい語彙も表現もあまり知らなかっただけ。もし、柿本人麻呂を知っていたら、
ひむがしの野にかぎろひのたつみえて
と口から滑り出していたような気がします。
ついでながら。
Solen springer ud som en rose と色鮮やかな日の出を歌っているにもかかわらず、このメロディは、未だ日は昇らず、世界は太陽というものを今日初めて知るのだとでもいうように、この若者が、世界に初めての日の出を呼び寄せる神託を歌っているかのようにも聴こえます。
ヘッダーの写真を選ぶときも、太陽がまんま写っているものはしっくりきませんでした。
で、結局、御来光を待つ朝焼けの写真を選びました。
この投稿を仕上げようと下書きを開くたびに、真っ先にこの写真が目に入るわけなんですが、タイトルと写真の響き合いが絶妙で、毎度毎度、写真から Solen springer ud som en rose! と歌声が聞こえてくるような気がしていました。
写真を投稿してくださった uta9さん、本当にありがとうございます。
だからなのか、もしこの歌に続いてながれる曲があるとしたら、Tågen letter (霧が晴れていく)ではないかと感じています。これもニールセンの劇付随音楽の1つなのですが、長らく国土を覆っていた魔法の霧が晴れていくシーンで使われているそうです。
若者の歌に導かれ、霧が晴れた国土に、ひかたぶりのバラ色の朝日がさす……もう完全に二次創作入ってますが、そんなシーンすら目に浮かびます。
実を言うと、Solen springer ud som en rose の出どころがわかる前は、「もしかしたら2つとも同じ劇の曲で、そういうつながり方もありだなぁ……」なんて妄想してました。
情報がすくないって、こんなふうに、逆に楽しいんです。
以上のように考えると、ニールセンの書いたメロディは、「アンパンマン」の作者、やなせたかしの書くメルヘンのような、平易でかつ、物事の真実を突いた、ひらがな多めの語りを求めていると考えられます。
その要求に対して「おひさまぽん!」はかなりいい線を行っているのではないかと思っています。だけど、いざ、誰かに歌ってもらうとなったら……変な汗が出てきそうです。
もし、やなせ先生なら、どんな歌詞をつけたでしょう……そんなことを想像したりもします。
ついでに。
デンマーク語の響きを活かした翻訳については、日本語は英語より有利だと思われます。
デンマーク語の「そーれん [すぷ]りんがーう、そーみん ろーせ」(私の耳には、こんなふうに聞こえます)という明朗ななだらかさは、英語の「ざ・さん [すぷ]りん[ぐす] あう[と]、らい[か] ろー[ず]」という音では再現しえません。
試みに無声音を[ ]でしめしてみましたが、英語は無声音だらけで、それが語調を屈曲の多いものにしています。さらに、太字で示した音に力が入り、どうしてもそこで、ブツッ、と切れ、音の流れが寸断されます。それは、デンマーク語の流れに寄り添ってニールセンが定めたメロディを不自然に区切るということと同義です。
だけど日本語の、たらたらたら〜、とした流れと響きは、母音多めのデンマーク語とよく似てます。全体的に明るい音声が多いことも似ています。
日本語ならニールセンのメロディを殺さない翻訳は可能だと思います。
あー、だけど……ニールセンなら、「日本語版なら、メロディはこう変えるから、よろしく!」とかしそうだなぁ……
最後に。
こんなふうに大きく話をふくらませましたが、がんばって歌詞を翻訳した結果、メロディから感じとった想像がみごとにハズレた、ということも無きにしもあらずでして。最初の想像が180度ハズレた経験もあります。
だけどそれもまた楽しい。「ここにはこう書いてあるから、解釈はこう」というのは、専門家におまかせします。ていうか、そもそも日本にはニールセンの専門家っているんでしょうか?
専門家空白のいまだからこそ、空想の翼を羽ばたかせて楽しみたいと思います。
デンマーク語に堪能な方、もし、決定的勘違いを発見したら、教えていただけると幸いです。
次回はこちら↓。
記事は毎回、こちらのマガジンにおさめています。
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いま、病気で家にいるので、長い記事がかけてます。 だけど、収入がありません。お金をもらえると、すこし元気になります。 健康になって仕事を始めたら、収入には困りませんが、ものを書く余裕がなくなるかと思うと、ふくざつな心境です。